信じるか信じないかはあなた次第です
「これは脚本じゃない。あるのは現実世界なんだ」 午前十時の映画祭14にて鑑賞。 視聴率不振のため降板が決定した落ち目のニュースキャスター・ハワード(演:ピーター・フィンチ)は、降板2週間前の放送で番組内での自殺を明言する。放送直後に殺到し… 続きを読む
「これは脚本じゃない。あるのは現実世界なんだ」 午前十時の映画祭14にて鑑賞。 視聴率不振のため降板が決定した落ち目のニュースキャスター・ハワード(演:ピーター・フィンチ)は、降板2週間前の放送で番組内での自殺を明言する。放送直後に殺到した抗議によって即解雇となったハワードだが、彼の親友で報道部門の責任者マックス(演:ウィリアム・ホールデン)は、解雇の前にもう一度だけハワードを出演させる。するとハワードはその場でメディアの欺瞞をぶちまけ大反響となる。これに目をつけたプロデューサー・ダイアナ(演:フェイ・ダナウェイ)は、ハワードを預言者に据えたTVショーを企画し、視聴率は鰻登りとなるが...。 身につまされる。以前から都市伝説はいくつもあったが、それはあくまでも都市伝説であって意思決定に影響することはなかった。だがコロナ禍のあたりから陰謀論なるものが世間では台頭し、見過ごせないレベルで勢力を増してきている。情報の精度よりも鮮度が一層重視されるようになって、まともな人間なら少し立ち止まって考えれば「おかしい」と分かることでさえ何百万人という数の人間が大真面目に信じるようになった。劇中、ハワードに煽られた大勢の視聴者が窓を開け、雷雨の夜空に向けて怒りをぶちまける場面には戦慄した。この時、局の方針に異を唱えて解雇されたマックスは自宅の窓からこの様子を見ていた。この場面に限ればマックスが正しいのだが、多勢に無勢で、煽られた民衆を止めることは彼にはできなかった。 そしてフェイ・ダナウェイである。この物語の主人公はあくまでもハワード・ビールだが、どちらが主人公か分からないくらい彼女が作品を喰っている。「メディアにとって大切なのは真実よりも数字」という彼女の姿勢はまさに"宣伝の悪魔"ヨーゼフ・ゲッベルスそのものである。資本主義の一丁目一番地に身を置くダイアナと国民"社会主義"を売り込んだゲッベルスが全く同じ結論に辿り着いたことを考えると、終盤に大株主の会長がハワードに話したことが真実味を帯びてくるあたり、話がぶっ飛びながらもよく作り込まれた脚本だと思った。 数字に取り憑かれた人々が行き着いた病的なラスト。「用済みになれば捨てられる」のが資本主義ビジネスの摂理とはいえ、この選択は絶対にあってはならない。しかし、当事者たちにはその善悪を判断する理性すら残されていなかったと思うと、もうとてもとてもTVの電源を点ける気にはならなくなる。公開から50年近く経ってなお、ますます毒気を強めている名作。