約束の月と日
※本文にネタバレがあります ネタバレを読む
アニメしか見てないがアニメよりはハッピーエンドに思えた。アニメ見た時はもっと絶望的な終わりだったように思うけど、前向きな終わりになっていて映画化によってまた作品性が変化したように思う。 それでもストーリーの本質は変わらず、小学生の頃の初恋が大人になっても生き続け、未来へとつながる時間の流れを丁寧に感傷的に描き出す。 中学生からすれば栃木と鹿児島に離れ離れとなるのは一生の終わりに感じるだろうし、電車遅延で19時に着かないのがわかった時は絶望だよね。それでもお互い信じ合って一晩だけ一緒に過ごせた思い出が2人の行く末を大きく変える。 明里が貴樹を見送るときに2人は決定的にすれ違った。明里は想いを綴った手帳を渡さず、"きっと大丈夫だよ"と伝える。明里はもう一生の別れとなると思って私がいなくても大丈夫と伝えたが、貴樹は"また手紙書く"と返し、明里の気持ちは全然伝わっていない。明里からすれば終わりで、貴樹からすれば始まりだった。 高校時代、花苗からは掴みどころのないミステリアスな深い人だと思われ好意を寄せられるが、貴樹はそれを歯牙にもかけない。貴樹が自分のことを好きではないことを悟った花苗は涙をこぼす。 社会人時代、同僚であり彼女でもある水野さんからも私と一緒にいるの楽だけど楽しくないよねと、ずるいよねと、そう言われてしまうほど貴樹は水野さんとの心の距離は遠く離れていた。 貴樹は明里を喪失したまま、その穴を埋められずに大人になった。雪の降り積もる桜の木の下で交わしたうろ覚えの約束が頭の片隅にずっと残っている。 出会えそうで出会えない2人は運命的な再会を果たすようにも予感させる。だが、2009年3月26日にまた貴樹はあの桜の木の下に行くが明里は現れない。 踏切でも明里の影に後ろ髪を引かれるが、そこにも明里はもういない。16年の月日が経ちようやく貴樹は初恋に区切りをつけて前へ進む。 明里も貴樹も2人で過ごした日々は、月や桜、雪を見ることで思い返され大人になってからも消えることはない。ただ、2人にとってそれは思い出の在り方が違っていた。 遠くに輝く星のように、打ち上げられたロケットのように、手から溢れる花びらのように、溶けてなくなる雪のように、眩しい過去はもうそこにはない。 それでも、誰かを想った日々がこれからをつくる。 アニメではもっと貴樹がクズな男で、どっちつかずの態度をとりながら好きになってくれる女性を傷つけて回る人間としてみえる。実写版では松村北斗が貴樹を演じているから綺麗な話に見えるが、やっぱり貴樹はちょっと普通じゃない。小学生の頃の初恋を30歳まで引きづるのは正直気持ちが悪い。 自分から明里に会いにも行かず、探すこともせず、すれ違っちゃったけど一途に想い続けた人がいい思い出になりました。なんてナルシズムがすぎる。明里が貴樹に会おうとしないのは既に婚約者がいるからであって、ワンチャンあるかもと思う貴樹は心底甘い。花苗も水野も貴樹に翻弄されて傷つけられているし、あまりに無責任で自己中心的でひどい自己陶酔。 ストーリー自体がとても男性目線的で男性の一部は猛烈に共感できるためアニメも鬱アニメだなんて言われた。 かくいう私も他人事ではない似た状態なので貴樹のように自己憐憫に浸る気持ちもわかってしまう。 そういう意味では今作もとても解像度高く貴樹の内面を描き切っている。自分が世界の中心となるのは心の中に限った話で、他者にひけらかすようなものではない。底知れない深さがあるのではなく、何もないのだ。空っぽだから何かあるんじゃないかと思えてしまうだけだ。そんなことはわかっている。わかっていても縋ってしまう。過剰な自己愛だと言われればそれまでだが、世界と繋がっているという感覚が自分を自分たらしめている。 今回の実写映画化によって、男女の恋愛に対する価値観の違いや時間の経過による思い出への昇華などアニメと共通する点も描かれつつ、明里の心情の変化や貴樹の仕事についても描写がされたことでより作品全体が多面的になり、マイルドな仕上がりになったように思う。それにキャストもハマり役が多く、特に女性陣は見事な配役だったと思う。貴樹のような私たちが好きになってしまうような可憐さがあった。(そういうとこ) 花苗や水野に対して貴樹は優しそうに振る舞っているが、その実はとてもグロテスク。気があるのかと思わせる思わせぶりな態度をとっておきながら恋愛的な感情は持ち合わせておらず常に心ここに在らずの無関心な様は彼女たちにとってみればとても残酷。 でも、主人公からすれば美しい物語だろうし、作り手としても憑き物が落ちたように過去を昇華させられたことを成長と考えている。本作では一人ひとりが次に進んでいることもわかるストーリーになっていて、最後にずっと過去に取り残されていた貴樹も未来へ進むことができてよかったと思えるラストだったが、冷静に考えてみればバッドエンドだとは思う。 だって松村北斗じゃなかったら30歳で拗らせに拗らせた独身男なんて目も当てられない…。 でも、そんな現実を考えさせないくらいに綺麗な映像で包み込まれていた。俳優陣はもちろん、ノスタルジックなシーンが多く盛り込まれていて目を引くカットがたくさん差し込まれていた。 上手くまとめられないけど、客観的にみればとても共感できない主人公の自分語りが続く作品。でも、どうしようもなくそれに惹きつけられてしまう自分が恥ずかしく、悲しく、そして幸せだとも思ってしまった。