謎めいた過去とは?
謎めいた過去を持つプロのカード・プレイヤー、ウィリアム・テル。人付き合いは避け、目立たぬよう心がけながら、身過ぎ世過ぎのカード・プレイのために、彼は転々とあちこちのカジノを渡り歩く。大儲けではなく、ほどほどで切り上げるのが彼のカード・プレイ… 続きを読む
謎めいた過去を持つプロのカード・プレイヤー、ウィリアム・テル。人付き合いは避け、目立たぬよう心がけながら、身過ぎ世過ぎのカード・プレイのために、彼は転々とあちこちのカジノを渡り歩く。大儲けではなく、ほどほどで切り上げるのが彼のカード・プレイの流儀だ。 彼は自らの過去の行為による重荷を背負っており、それは「永遠に取り除けない」と彼はノートに記す。刑に服したのちも、取り除けないのだ。それが何であるかは、徐々に明かされていく。 目立たぬように振る舞いながらも腕の立つ彼に目を留め、金儲けを持ちかける女リンダと、たまたま立ち寄ったある男の講演会場で彼に声をかけてきた若者カーク。この2人との出会いが、彼のなかに眠っていた何かを呼び覚ます。若者は父親の仇を討ちたがっていたが、その父親はウィリアムのかつての同僚だった…。自分のためにならないから仇討ちなどやめろ、とウィリアムは若者カークを諭す。 それまで固く守ってきたポリシーを変え、人目につくことも辞さず、ウィリアムは若者カークを引き連れ、リンダの協力のもと金儲けのためのカード・プレイに転じる…。何のために…?かつての同僚の息子である若者カークに仇討ちなど諦めさせ、まとまった金を用意することで、若者にもっとまともな人生を歩ませるために…。 ウィリアムの謎めいた過去は、米国の国家としての汚辱の過去と重なり合っている。個人で背負い続けるには重すぎる過去である。勇気を出して声をあげるべきではないか…。 個人的には、一昨年の秋頃、実話に基づく『モーリタニアン』を観たときから、ひとつの大きな疑問が生じ(主人公のモーリタニアンでも、彼の弁護を引き受けたナンシーでもなく、上からの命令で国際法違反の非道の限りを実行した無名の脇役たちは、その後どう生き延びうるのか?加害を強いられた者たちにもトラウマが残るのではないか?)、こういう映画の登場を待っていたように思う。が、この作品にもチラリとその映像が出る国の最高責任者たちは、何の責任もとっていない。米国は日本とは違うと思っていたのだが…。 この作品を米国現代史についての、ハリウッド版ひとつの思想的重要ステップと見なしたい。