傷を負った国の内側で
副題から腰が引けそうになるのだけれど(痛ましさを予想して)、『大統領のケーキ』でフセイン政権下のイラクを垣間見れて良かったので、その後のイラクを知りたく、こちらも鑑賞。ニュースではわからない現実を伝えてくれ、観て良かったと思いました。 … 続きを読む
副題から腰が引けそうになるのだけれど(痛ましさを予想して)、『大統領のケーキ』でフセイン政権下のイラクを垣間見れて良かったので、その後のイラクを知りたく、こちらも鑑賞。ニュースではわからない現実を伝えてくれ、観て良かったと思いました。 イラク戦争(ブッシュ政権による米軍主導のイラク侵攻と占領)末期の2009年。フセイン政権は崩壊し、スンニ派とシーア派(&クルド人)の対立激化、米軍占領もまだ続いている時期のイラクが舞台。バグダッドに住むサッカー好きの少年ハムディは、米国の民間軍事会社ユニティと反政府軍の衝突に巻き込まれ…。と、物語は始まります。 主演のハムディ少年役のアフマド・モハメド・アブドラ君が素晴らしいのですが、彼自身5歳のときにISの爆撃で片足と父親を失っているそうです。驚くのは、その主役を務めるハムディ役のオーディションに100人以上もの少年が集まったということ。片足失った少年がそんなに集まるとは…。 片足失っても、ハムディ少年のサッカーへの夢と情熱は失われない。そしてそれを大切に守ってあげようと奮闘する父親の愛。分断と対立と戦禍の世界のなかで、サッカーは子供であるハムディ君にとってだけでなく大人である父親にとっても、かけがえのない唯一の希望であり夢であるのでしょう。 『大統領のケーキ』を観たとき、タイトルから予想されるより辛口の世界に目が開かれる思いがしましたが、この作品を観ると、そんな『大統領のケーキ』でさえ甘口だったと思われるほど、踏んだり蹴ったりの荒れ果てた傷深い世界で、フセイン政権下とフセイン政権崩壊後で、かくもイラクの状況が変わるとは…と、絶句する思い。ブッシュ政権の罪は重い。 が、ハリウッド映画で「敵国」としてしか描かれないイラクやイランは、昔のハリウッドの西部劇でネイティブ・アメリカンの人々が「敵」としてしか描かれなかったのと同じ。イラクに住むイラクの人々の目線ではどのような世界が見えているのかは、イラクのひとでないと描けない。たとえ辛口であろうと、米国に蹂躙される国に生きる普通の人々の物語を、もっと観たいと思いました。