☆3.7
カティが凄腕シェフとして異世界転生的な救世主になってバッサバッサと問題を解決していくのではなく、料理の力をプロボノ的に使うことを通して一人の人間として成長するとともに、自身のルーツにあった孤独を克服していく姿が良い。 (※プロボノ:「公共善… 続きを読む
カティが凄腕シェフとして異世界転生的な救世主になってバッサバッサと問題を解決していくのではなく、料理の力をプロボノ的に使うことを通して一人の人間として成長するとともに、自身のルーツにあった孤独を克服していく姿が良い。 (※プロボノ:「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動) 挫折を味わった者、打開策が見つけられず行き詰まる者たち(個人的に俳優志望の女友達ファトゥがクール&パワフルで、カティとのやり取りに皮肉が満載で大好き)が協力と工夫を重ねて立場の弱い少年たちの夢を支えていくという王道のサクセスストーリーながら、料理と移民の自立を組み合わせたテーマが良かった。 料理を通して言葉や表現、数学を学び、勉強が「生きる知恵」として繋がるシーンは、子どもたちが動物の世話を通して植物の分類(理科)、小屋の建設(図工)、意志決定(学活)、生殖の仕組みの調査(保健)を学ぶドキュメンタリー番組『もう一つの教育~伊那小学校春組の記録』(是枝裕和,NONFIX,1991制作)を思い出した。 一方で多くの場面が施設を中心に限定されているため、もっとも彼らが「異物」として実感するであろう社会での扱われ方の描写と、少年一人ひとりのキャラクターの掘り下げが浅かったように感じた。この子たちはどんなルートでこの地にたどり着き、どんな部屋で、どんな一日を過ごすのか、これまでこの国でどんな経験をし、どんな言葉を掛けられたのか、一つ一つの要素をもっと丁寧に描写してほしかった。 また、18歳までに就業・就学しないと本人の意思に関係なく国外退去になってしまう制度の面や言葉がわからないだろうとギュスギュスを悪気なく子ども扱いするシーン、テレビ向きでない「移民レストラン」に及び腰になる男性司会者の姿は描かれるが、明らかなヘイトスピーチやゼノフォビアは描かれない。終盤の料理対決番組の野次馬や観客たち一般市民は移民である彼らの奇策を笑顔で見守っている。 しかし、表立って言葉にしなくとも薄っすらと外国人・移民に対する嫌悪感や不信感を持った人も決して少なくない現実の残酷で厳しい面が描かれないとリアリティが薄くなって駆け足なご都合感が強くなりすぎてしまったと思う。(2023年6月27日にフランスでアルジェリア系移民の17歳の少年が警察官に射殺された後、極右メディアのコメンテーターが立ち上げた警察官を支援する募金に4万人、1.5億円以上が寄付したことも皮肉な現実だ) アフリカからベルギーへ難民として渡ってきた12歳のトリと17歳のロキタの二人の生きづらさや逃げ場のない搾取の日々を描いた『トリとロキタ』のように「苦味」という隠し味もあってこそ、本作の大団円をより甘美に味わえたのでは。 《余談》 天ぷらってフランス語でも「テンプラ(Tempra)」なんですね。由来といわれるポルトガル語の「テンポーラ(Tenporas)」や「テンペーロ(Tempero」」ではなく。タタキも「タタキ(Tataki)」だった。 パンフレットには移民の定義、フランスの学校制度、教育・職業訓練学校、料理の用語など載っている。 (字幕翻訳:星加久実)