☆4.4
『パッドマン』の監督、『ミッション・マンガル』の脚本、『マダム・イン・ニューヨーク』のプロデューサーであるR・バールキ監督、さすがである。 伝統的な家に嫁ぎ、夫と義父の世話を延々とする妻の厳しい“現実”を描いた映画『グレートインディアンキ… 続きを読む
『パッドマン』の監督、『ミッション・マンガル』の脚本、『マダム・イン・ニューヨーク』のプロデューサーであるR・バールキ監督、さすがである。 伝統的な家に嫁ぎ、夫と義父の世話を延々とする妻の厳しい“現実”を描いた映画『グレートインディアンキッチン』と真逆の一つの“理想”を描いた本作。社会に蔓延る伝統的家族観ではなく、自分たちの望む家族の形で生きていくと決めた若き2人の紆余曲折と堂々たるイチャつきっぷりを堪能できる。お互いがお互いを好きすぎて可愛い。 このイチャつきのおかげか、後半はキアが不安定で怒りっぽく、カビールからすれば許せないのではという深刻な被害妄想と罵りがあっても「まあ腹割って話せば大丈夫だろ」という謎の安心感があった。 そもそもキアの苛立ちや悪態はカビールを嫌ってではなく、自身のキャリアに重大な影響を及ぼす妊娠の可能性や周囲の反応に影響された嫉妬が表に出たものだし。 性的同意は妊娠の同意ではないし、妊娠したらパートナーにどんなに理解と協力があっても100%負担は女、という事実はどうやっても変えられない。(※ここでリスクが不平等な上に経口中絶薬も手に入らない国で「女も楽しんでたくせに」などと不平等にアクセル全開で加担する人はお相手の為にもやらん方が良いし口を出す資格もない。女も安全にできるようにしたら良いだけである) その上でカビールのような男性がいれば良いね、結局どれだけ相手を愛しているかどうかだね、と個人や家庭の問題に矮小化されがちな仕事と家事の分担を、男性中心社会に基づくジェンダーロール(性役割)の問題だと描いたところが良かった。 専業主夫になりたいカビールに「食わせてもらうの?」と投げかけるキアの母にカビールは言う。 「女なのに心は男ですね」 専業主夫のカビールを求めたはずのキアも同僚に夫の仕事を聞かれると専業主夫と言えず嘘をついてしまう。カビールは問う。 「僕が恥ずかしいのか?」 カビールの言葉は男性中心社会を批判する女性自身もそんな社会のジェンダーロールを内面化しており、男性にステレオタイプな男らしさを求めている事を鋭く指摘する。 「君も臆病だ。野心がない男と結婚する勇気がないのか」 「仕事は『仕事』であって『男』の役割ではないし、家事は『家事』であって『女』の役割ではない」まじそれYES! また、物語冒頭から最後まで何度も用いられる、一度見せた出来事を立場や構図を入れ替えて描く表現と合わせて見ると常に「これ、男女逆なら違和感あった?」「周囲に認められるようになったり家事が疎かになった妻を僻む夫って聞いた事ない?」と問われているようだった。ぜひ自問自答しながら観たい。 「新婚初日に家にいなくて良いのか?」 「あなたも初日の会議に出たでしょ」 「女に仕事の話は通じない」 「同感だわ、男に仕事の話は通じない」 もう作中ずっと「それ!」「わかる!」のオンパレードで膝を打ちすぎてパーカッション状態である。スーツに赤いハイヒールで踊る夫のカビール、スーツにハットと革靴で踊る妻のキアという最後までジェンダーステレオタイプのに抗う痺れるエンドロールを観ながら共に軽快なリズムを刻みたい。