1940年に製作されたチャールズ・チャップリン監督・製作・脚本・主演の映画『独裁者』におけるチャップリン自身によるスピーチは「史上最高のスピーチ」とも言われています。
ヒトラーを思わせる独裁者と間違えられ入れ替わった床屋の男が兵士たちの前で演説をするはめになるラストシーンのスピーチに、現在の様々なニュースや映画の映像が加えられたものを紹介します。東日本震災のニュース映像も含まれています。
人種や国籍、宗教や政治的立場などを超えて胸を打つ名スピーチは、今、改めて私たちが耳を傾けるべき内容になっています。
チャップリン映画初の完全トーキー作品である『独裁者』は、チャップリンがアドルフ・ヒトラーの独裁政治を批判した作品と言われています。
ヒトラーとナチズムに対して非難と風刺をしつつ、ヨーロッパにおけるユダヤ人の苦況をコミカルに描いた『独裁者』は、1940年にアメリカで初公開されましたが、ナチの戦争とはいまだ無縁であった当時のアメリカでは、この演説は賛否両論であったそうです。
ユダヤ人に関することは当時のハリウッドではタブーであり、ナチスの恐怖を大っぴらに誇張していて不謹慎だとする意見や右翼勢力の立場からは共産主義者の陰謀だとするなど批判も多かったそうですが、現在では後世に残したい「歴史上最も感動的なスピーチ」と呼ばれています。
第二次世界大戦の真っ只中にチャップリンが込めた世界平和への想いを、あなたはどう受け止めますか?
映画を未見の方は、この機会にぜひ!
【スクリプト&対訳】
I’m sorry but I don’t want to be an Emperor – that’s not my business – I don’t want to rule or conquer anyone. I should like to help everyone if possible, Jew, gentile, black man, white.
申し訳ないが、私は皇帝などなりたくない。それは私には関わりのないことだ。誰も支配も征服もしたくない。できることなら皆を助けたい、ユダヤ人も、ユダヤ人以外も、黒人も、白人も。
We all want to help one another, human beings are like that. We all want to live by each other’s happiness, not by each other’s misery. We don’t want to hate and despise one another.
私たちは皆、助け合いたいのだ。人間とはそういうものなんだ。私たちは皆、他人の不幸ではなく、お互いの幸福と寄り添って生きたいのだ。私たちは憎み合ったり、見下し合ったりなどしたくないのだ。
In this world there is room for everyone and the earth is rich and can provide for everyone. The way of life can be free and beautiful. But we have lost the way. Greed has poisoned men’s souls – has barricaded the world with hate; has goose-stepped us into misery and bloodshed.
この世界には、全人類が暮らせるだけの場所があり、大地は豊かで、皆に恵みを与えてくれる。人生の生き方は自由で美しい。しかし、私たちは生き方を見失ってしまったのだ。欲が人の魂を毒し、憎しみと共に世界を閉鎖し、不幸、惨劇へと私たちを行進させた。
We have developed speed but we have shut ourselves in: machinery that gives abundance has left us in want.
私たちはスピードを開発したが、それによって自分自身を孤立させた。ゆとりを与えてくれる機械により、貧困を作り上げた。
Our knowledge has made us cynical, our cleverness hard and unkind. We think too much and feel too little: More than machinery we need humanity; More than cleverness we need kindness and gentleness. Without these qualities, life will be violent and all will be lost.
知識は私たちを皮肉にし、知恵は私たちを冷たく、薄情にした。私たちは考え過ぎで、感じなさ過ぎる。機械よりも、私たちには人類愛が必要なのだ。賢さよりも、優しさや思いやりが必要なのだ。そういう感情なしには、世の中は暴力で満ち、全てが失われてしまう。
The aeroplane and the radio have brought us closer together. The very nature of these inventions cries out for the goodness in men, cries out for universal brotherhood for the unity of us all.
飛行機やラジオが私たちの距離を縮めてくれた。そんな発明の本質は人間の良心に呼びかけ、世界がひとつになることを呼びかける。
Even now my voice is reaching millions throughout the world, millions of despairing men, women and little children, victims of a system that makes men torture and imprison innocent people.
今も、私の声は世界中の何百万人もの人々のもとに、絶望した男性達、女性達、子供達、罪のない人達を拷問し、投獄する組織の犠牲者のもとに届いている。
To those who can hear me I say “Do not despair”. The misery that is now upon us is but the passing of greed, the bitterness of men who fear the way of human progress: the hate of men will pass and dictators die and the power they took from the people, will return to the people and so long as men die [now] liberty will never perish…
私の声が聞こえる人達に言う、「絶望してはいけない」。私たちに覆いかぶさっている不幸は、単に過ぎ去る欲であり、人間の進歩を恐れる者の嫌悪なのだ。憎しみは消え去り、独裁者たちは死に絶え、人々から奪いとられた権力は、人々のもとに返されるだろう。 決して人間が永遠には生きることがないように、自由も滅びることもない。
Soldiers – don’t give yourselves to brutes, men who despise you and enslave you – who regiment your lives, tell you what to do, what to think and what to feel, who drill you, diet you, treat you as cattle, as cannon fodder.
兵士たちよ。獣たちに身を託してはいけない。君たちを見下し、奴隷にし、人生を操る者たちは、君たちが何をし、何を考え、何を感じるかを指図し、そして、君たちを仕込み、食べ物を制限する者たちは、君たちを家畜として、単なるコマとして扱うのだ。
Don’t give yourselves to these unnatural men, machine men, with machine minds and machine hearts. You are not machines. You are not cattle. You are men. You have the love of humanity in your hearts. You don’t hate – only the unloved hate. Only the unloved and the unnatural.
そんな自然に反する者たち、機械のマインド、機械の心を持った機械人間たちに、身を託してはいけない。君たちは機械じゃない。 君たちは家畜じゃない。君たちは人間だ。君たちは心に人類愛を持った人間だ。憎んではいけない。愛されない者だけが憎むのだ。 愛されず、自然に反する者だけだ。
Soldiers – don’t fight for slavery, fight for liberty.
In the seventeenth chapter of Saint Luke it is written ” the kingdom of God is within man ” – not one man, nor a group of men – but in all men – in you.
兵士よ。奴隷を作るために闘うな。自由のために闘え。
『ルカによる福音書』の17章に、「神の国は人間の中にある」と書かれている。一人の人間ではなく、一部の人間でもなく、全ての人間の中なのだ。君たちの中になんだ。
You, the people have the power, the power to create machines, the power to create happiness. You the people have the power to make life free and beautiful, to make this life a wonderful adventure.
君たち、人々は、機械を作り上げる力、幸福を作り上げる力があるんだ。君たち、人々は人生を自由に、美しいものに、この人生を素晴らしい冒険にする力を持っているんだ。
Then in the name of democracy let’s use that power – let us all unite. Let us fight for a new world, a decent world that will give men a chance to work, that will give you the future and old age and security.
だから、民主国家の名のもとに、その力を使おうではないか。皆でひとつになろう。新しい世界のために、皆が雇用の機会を与えられる、君たちが未来を与えられる、老後に安定を与えてくれる、常識のある世界のために闘おう。
By the promise of these things, brutes have risen to power, but they lie. They do not fulfil their promise, they never will. Dictators free themselves but they enslave the people.
そんな約束をしながら獣たちも権力を伸ばしてきたが、奴らを嘘をつく。約束を果たさない。これからも果たしはしないだろう。独裁者たちは自分たちを自由にし、人々を奴隷にする。
Now let us fight to fulfil that promise. Let us fight to free the world, to do away with national barriers, do away with greed, with hate and intolerance.
今こそ、約束を実現させるために闘おう。世界を自由にするために、国境のバリアを失くすために、憎しみと耐え切れない苦しみと一緒に貪欲を失くすために闘おう。
Let us fight for a world of reason, a world where science and progress will lead to all men’s happiness. Soldiers – in the name of democracy, let us all unite!
理性のある世界のために、科学と進歩が全人類の幸福へと導いてくれる世界のために闘おう。兵士たちよ。民主国家の名のもとに、皆でひとつになろう!