『Diner ダイナー』
蜷川実花監督インタビュー
“映像化不可能”と言われた人気作家・平山夢明の小説「ダイナー」を実写化した映画『Diner ダイナー』が7月5日(金)より公開。店主も客も殺し屋という会員制ダイナーを舞台にした今作で、元殺し屋の天才シェフ・ボンベロを藤原竜也、ウェイトレス・オオバカナコを玉城ティナが演じているほか、ダイナーに集う“殺し屋”役に窪田正孝らが扮する。ハードな内容を独自のセンスで美しいエンターテインメント作品として完成させた蜷川実花監督に、作品への想いやキャストとの撮影秘話などを語ってもらった(取材・文:奥村百恵/撮影:ナカムラヨシノーブ)。
──監督にとってアクションシーンやサスペンスを描くのは今作が初めてかと思いますが、挑戦してみていかがでしたか?
蜷川:昔からアクション作品を観るのが少し苦手だったので、そんな私が観ても興奮するようなアクションシーンを撮りたいという気持ちで今回挑んでみました。アクションものが好きな方が納得できるような、そしてアクションに興味がない方にも“凄かった!”と言ってもらえるような派手なアクションにしたいと思い、アクション監督と一緒に試行錯誤しながら作り上げていったのですが、これまであまり観たことがないような豪華なアクションシーンになったのではないかなと思います。
──『さくらん』(07)や『ヘルタースケルター』(12)とは全く違うタイプの作品ですが、今回チャレンジしようというお気持ちになったのには何かきっかけがあったのでしょうか?
蜷川:今までの2作品に比べて圧倒的に男性らしい話であり、主人公が男性という点も難しいなと感じたのですが、そろそろ自分がやったことのないことに挑戦できる時期なのではないかと、そんな風に思いました。あえて自分の得意ではないジャンルや原作をやらせていただいたことで、面白い発見や化学反応を起こすことができたと感じています。
──「ダイナー」を実写化するにあたり一番難しかった点を教えていただけますか。
蜷川:凄くハードな内容の原作ですが、“年齢制限が一切つかない映画にして欲しい”というオーダーがあったので、そこが一番難しかったです(笑)。でも、逆に規制があったからこそ色んなアイデアが沸きましたし、普通に考えていたら辿り着かないところまで行けたような気がします。完成した今は“条件”を上手に飼いならすことができたと、そんな風に感じています(笑)。
──監督にしか作り出せないような映像が広がっていて、一瞬で引き込まれました。
蜷川:自分にとっての武器と言えるカラーやビジュアルを、今作に関しては全面に出してみたんです。9月に公開する『人間失格 太宰治と3人の女たち』(9月13日公開)はそこをグッと抑えているのですが、今作に関してはビジュアルも音楽もアクセル踏みっぱなしで得意技を全て詰め込んでいます。ビジュアル面で言えば快楽的な映画になっているので、そこも楽しんでいただきたいです。
──キャストの方々に関してもお話を伺いたいのですが、ボンベロを演じた藤原竜也さんに関して“一番カッコいい藤原竜也を私が撮らなければならない!”という思いで挑まれたそうですね。
蜷川:竜也はお芝居も上手ですし素敵な役者さんなので、男女問わず彼のことを好きな人は多いと思います。ただ、今回は“男性としてのカッコイイ竜也”とか、“竜也の造形はとても美しい”ということを私なりにきっちりとスクリーンに焼き付けたかった。意外とそういうアプローチで竜也と向き合った人はあまりいなかったような気がするんです。なので、シンプルに“竜也を一番カッコ良く撮れる”のは私でありたいという思いがありました。
──ボンベロもカッコ良かったのですが、窪田正孝さん演じるスキンは顔の傷さえも美しくて色気がありました。
蜷川:ありがとうございます。あの傷はデザインにこだわって、“世界で一番カッコいい傷にしてください”とメイクさんにお願いしました(笑)。“傷があるからこそカッコ良く見えると思えるぐらい、とにかく美しくしてください”とお伝えして、何度も何度も傷を作っては直してと、かなりこだわって作っていきました。
──キャストの皆さんにはクランクイン前の準備として何かリクエストはされたのでしょうか?
蜷川:竜也には少し痩せて欲しい、窪田くんには少し鍛えて欲しいとお願いしました。他のキャストに関しては特にリクエストはしていないです。
──かなり個性的なキャラを演じていただくにあたって、現場ではどのような演出をされたのでしょうか?
蜷川:ボンベロに関しては、撮影初日に“俺はここの王だ!”と彼が言い放つシーンを撮ったのですが、どのぐらいのテンションで言うのか竜也も私もまだ掴みきれていない中で始まったんです。それで5パターンぐらい撮って、最後に“こんなパターンってアリなのか?”というぐらいテンションMAXで言ってもらったら凄く良くて。そのテイクを本編で使っています。最初に振り幅を試すことができたおかげで、お互いに“ボンベロ”というキャラが見えたので、あのシーンを撮影初日にして良かったなと思いました。
──今作には色んなタイプの殺し屋が出てきますが、現場での役者さん達の様子はいかがでしたか?
蜷川:殺し屋を演じてくださった方々は皆さん“こういうお芝居はなかなかできないから楽しかった!”とおっしゃって、撮影が終わるとスッキリとした表情で帰っていかれました(笑)。もちろん大変なこともあったと思いますが、普段は着ないようなコスチュームや世界観を皆さん凄く楽しんでらっしゃったのが印象に残っています。ただ、竜也とティナは次々やってくる強烈なキャラクターを受けながらの芝居だったので、大変だったと思います。
──ボンベロとカナコの台詞は監督ご自身が書かれたそうですが、どんなところを大事にされましたか?
蜷川:原作にないボンベロの台詞も含めて、とある視点から観るととてもメッセージ性の強い映画に感じる方もいると思います。例えば、ボンベロの台詞には若い子達に伝えたいことや、生きていくうえでの指針になるようなことをメッセージとして込めていて、カナコの台詞には若い子達が抱えている空洞のような虚しさ、辛さ、迷いを表現しました。今は色んなことが可視化され、数値化されてしまうので、昔のように鈍感ではいられないと思うんです。だからこそ若い子達の気持ちをキッチリと代弁できるようにカナコの台詞を考え、大人である私からのアドバイスをボンベロに託すといった感じで一字一句大切に書いていきました。
──カナコは一枚のハガキを観てメキシコに行ってみたいという衝動に駆られますが、監督が強い衝動に駆られて行動した経験があれば教えていただけますか。
蜷川:私は思いついたらすぐに行動に移すので、常に強い衝動に駆られながら生きているのかもしれません(笑)。人生において一番辛いのが、“あの時こうすれば良かった”“あの時なんでやらなかったんだろう”と後悔することなので、とにかくやれるだけやると決めているんです。例え失敗したとしても後悔だけは絶対にしたくない。それは若いときからそうで、例えば“今だったらこうしたのに”という後悔があったとしても、当時やりきったのなら仕方ないと自分の中で納得できるんです。今もあまり後先考えずに行動してしまうところがありますが(笑)。やりたいと思ったら絶対に行動に移すようにしています。
──若い人達にとって今作は、何か行動に移すきっかけになったり勇気が持てる作品になるのではないかなと思います。
蜷川:そう思っていただけたら凄く嬉しいです。試写会などの感想を聞く限り、10代の若い子達にも共感してもらえているようなので、公開後もそういった若い子達から大人の方まで幅広く何かを感じていただけたらいいなと思っています。
映画『Diner ダイナー』は7月5日(金)より全国ロードショー
(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会
取材・文:奥村百恵/撮影:ナカムラヨシノーブ