管理職
starstarstarstarstar - 1年前
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やられた。完全に抜けてた。
オチが途中でわかっちゃう人もいそうだけど、キリスト教、教皇、コンクラーベとかに関心があればこそ持っている先入観が強く、性別という視点がすっぽり抜けていた。だって男が選ばれるのは大前提だと思っちゃうじゃん。
ベリーニが仲間内に方針を伝えるシーンで女性という言葉が登場し、ベリーニが女性の立場も含んだ候補者だと勝手に理解してたし、身の回りの世話をするシスターが何カットも差し込まれることで女性の候補者という可能性を排除して見てた。
(女性ではなく両性具有だとする見解もあったが、ポイントは男性性ではなく部分的にでも女性性を有する人が教皇になるという事だと思うので、いずれにしても性別という点に焦点が当たっているのは間違いない)
アデイエミが女性スキャンダルで脱落し、
トランブレが買収などの計略で脱落し、
テデスコがラディカルな方針で脱落し、
最後にローレンスが持っていく展開かと思い込んでいた。
何より、レイフファインズが一番教皇顔だったし。
キリスト教を取り巻くいろんな課題がもりもりな映画だった。酒やタバコは当たり前に、セクシャルスキャンダルが予想通り登場し、イスラム教との宗教戦争という言葉まで飛び出すほどに困難な状況にあるキリスト教を見事に描いていた。そして、最後に聖域である性別にまで話が展開するのはちょっとやり過ぎな感じもするけど、それくらい"戦争"なのだとわかった。
特定の候補者支持する説教をして、自らシスターに候補者の疑惑を確認し、こっそりネットで情報を入手し、教皇の居室の封まで破る姿は教会を正しく導こうとする姿で野心は本当になかったんだろう。そして主席枢機卿という役割を全うしようとするローレンスが選択肢が減っていく中で次第に決意が固まっていく、かと思いきや最後の演説で流れが一気に変わり新教皇が誕生する。
コンクラーベの進行役として準備をするのはもちろん有力候補の対応に苦慮し、教皇庁のことも考えながら、自身も候補者の1人としての立ち振る舞いを求められる。
誰もいい奴いないし、色々いうならお前がやれよと言わんばかりの枢機卿たちをみて、どこ行っても管理職は大変だなと思った。
それでもローレンスを繋ぎ止め、コンクラーベの指揮を任せた前教皇はすごい。己の生い先を案じてローレンスにすべてを託したんだと思える仕込み様だった。
天使と悪魔とかもそうだけど、定期的にコンクラーベは映画にしてほしいな。アノーラとはまた違う良さがあった。
☆4.8
starstarstarstarstar - 1年前
男社会をじっくりコトコト煮詰めたような者が捲し立てる勇ましい「戦争」の空虚さや、それを指摘されたチキンホークの様相は実に痛快だ。
同時に、多様性を認めない差別主義者と寛容なリベラルという陳腐で安直な二項対立に収斂せず、右も左も敬虔な神の僕で… 続きを読む
男社会をじっくりコトコト煮詰めたような者が捲し立てる勇ましい「戦争」の空虚さや、それを指摘されたチキンホークの様相は実に痛快だ。
同時に、多様性を認めない差別主義者と寛容なリベラルという陳腐で安直な二項対立に収斂せず、右も左も敬虔な神の僕であるはずの権力者たちが取り仕切る世界最古・最長の家父長制を舞台にして、閉鎖的で硬直化した男社会の滑稽さと根深さを余すことなく描き切った脚本の妙に膝を打った。
一見するとぎらついた野心やオラついた敵対心を剥き出しにせず、現教皇の改革路線を支持するリベラル派を謳いながら、女性に活躍してほしいという意見に対して「控えよう」という「味方」を批判しない候補者。
そもそも周囲の女性を周縁化・非当事者化している組織のあり方に無頓着でいられる彼らの宣う「多様性」は、なんと狭量で空虚な響きだろうか。
(まじで左翼の男にありがち。なお、プロテスタントは教派によっては女性にも司祭・助祭といった聖職者を認めているが、カトリックは女性の聖職者を認めていない。
カトリックの男女比は4:6で男性教徒より女性教徒の数の方が多いにもかかわらず。おう、多様性とは???)
男社会からも権力からも阻害されてきた者たちが、権力の椅子取りゲームと暴力に浮足立つ集団の中でも正しさと他者への感謝・憂慮を忘れなかった―いわば最も純粋に「神」の教えと献身を信仰した皮肉。それを自分たち男性が認め民主主義的に選出した皮肉。皮肉のスパイスが効きまくり。じっくりコトコト煮詰めた甲斐がある。
選挙結果とこれから明らかになる事実を受けて、この教会は今までになく荒れるだろう。その上で新たな信仰の柱を見出したローレンスは、「彼」を支えるため、閉ざされた組織が門扉を開く未来のために不正や不公正、何より「内なる自分」と戦い、信念と疑念を持ち続けながら教会に残るのだろう。
私服に着替え、疲労、安堵、不安の混じった彼の視線の先で、3人のシスターたちが閉ざされた教会から外へ飛び出していく。
その笑い声と足取りは、大きな喪失の穴から吹き込んだ風のように軽やかだ。
《余談》
① すべて重厚
世界14億人の教徒のトップ、「神の代理人」を決める事件を描くにあたって半端な演出では白けてしまうが、不安と緊張をもたらす高音で速い弦楽器をテーマに、
荘厳な建築物(バチカンでは当然撮影できないのでイタリアのチネチッタで撮影したそう。歴史的建造物のワンフロアの天井が高い!)、
纏う者の立場を一目で示す礼服の威厳(ロザリオとか刺繍とか一時停止して見たい)、
威厳を纏った者たちの一皮剥けば露呈する人間の弱さや狡猾さ、興奮、逡巡など一筋縄ではいかぬ感情を視線や表情で示すキャストの演技(それでもミステリものなので台詞は多い)―すべてが重厚でゴージャス。この重厚さは映画館で体験した方が絶対良いし、登場人物が多いので複数回見た方が良い。
原作小説の『Conclave(2016,ロバート・ハリス著)』ではこれらがどのように描写されているのか読んでみたい。
② 対比
色彩:我先にと言葉を被せ人の声を聞かず前に出てくる枢機卿たちが纏う権威の象徴・礼服の赤の中、大声で遮らず少ない言葉で「神から与えられた目と耳」を行使する、抑制された権限のシスター・アグネスが纏う青。
トマスが首席枢機卿を務めているときの礼服や白い教会の鮮やかさと、個室にいるとき(同一人物かと疑うほど草臥れた老人になっている)のくすんだ色彩。
男女:椅子取りゲームにだけ集中できる枢機卿たちと、ひたすら発言権を持たず裏方・黒子・世話係に尽くすシスターたち。ローレンスがコピー機でまごつくところをシスター・アグネスに助けられるのも、普段事務仕事を女性任せにしていることを伺わせる。
できれば、この性別分業制に対する批判、ないしは男性たちが無自覚に女性たちに押し付けてきたサブ的な仕事を自ら担う描写があれば良かった。
(割れた食器を拾う、瓦礫の掃除、衣装の洗濯など)
鳥と空:鳥籠に閉じ込められた事務所の小鳥と教会の天井に描かれた煤けた空、空いた穴から聞こえる鳥のさえずりと澄んだ青空。
(閉鎖された組織に新しい風を入れよという天啓の様だった)
③ 前提知識不足で臨んでも十分だが、カトリックや世界情勢の知識があれば更に楽しめるはず。誰か解説本と美術集を出してくれ。
「ヨハネ」(使徒ヨハネ)は、12使徒でキリストの一番弟子。迫害されながらも殉教せずに天寿を全うするまでイエスの信仰を守り抜いて黙示録を記し人々に伝道した人物。
(僅か3文字で前任の意志を引き継ぐ覚悟と一番弟子の自負を表現しつつ、都合の良い解説やリアクションを排除した脚本が最高。「この3文字で意図が伝わるはず」という鑑賞者への信頼を感じる。
てかお前教皇のことめっっっっちゃ好きじゃん…!)
ラテン語の「インノケンティウス(Innocentius)」は英語で「イノセント(Innocent)」。
(字幕翻訳:渡邊貴子)
公開初日朝イチ鑑賞でしたが
starstarstarstarstar - 1年前
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結局ポリコレ作品でした。コンクラーベに性的多様性絡める必要性ありますか?終盤までミステリー要素もありストーリーに引き込まれていたのに、最後で思い切りハシゴ外されてがっかりです。
こんな感想、浅いのかな…
祈ることの困難
starstarstarstarstar - 1年前
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全てのシーンが美しく印象的だった
宗教的でもありながら、あぁこれぞ映画音楽…と思わせる重厚感のある音がそれを彩っていた
一貫して描かれる清貧なカトリックの世界観
静謐な中庭では長い間、男性のみによって築きあげられた社会が繰り返され
静寂とひんやりとした空気の中をそれぞれの思惑が漂う
わたし自身は日本人らしく信心深さとは無縁の人生を送っていて、かつ不勉強だから、ローマ教皇に関しては
2005年に帰天されたヨハネ・パウロ2世が当時歴代2位の在位期間であったこと、
その後任に選出されたベネディクト16世が存命中に退位されたこと、
現ローマ教皇のフランシスコはTwitterアカウントをもってることくらいしか知らない
つまり全く知識がない
そのため、この映画で描かれるプロセスが正しいのかどうかは一切わからない
わからないけどそんなことはどうでもいい完成度だった
作品の冒頭、前教皇は夕方のチェスでは「いつも8手先を読んでいた」と語られる
なるほど、納得
自身の後任を選出する選挙を取り仕切るひとを
自身の後任に相応しくないひとを
自身の後任となるべきひとを
人知れず選び出し、彼等がそのようになるように演出してこの世を去ったのだから
まさに「8手先を読んでいた」の評価に相応しい
ローレンスの忠誠と控えめな誠実さ、揺るがない正義を、ベリーニにはローレンスほどの正義がないことを見抜き
トランブレの不正とアデイエミのスキャンダルを明らかにし
べテニスを枢機卿として認めることでテデスコが選任されることを阻んだ
自身が築き上げた教会の未来を引き継げるのはべテニスであり、ローレンスの誠実さと正義があればべテニスを教皇に導けると信じていたのだろう
もしかしたらトランブレはほんとうに何も知らずに前教皇の指示でアデイエミと関係のあったシスターを呼び寄せたのかもしれないとまでおもわせるような、未来を見据えた見事な演出だった
そして、こうした登場人物の人間性や人間関係、細やかな感情の機微を雄弁に語っていたのは大胆な構図だったようにおもう
冒頭の前教皇の薄暗い部屋は教皇を失った悲しみに押しつぶされそうなローレンスの心そのものだった
選挙が続くなかでローレンスの心境に現れた大きな変化は、前教皇の部屋の封印を解くことで表されていたようにおもう
選挙中、ローレンスが報告を受けたり指示を出したりする時、美しい装飾を大胆に切り取った構図になっていたけどそれは、教会という大きな組織の中での孤独をみてとることができた
そしてラスト、窓の外に明るい声をふりまく3人の少女を認め微笑むローレンスの表情から、彼は再び祈ることを信じるようになったのだとわたしは読み取った
優れた問題提起
starstarstarstarstar - 1年前
普通は覗けないバチカンの教皇選出プロセスを題材にした作品。陰謀術策匂うなか、誰が教皇になるのかわからないので、ミステリーであるのだけれど、すこぶる現代的な優れた問題提起でもありました。
高位聖職者たちの集まるコンクラーヴェなれど、権力の… 続きを読む
普通は覗けないバチカンの教皇選出プロセスを題材にした作品。陰謀術策匂うなか、誰が教皇になるのかわからないので、ミステリーであるのだけれど、すこぶる現代的な優れた問題提起でもありました。
高位聖職者たちの集まるコンクラーヴェなれど、権力の座を狙う野心家や、策謀巡らす腐った者や、単細胞で好戦的な保守主義者や、と、世俗の代表選挙と大差ない様相のなか、何とかより良き教皇を選出しようと奮闘する首席枢機卿ローレンスの心労たるや、大変なものだ。
教皇というのは、全世界のカトリックの頂点に立つ権力者であると同時に、全世界の信者及び聖職者たちの精神的指導者としての重責を担う。権力欲に毒された悪しき候補者たちがその重責を殆ど考慮していないようなのに対し、権力欲に毒されていないより好ましい候補者たちは、その重責を思い、ひるむ。この両者の頭の中は、異星人同士のように異なる別世界と見受けられ、とても興味深い。自らの悪事に頰被りして教皇になりたがる好ましくない候補者たちと、ためらいのグラデーションの好ましい候補者たち。
首席枢機卿ローレンスはコングラーヴェを執り仕切る役目は担うものの、自分自身が教皇に選出されることは全く望んでない。理由は「わたしは教皇の器ではない」「わたしには霊性の深みが欠けている」から。ローレンスの友人で次席枢機卿のベリーニは「まともな人間は教皇職なんか望まない」と言い、最後にはローレンスに「君には教皇になるだけの気骨がない」と失望の言葉を吐かれる。
コンクラーヴェ開始時に首席枢機卿ローレンスが説教の後半に英語で語る言葉、テデスコに反論する枢機卿ベニテスの言葉、新教皇のラストの言葉など、いずれも今の時代を感じさせ、心に残る。
前教皇が密かに白羽の矢を立て準備していたのであろう枢機卿は、新教皇として立派に重責を果たすことだろう。
コンクラーヴェが出てくる映画はこれまでにも幾つかあったと思うけれど、コンクラーヴェそのものが題材のこの映画、祈りや儀式的場面が多く、その結果、ラテン語をこれほど耳にすることができ、多言語(ラテン語、イタリア語、英語、スペイン語)が飛び交う映画も珍しい。
イザベラ・ロッセリーニ演じる番外脇役のシスター・アグネスの存在感が素晴らしく、男たちの競宴を描くこの映画の隠された屋台骨と言ってもいいくらいだと思う。
劇場を出て、美術も衣装もストーリーも計算され尽くしたこの作品とはまるで別世界ながら、西欧世界の二分法を軽々と超えているサモアの人々のことを描いた、昨年の今頃観た映画を思いだしました。