『すべての夜を思いだす』見上 愛 インタビュー 「ずっと住んでいる街のような大事な場所」

240203_subete_01
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。

去年2月の第73回ベルリン国際映画祭を皮切りに、次々に海外映画祭で上映され、9月には北米での公開も果たした、清原 惟監督による第26回PFFスカラシップ作品である『​​すべての夜を思いだす』が3月2日よりユーロスペースほか全国順次公開される。主人公の一人”夏”役を演じるのは、デビューから映画・ドラマ・CMと幅広く活躍している見上 愛。今作についてお話を伺った。

240203_subete_02

 

見上 愛
MIKAMI AI

2000年生まれ、東京都出身。
2019 年デビュー。以降、映画・ドラマ・CM と幅広く活躍。
近年の主な出演作にドラマ『きれいのくに』(21)、『往生際の意味を知れ!』(22)、映画『異動辞令は音楽隊!』(22)、『365km、陽子の旅』(22)、などに出演。Netflixにて『幽☆遊☆白書』が配信中。現在、ドラマ『春になったら』に出演中。今後は大河ドラマ『光る君へ』に出演予定。5月10日より主演映画『不死身ラヴァーズ』が公開予定。

 

 

そこに本当に生きている空気感

――今作で演じた”夏”という役について教えてください

見上:台本を読んだ時点では、どんな子なのか全くわからなくて。監督からは、あまり感情の上がり下がりがないというか、淡々とした感じが欲しいというお話がありましたので、心の中に秘めてあまり外に出さないように、というのを意識しながら演じました。

――余白のある映画だと思いますが、どんなことを考えながら役を演じていましたか?

見上:そうですね。監督の前作『わたしたちの家』の時も、家が主人公の作品だなと思って観ていて。今回は多摩ニュータウンが主人公の映画になるなと思ったので、そこに本当に生きている空気感が出せたらいいなと考えながら演じました。

――若い世代の監督作品もチェックしているんですね

見上:そんなに観ているわけじゃないんです(笑)。以前に新文芸坐で、4本立てのオールナイト上映で『わたしたちの家』をたまたま観ていて。オールナイトなので眠気と戦いながら観ていましたが、その中でも強く記憶に残っています。何かが起きたわけでもないけれど、とても印象的でした。

240203_subete_03
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

自転車、練習しました

――主人公の3人が直接的には接しない物語でしたが、そのあたりはいかがでしたか?

見上:本当に接点がなくて、ほとんどお会いすることがなく、他のお2人がどういうテンション感で演じているのか分からない状態で撮影が進んでいて、若干不安だったんです。でも完成したものを観たら、それぞれがこの街に住んでいる感じがして。それはきっと監督が統率を取られてたんだろうなと思います。

――自転車でのシーンが多かったですね

見上:私、もともとそんなに自転車が得意じゃないです。今回クロスバイクっていうんですか、ああいうタイプの自転車に初めて乗ったので、結構練習しました。多摩ニュータウンをひたすら走る日もありましたし。

――そんなに練習されたんですね

見上:いつも乗っている感じを出したくて。クロスバイクは形が独特でバランスも取りにくくて、乗り慣れない感じが出ちゃうので。電動アシストもついていないですし、坂を登るシーンが多かったので、そこはきつかったですね。

――多摩ニュータウンでの撮影はいかがでしたか?

見上:同じ形の家が沢山並んでいるけれど、そこにそれぞれの人生があるというか、生活があって。小さい子もいれば、お年寄りたちが円になって話している。そういう感じが街ならではの空気だなと思いました。

240203_subete_04
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

バレエの背筋の良さが邪魔になる

――ダンスをするシーンがありましたが、以前からダンスはやっていましたか?

見上:バレエの経験はあるんですけれど、他のダンスはまったく経験がなくて。今回みたいなダンスも初めてでしたね。

――バレエの経験は今回のダンスに活きていますか?

見上:逆に邪魔でした。バレエの背筋の良さやしなやかさが邪魔になる動きで。3回くらいの練習でどうにかなる感じじゃなくて(笑)。結構焦っていました。

――かなり特徴的な動き方でしたがアドリブですか?

見上:全部振り付けを決めていただいていて。「ここからここまで覚えてやって、これをルーティンでカットがかかるまでやってください」という流れで撮影しました。

――バレエと違うところもあって難しかったですか?

見上:そうですね。ヒップホップやこういうダンスは決めがあるので。あと背筋がちょっと丸くなって重心が下にあるのが基本体勢なんですけれど、バレエは割と重心を上に引っ張っていくので、それが難しかったですね。

240209_subete_01
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

――兵藤さんとのダンスのシーンはいかがでしたか?

見上:話し合いはまったくなくて。兵藤さんが私の練習をしている姿を見たのか、動画を事前にもらったのかはわからないのですが、それを見ながらやっている感じだったのかな。

――踊っているとき兵藤さんは、視界には入ってきていましたか?

見上:自分に集中してやっているという設定だったので、最初は全然視界に入っていなくて。「視界に入れてください」と言われてパッて見たらめっちゃ面白かったですね(笑)。

――だいぶシュールですね(笑)

見上:その後のシーンで「変な人いた」という台詞が言いやすかったです(笑)。

内に秘めておこう

――具体的に監督から役の設定についての説明はありましたか?

見上:あった部分と、「あっ、考えてなかった。一緒に考えよう」というところもあって。夏が大学に行けてないのは、大の死がきっかけということは、監督が説明してくださったところなんですが、どうして亡くなったのかは説明されず。幼馴染の3人の関係性は小学校までは一緒で、中学校からそれぞれ違うところに行ったのかなとか。そういったところを友人役の紅甘(ぐあま)さんと監督と3人で話し合いながら決めていきました。

240203_subete_06
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

――いないもう一人を思いながら演じるのはいかがでしたか?

見上:本読みの時に、紅甘さんが「どうしますか?」みたいなことを先陣を切って監督に聞いてくれたんです。私は聞くべきかちょっと迷っていて。タイミングがあったら聞かないとな、わからないよな、と思っていたんです。その話があってそこで固められたから、演じている時に違和感はないというか。大がいたということを共通認識で持ちながらできたような気がします。

――観ていて夏が抱えている闇を感じました

見上:そうですね、命日に、亡くなってから初めて大の家に行くというのはすごくきつくて。家も実際のどなたかのお家をお借りしていて、家の匂いがする感じもぐっときて泣いちゃってたんです。そこは監督から「夏の感情の揺れ動きがあまり見えないほうがいいから、泣かないでいきたい」という話があって。だからセリフのところどころにその闇みたいなものが隠れているのかもしれないけれど、それはあまり表現しすぎないように、内に秘めておこうというのはありました。

240209_subete_02
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

花火のシーン

――花火のシーンでも踊っていましたが、その瞬間だけは何も考えなくていいというような気持ちが夏にはあったんでしょうか?

見上:直前までは、ダンス部かダンスサークルでダンス経験はあったけれど、大学に行けていないので一人で踊り始めたという設定だったんです。でもダンス練習の時間も取れないし、ちょっと設定を変えましょうということになって。最終的には何も考えずに踊るという設定になったので、意識はしていなかったです。

ダンスはどうしても振りのことを考えちゃうんですけど、その後に紅甘さんが加わって、走り出して踊るシーンがあって、ダンスをしているというよりは、音楽に乗っている状態だったので、本当に何も考えずにいられたような気がします。

――あのシーンもダンスの振りは決まっていた?

見上:リハーサルですごく話し合った記憶がありますね。あの走り出してハイタッチは、最初はなかったと思います。

――花火のシーンも終わりが決まっている感じがしませんでしたが

見上:長回しでカットがかからないことが多かったですね(笑)。もし危なかったらこれをとか、そういう説明はあって。あとは順番的にこの辺で盛り上がりたいから、大きな花火をこの辺で一発とかそのくらいで。あとは自由にやってくださいと言われたので本当に自由にやっていました。

240203_subete_08
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

監督の優しさに包み込まれるような現場

――撮影現場でのエピソードや思い出があれば教えてください

見上:撮影の前日に、街を探索する日が設けられていて、私は自転車で移動したり、歩く役の人は歩いて移動してみたりしました。その時に、商店街でアイスキャンディーを食べたり、撮影中もクッキーを誰かが買ってきてくださって、それを食べたり。みんなでちょっと一息つくみたいな時間が、割と多かった気がします。そういうアットフォームな感じが印象的でした。

――清原監督の作品に参加されていかがでしたか?

見上:本当にほわっとした、映画と同じ雰囲気が監督にあって。みんなに意見を聞いてくれるんです。みんな平等に、役者だけじゃなくてスタッフさんや助監督さんにも、いい作品を作る仲間としてどうしたらいいですかということを聞くし、耳を傾ける。だけど自分が思うことはちゃんと言う。あまり経験したことのない環境だったなと思います。監督の優しさに包み込まれるような現場でした。

240203_subete_07
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

――現場で決まることが多かったんですね

見上:そうですね。監督が最初からそのつもりでいるというか。やってみてお互い納得がいかないから話し合いというよりは、もともと話し合うつもりでいる。まずは先にやらせてくれて、やってみてどうみたいなことを聞かれて。私はやってみてこう思いましたという話をしたりしながら組み立てていきましたね。

――完成した作品をご覧になって、一番好きなシーンはありますか?

見上:自分がいるシーンになっちゃいますけれど、土偶のシーンが大好きです。

――土鈴のボタンを押すところは印象的ですね

見上:監督も事前に「あの土鈴がめっちゃおもしろいんだよね」とおっしゃっていて。土鈴を鳴らしたり、土偶の修復をする立体パズルがあるんです。私たちも待ち時間に遊んでいて、じゃあそれ本番でやろうよみたいな感じで、割と長回しで遊んでいました。

240203_subete_09
©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

油絵を始めました

――今後、挑戦していきたいことはありますか?

見上:最近、油絵を始めたので、上手になりたいなと思っています。油絵が得意な友達に「山でデッサンしない?」と休みに連絡をして、教えてもらいながら描いたのですが全然上手く描けなくて(笑)

――何かを創作することがお好きなんですね

見上:そうですね。昨年は中学・高校の同級生と雑誌を作りました。そういう何かをゼロから作る作業って、役者はしないことだから。その大変さを知っておきたいし、その楽しみも知っておきたいのもあって。あとシンプルにいろんなことで表現するのが好きなんだと思います。

――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします

見上:私は多摩ニュータウンに住んだことはないけれど、観終わったらずっと住んでいる街のような大事な場所に感じました。映画を観て清原監督が撮った街の表情や、言葉では伝えづらい時間や空気感を体験してほしいなと思います。

(取材:曽根真弘)

すべての夜を思いだす』は3月2日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

脚本・監督:清原 惟

出演:兵藤公美/大場みなみ/見上 愛/遊屋慎太郎/能島瑞穂/内田紅甘/奥野 匡/川隅奈保子/中澤敦子/佐藤 駿/滝口悠生/高山玲子/橋本和加子/山田海人/小池 波 ほか

配給:一般社団法人PFF
第26回PFFスカラシップ作品

©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

公式サイト:https://subete-no-yoru.com/
公式X(旧Twitter):@subete_no_yoru

 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で