悪を前に沈黙しないこと
神学者として名高いディートリッヒ・ボンヘッファーが、一牧師としてどのようにナチスドイツと闘ったかを描いた、心揺さぶられる力強い作品。 ナチスドイツ絡みの映画はたくさん観てきたが、当時のドイツのキリスト教の教会や聖職者たちとナチズムの関係を描… 続きを読む
神学者として名高いディートリッヒ・ボンヘッファーが、一牧師としてどのようにナチスドイツと闘ったかを描いた、心揺さぶられる力強い作品。 ナチスドイツ絡みの映画はたくさん観てきたが、当時のドイツのキリスト教の教会や聖職者たちとナチズムの関係を描いた作品は、初めて観る気がする。 映画は、幼年期のエピソードから始まり(兄との死別、託される聖書)、神学生として米国の神学校に留学していた頃(生きた信仰と人種差別を知る)、その後ドイツに戻り牧師となりナチスドイツと闘う日々(その間に再び米国と、対ナチス闘争の協力を仰いで英国に赴く)、逮捕(ユダヤ人をスイスに逃したことと、ヒトラー暗殺を企てた国防軍将校たちとの交友が発覚して)されたあと、という時系列で進行していく。(時系列が多少シャッフルされているものの、さほど理解しにくいことはない。) ヒトラーが早くからキリスト教の教会を抱き込んでいたことは、あまり知られていない。教会の十字架を取り払って鉤十字に置き換えたばかりか、聖書を改竄し、キリストをアーリア人に書き換えたとは、唖然とするばかり。 教会はキリスト教徒にとって日常の一部であると同時に、精神的な支柱でもあるのだから、それがナチズムに簒奪されることの影響は計り知れない。しかし多くの聖職者たちは、その簒奪に立ち向かうことができなかった。(ボンヘッファーとニームラーが立ち上げた反ナチスの牧師緊急同盟への参加者は全牧師の1/3だったと言われ、その後結成された告白教会も常に劣勢だったと言われている。) 永世中立国のスイスが隣国ドイツのユダヤ人迫害に、どのように対応していたのか、も驚きだった。 ボンヘッファー家で話されるナチスがまさか政権を獲るとは予想できなかった話も(トランプが最初に大統領になったときと似ていて)学ばされるところ大きいし、この映画には、これまで知らなかったことがいろいろ描き込まれていて、それらいずれも興味深く、学ばされる。 今の世界の動向を思うと、ボンヘッファーの生き様が伝えるメッセージは重い。上映館が少ないけれど、ドイツ人の俳優たちが好演しているのに、制作がドイツでないせいかドイツ語が使われてないのが欠点ではあるものの、多くのひとに観てもらいたい作品です。 【付記】 神学者としての側面は殆ど描かれず、ナチズムと果敢に闘った牧師としてのみ描かれているので、ボンヘッファーに詳しいひとには不満があるかもしれない。が、映画は(ボンヘッファーを知らないひとも含め)一般向けに作られるものなので、まあ、これはこれでいいのではないかと個人的には思います。