巻き込まれ型サスペンスの典型。とはいえ、出てくる危ない奴らが半端なく、主人公は如何にして危機を乗り越える?
アロノフスキーがこんなブッ飛んだエンターテイメントを撮るなんて! でも、主人公が精神的にも肉体的にも極限まで追い込まれるのは、やはりアロノフスキーか。 ちょっと汚くて、かなり痛そう…。 元ハイスクール球児で、ケガで大リーグ入りの夢を逃し… 続きを読む
アロノフスキーがこんなブッ飛んだエンターテイメントを撮るなんて! でも、主人公が精神的にも肉体的にも極限まで追い込まれるのは、やはりアロノフスキーか。 ちょっと汚くて、かなり痛そう…。 元ハイスクール球児で、ケガで大リーグ入りの夢を逃して今はしがないバーテンダーをしているハンク(オースティン・バトラー)が、裏社会の大金争奪戦に巻き込まれるクライム・サスペンス&バイオレンス・アクション。 つい最近『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』という長い邦題の映画があったが、こっちも負けず劣らず不運で、しかも最悪な日は1日では終わらない。 ハンクは、イカれた(ように見える)アパートの隣人(マット・スミス)に猫の世話を押し付けられる。隣人は父親が危篤でロンドンに帰省するという。 猫を預かったのが運の尽きで、ロシア人ヤクザに暴行されるわ、ユダヤ人の殺し屋に追いかけ回されるわの大災難。 恋人のイヴォンヌ(ゾーイ・クラヴィッツ)、バーのオーナー(グリフィン・ダン)なども巻き込んでしまうのだった。 1990年代のニューヨークが物語の舞台で、ロケーション撮影なのに、フラッシングメドウの公園の隣にシェイ・スタジアムが存在しているかのように演出していたり、バスの車体に描かれた広告や店舗の看板などで、知っている人には90年代だと分かる仕掛けが散りばめられている。 “地上を走る地下鉄”の高架はおなじみの風景ではあるが、『フレンチ・コネクション』(’71)を思い出させもする。 ニューヨークの場末には、あれほど反社会的勢力が闊歩しているのかと改めて身震いするが、『キング・オブ・ニューヨーク』(’90)や、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(’02)に代表されるニューヨーク・マフィアの抗争を描いた映画も少なくないので、さもありなん…か。 登場するキャラクターがどれも個性的で面白い。 特にユダヤ人の殺し屋兄弟(リーヴ・シュレイバー、ヴィンセント・ドノフリオ)が傑作だ。神を敬虔に崇拝していて、母親をこよなく愛する殺し屋は、安息日だから車の運転はしないが、殺しはやるのだ。 女刑事のローマン(レジーナ・キング)は堂々たる佇まいだ。ニューヨークの名物菓子ブラック&ホワイトクッキーを「たまらない」と言いながらもほんの先端しかかじらない。ニューヨークの多人種を比喩しているとされることのある菓子を本当に好きなのか、それが分からないのだ。 とにかく、トイレを借りる警官やゴミ置き場で寝ているホームレスという端役の端役まで、キャラクターが確りしていて感心する。 ローマン刑事が「反応を見ている」という尋問のルーティンや、ニューヨークに住みながらサンフランシスコ・ジャイアンツをこよなく愛するハンクの可笑しさなどを布石に使っているのも上手い。 なんの罪もない猫は災難だが、大人しくハンクのバッグに収まっているのがなんとも愛らしい。 主人公のハンクは酒に酔うと前後不覚に陥ってしまう欠点がある。根は真面目なバーテンダーだが、本当は自分はこんなところで暮らしているはずではなかったのだと思っていて、恋人に配慮のない言葉を浴びせてしまうことがあったりする。 それでも毎日母親に電話することを欠かさず、ホームレスにも親切な好青年なのだ。 多くの犠牲を払ってしまったハンクは、最後に自分のことばかり考えていたと反省するに至る。ここにハチャメチャな物語の教訓を匂わせるのだが、本当の教訓はただ一つ… 〝シートベルトはちゃんと締めましょう〟