芸術家の魂
久しぶりの観応えある映画だった。芸術家を描いた作品は数多あれど、多くは、その生涯や或る特定の時期をなぞるように描いたものが大半だ。が、この作品は、モディリアーニの生涯の一部や全体をなぞるのではなく、芸術とは何か?芸術家とは何か?をモディリア… 続きを読む
久しぶりの観応えある映画だった。芸術家を描いた作品は数多あれど、多くは、その生涯や或る特定の時期をなぞるように描いたものが大半だ。が、この作品は、モディリアーニの生涯の一部や全体をなぞるのではなく、芸術とは何か?芸術家とは何か?をモディリアーニの苦しみに仮託して描いていて、とても観応えがあった。芸術とは?芸術家とは?という問題に、これほど肉薄した作品は滅多にない気がする。素晴らしかった。 舞台は第一次世界大戦下、空襲警報や砲声が日常と化している1916年パリの、とある3日間。反発と反抗心と悪ふざけで、警察に追われる身となったモディは、パリを離れ故郷に帰ろうかと思う。が、君の絵に関心を持っているコレクターがいると、画商ズーボに引き留められる。2日待ってようやく当該コレクターのガニャと顔を合わせることができたモディだったが、そのコレクターの口から出た言葉は、モディを崖から突き落とすような彼の作品を貶める言葉だった…。 このコレクターのモーリス・ガニャを演じるアル・パシーノが(『殺し屋のプロット』に引き続き)とても良く、このガニャとモディの緊張感みなぎる対決場面(⁉︎)はこの作品の白眉!しかしそれ以外にもモディと当時の恋人ベアトリスとの対話や、友人のスーチンやユトリロとの会話など、芸術とは?という問題をめぐる対話があちこちに散りばめられており、それだけでももう一度この作品を観たくなるのに充分な興味深さだ。 モディの友人、飄々としたユトリロとロシア語訛りの無垢なスーチンも楽しませてくれるだけでなく、絶望に陥ったモディを見守るスーチンの言葉にはこちらの胸が熱くなる。同じ道を歩む者だからこそ、モディの苦しみが理解できるのだ。 1916年と言えば、戦争の歴史と世界を変えた第一次世界大戦が始まって2年目。死者70万人超えの仏独のヴェルダンの戦いや死者100万人超えの英仏独のソンムの戦いがあった年であり、ツェッペリンがパリを初めて空爆した年であり、またチューリッヒでトリスタン・ツァラたちによってチューリッヒ・ダダが結成された年でもあった。つまり破壊と死と荒廃が跋扈する激動の時代であったのだ。 時代の空気を最も敏感に感じ取るのは芸術家だ。戦争が、破壊と死と荒廃が間近にあるような場所で、芸術家は何を生み出し得るのか?激動の時代を生きる芸術家が背負うものの重圧は、限りなく重たいものであっただろう。 しかし時々モノクロ早回しで挿入されるサイレント映画のようなシークエンスが、軽妙で快く、なかなか良かった。早回しなので喜劇的効果を醸し出し、全体が重苦しくなりすぎるのを防いでいる。(それが脚本によるものなのか、演出によるものなのか不明。) 元々は舞台用の作品だったものを、アル・パシーノがジョニー・デップに監督するよう薦め、実現した作品だという。確かにジョニー・デップに相応しい。が、彼が主演した幾つかの作品同様、この作品は観るひとを選ぶと思う。作品への理解が得られぬ苦しみと貧困のなかで短い生涯を終えたモディリアーニそのひとのように。(その後ジャンヌと出会えたことが救いだとしても。)