荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一ら映画監督・脚本家陣が全国のミニシアターにリモートトークで援護を始動する。
首都圏のミニシアターが6月1日(月)より営業を再開し、全国にある劇場のほとんどが上映を再開している。だが、感染の予防・対策の日々はまだまだ終わりが見えない。通常運転とはいかず感染対策には万全を期さねばならず、前後左右を空けるため座席数は半分、ロビーの混雑を避けるため休憩時間は長く、毎上映ごとに換気・消毒をしなくてはならない。
そんなミニシアターの役に少しでも立てればと、SAVE the CINEMA「ミニシアターを救え!」プロジェクトの呼びかけ人である荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一ら映画監督・脚本家陣が立ち上がった。全国のミニシアターで上映されている映画のトークショーにオンラインで出演する。全国のミニシアターから「この映画のトークをやってくれ」とリクエストされれば、どんな映画でもトークするという。
荒井晴彦 コメント
予備校に行くのがイヤで、新宿で途中下車して、喫茶店で映画館が開くのを待った。喫茶店ではモーニングサービスが付いたが、朝食を食べて、家を出てきている。無理して食べていたのか。53年前だ。ミニシアターなんて無い。日活名画座、シネマ新宿、トイレでつながっている新東地下劇場、丸井の裏にあった新宿ローヤル。映画が好きだったわけではない。時間潰しで、受験からの逃避だった。しかし、やましかったのか、娯楽映画は見なかった。このままじゃ受験戦争の敗者で社会の負け犬になると思い、スクリーンの中に、落ちこぼれた人間の生き方を探すようになった。立派な人、強い人、偉い人が主人公の映画は避けた。
高校同期の子が、ライバルだった一橋現役合格とアニエス・ヴァルダの『幸福』を見に行ったと聞いて、俺は、トニー・リチャードソンがプロデューサーの『みどりの瞳』に誘った。ニュー東宝シネマ。初めて女子と見た映画だった。その彼女と最後に見たのは『卒業』、東急名画座だった。
いつ、どこの映画館で、誰と見たのかという思い出と共に、映画は記憶される。スマホやパソコンで映画を見るなんて、他人事ながらイヤだなあ。と言っていたら、いまや、映画活動家の井上淳一に、コロナに怯えている老人が引っ張り出されたのです。
森達也 コメント
これを機会に映画について考える。リュミエール兄弟がシネマトグラフを使って上映会を行ってから100年とちょっと。決して古い伝統に支えられた文化ではない。
ならば僕自身が初めてスクリーンで映画を観たのはいつだろう。子供時代は怪獣映画の全盛期。ゴジラやキングギドラやガメラはすべてスクリーンで観た。同じころに先生に引率されて『サウンド・オブ・ミュージック』を観に行った記憶がある。ディズニーの『砂漠は生きている』もこの頃に観た。
つまりほとんどが怪獣・アニメ映画か文部省推薦映画。そして高校受験が終わった中学生最後の春休み、今は札幌で牧師をやっている映画好きのクラスメート池田君から、新潟市内の名画座「ライフ」に一緒に行こうと誘われて、『イージーライダー』と『いちご白書』を観た。おおげさではなく腰が抜けた。上映が終わってからもしばらく椅子から立ち上がれなかった。それから映画館通いが始まる。高校時代はほぼ毎週のように「ライフ」に通った。『気狂いピエロ』に『スケアクロウ』、『真夜中のカウボーイ』に『フレンチ・コネクション』、『赤い鳥逃げた?』に『青春の蹉跌』、『燃えよドラゴン』に『追憶』。『狼たちの午後』に『アメリカの夜』。
……ここに挙げたのはほんの一部。たくさん観た。観るだけでは飽き足らず、8ミリカメラを親に買ってもらったクラスメートの長谷川君が脚本を書いて映画も撮った。僕のポジションは助監督。監督の長谷川君以外はみんな助監督。制作とか美術とかの発想はなかった。
それから長い月日が過ぎた。人生についてほとんど、は言い過ぎだけど、少なくとも半分近くは映画から学んだ。もちろん映画は疑似体験だ。現実と混同はしない。示唆とか補助線とか暗喩とか、呼び方は何でもいい。そして今思えば、あの時代に観て刺激を受けた作品のほとんどは、今ならばシネコンでは上映しない映画だ。
ハリウッドや巨大資本に支えられた映画ばかりではなく。小さな映画を守りたい。小さな映画館は必要だ。そしてそのためには、できるかぎりの声をあげます。
白石和彌 コメント
ミニシアターの戦いはまだまだ続きます。少しでも力になれないかと模索する中、井上先輩からこんなアイデアが。自作だけではなくどんな映画でも語るという趣旨が楽しい。プロレスでいうとバトルロワイヤル。荒井さんがいる中、アニメとかゾンビ映画とか語りたい。劇場の皆さん、是非呼んでください。
井上淳一 コメント
苦しいのはミニシアターだけじゃないのは分かっている。居酒屋だってパチンコ屋だって風俗業界だって旅行会社だって、外国人技能実習生だって学生だってフリーランスだって、映画に限って言えば、スタッフだって役者だって配給会社だって宣伝会社だってポップコーンを納入している業者だって苦しい。それは分かっている。分かっているけど、それでも自分の映画をずっと上映してくれているミニシアターをどうにかしたいという想いはどうしようもない。普段から決して経営が楽ではないミニシアター。50席を半分にしたら25席だ。地方では平日にそれだけ入れば、御の字だろう。でも、それだって、土日や入る映画で50人近く入って、トータルすればだ。満席が半分じゃキツい。客足だって完全に戻っていない。いくら感染対策に気を遣っても、映画館が「映画館に来い」とは言いにくい。ならば、我々が代わりに言えばいい。映画館に映画を観に行くことこそが #SAVE the CINEMA だと。次に映画を作った時、それを上映するミニシアターがなくなっていて、一番困るのは我々だ。だから、これは自分自身を救うことでもあるのだ。
トークショー決定(※4人全員のトークショーはまだ決まっていません)
6月5日(金)19時30分開始 @シアタードーナツ(沖縄市)
『新聞記者』『i―新聞記者ドキュメント』『誰がために憲法はある』
森達也・井上淳一
望月衣塑子(原作・出演)・阿部岳(沖縄タイムス)・玉城江梨子(琉球新報)
6月6日(土)12時40分の回上映後 @シアターセブン(大阪市)
『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(白石和彌監督デビュー作)
白石和彌ほか出演者
6月6日(土)15時45分の回上映後(協力企画) @第七藝術劇場(大阪市)
『止められるか、俺たちを』
井浦新・白石和彌(本作監督)・井上淳一(本作脚本)ほか出演者
6月6日(土)19時00分の回上映後 @シアターセブン(大阪市)
『戦争と一人の女』
井上淳一(本作監督)ほか出演者
6月9日(火)18時45分の回上映後 @シアターセブン(大阪市)
『戦争と一人の女』
荒井晴彦(本作脚本)・井上淳一(本作監督)
6月12日(金)19時00分の回上映後(協力企画)@第七藝術劇場(大阪市)
『止められるか、俺たちを』
井浦新・白石和彌(本作監督)・井上淳一(本作脚本)ほか出演者