「More Cinema in Life. ~ITのチカラで、映画館をもっと身近に。~」をミッションとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者に、映画館について、映画についてお話を伺う。
原作の川村元気が自らメガホンを取り映画化した『百花』が9月9日より全国東宝系にて公開された。今年も『コンフィデンスマンJP 英雄編』『シン・ウルトラマン』など話題作への出演が続く長澤まさみ。今作では、菅田将暉演じる葛西泉のレコード会社同僚で、初めての出産を控える妻・葛西香織を演じている。映画館の話や今作についてお話を伺った。
長澤まさみ
NAGASAWA MASAMI
1987年生まれ、静岡県出身。
2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリを受賞しデビュー。ドラマ『ドラゴン桜』、『プロポーズ大作戦』、『コンフィデンスマンJP』に出演、主な映画出演作に『世界の中心で、愛を叫ぶ』(2004年)、『モテキ』(2011年)、『海街diary』(2015年)、『キングダム』(2019年)、『MOTHER マザー』(2020年)『シン・ウルトラマン』(2022年)などがある。10月期の連続ドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』、来年には映画『ロストケア』の公開が控えている。
初めて自分の声を映画館で聞いた時、「変な声!」って思いました
――普段、映画館には行かれますか?
長澤:行きます。忙しいときは全然行けないんですけど、休みの時は行きます。すごく映画オタクって感じじゃないかもしれないですけどね。
――頻繁に映画館に行かれているんですね。
長澤:映画が観たいとき、郊外に行くと楽しかったりしますよね。横浜のミニシアターとか。郊外でしかやってない映画を観たり。
――自宅で配信された映画を観ることも当たり前になってきましたが、映画館で映画を観るのと自宅で観るのとで違いはありますか?
長澤:全然違いますよ。集中力が違う。家で映画観ちゃうと集中力が欠けますよね。他の音とか気になっちゃう。家でやらなきゃいけないことが多いと止めて観ちゃったりします。映画館だとそういうことがなくてすむので、そんな時に映画館の有難みを感じます。
――長澤さんと同世代の方が、映画館に来てもらうにはどんな工夫が必要でしょうか?
長澤:その映画館の特性かな。IMAXがすごいとか、音がいいドルビーアトモスとか、ああいう特別な施設だとより楽しいっていうのはありますね。逆に、すごく小さくて昔っぽいレトロな雰囲気の単館系も、それはそれで雰囲気があっていいだろうし、映画館の特性があれば楽しめる、それをイベントにできるのではと。
――記憶に残る、映画館での思い出は?
長澤:一番初めに自分が出演した時かな。「変な声!」って思いました。映画がデビューだったので、初めて自分の声を聞いたのが映画館で。思ってた声と全然違って、声が高くてびっくりしました。自分の出ている映画や、「東宝シンデレラ」のPRCMみたいなものが流れて、大きいスクリーンに自分が映ることも、とても違和感を感じましたし、声が変で面白かった。
菅田さんが悩み、考え、立ち止まりながら演じている姿を見て、共感しました
――ここからは『百花』について伺いたいと思います。 川村監督の企画・プロデュース作品に多数参加されていますが、川村監督の作品に今回参加されていかがでしたか?
長澤:川村さんはプロデューサー脳と監督脳、両方ある人だと思います。もちろん監督として「見たい画」を求める貪欲な姿も見えますが、理性で動くタイプの人だと思うので。要らないな、と思ったら決断が早い。プロデューサー的感覚なのか、バシッと決め打ちして、無駄なものを撮るイメージはないです。その潔さがワンシーンワンカットに出ていたりするのかな、と思ったりします。私は長年一緒に作品を作ってきているというのもありますので、信頼を置いて安心して現場にいられたという感じでした。
――今回、菅田さんと夫婦役を演じられていかがでしたか?
長澤:菅田さんとは今回も撮影日数が少ないですし、『銀魂』の時も1日仕事だったりして、菅田さんがどういう俳優さんなのかっていうのをまだいまいちつかめてなくて。なんでも器用にこなしてしまうイメージがあったんですけど、今回夫婦役で、悩み、考え、立ち止まりながら演じている姿を見て、不器用な一面が見えて、とても共感しました。なんだか安心しました。
香織のまっすぐな部分に共感します。
――今回、何度か二人で歩きながらセリフを話すシーンがありましたが、いかがでしたか?
長澤:しゃべりながら歩いたり、何かをしたりっていうのはけっこう好きですね。ただ止まってセリフを言うよりは、動きの中にセリフがあるほうが、演じているときは楽しめるタイプです。もちろん、夕暮れ時とかを狙ってたりすると、失敗できないっていうプレッシャーを感じますが、でも面白くて好きですね。なんだか時間が流れている気がして。
――香織を演じる上で心掛けたことはありますか?
長澤:「こんな良い人いるのかな」と思って。原作を読んだとき、香織はどこか冷たいというか、俯瞰で見ている人という印象がありました。台本を読むと、ただただ、こんな人いないよ、というくらいできた人間で、違和感を感じて。本心はどっちなんだろう、というのを悩んでたんですよね。撮影が始まって監督と話したときに「香織は優しい人だから」と言われて、そっちでいいんだ、って色々腑に落ちて演じやすくなりました。まっすぐな香織がいることで、親子が繋がっている構図が出来上がっている。だけど、「こんな良い人いない!」って思っています。
――香織とご自身に共通するところはありますか?
――今回の撮影は今村圭佑さんですが、完成した映像を見た印象はいかがでしたか?
長澤:今村さんの映像は本当に美しいなって思いますね。あきらめない、粘り強い感じがカメラマンらしいなって。子供の頃からずっと思っている感想ですけど、カメラマンさんって、一番逃げちゃいけない立ち位置にいるじゃないですか、どんなことがあっても。そういう瞬間をきちんとカメラに残している人という印象があります。
――今回の映画で好きなシーンを一つ挙げるとしたらどのシーンでしょうか?
長澤:冒頭の、百合子(原田美枝子)さんがピアノを部屋で弾いているところは本当に好きです。すごいなって。この撮影のためにピアノを覚えられたんですが、先生らしさだったり、弾けなくなっていく感じが、そんな風には思えません。
目の前にある自分の人生に対して、ちゃんと向き合える人間でいたい
――この作品の見どころを教えてください
長澤:誰しもが共感できる物語だと思うんですよね。いつかは自分もその局面に立ち向かう、直面する時がくるという物語だと思います。その空気感も楽しんでもらいたいです。記憶の曖昧さというのもこの映画の面白さなのかなって。元気さんも言ってますけど、記憶が正しいか正しくないか、っていうのは、あくまで自分の主観でしかない。自分が切り取ったひとつの記憶しか自分の中には残ってないわけで。いろんな断面から見た記憶があると、自分の思っていなかった感情と出会えたりするというのが、この物語の面白さなのかなって思います。
――長澤さんの写真集『ビューティフルマインド』で、川村元気さんがショートストーリー『私は134歳』を寄稿されていますね。
長澤:別の企画で使おうと思ったのに長澤に書いてやったよって。私のために書いた物語ではないとは言われました。笑
――その物語では134歳の長澤まさみさんが描かれていましたが、これから歳を重ねていく中で、長澤さんの人生において、女優という仕事をどのように考えていらっしゃいますか?
長澤:難しいですよね。よく、この仕事ずっとやりたい?とか聞かれたりしますが、まず、辞めようと思ってやってないですからね。辞めるために仕事をしてない。ちょっと先の人生を作るために仕事をしているので、その質問は何の意味があるんだろう、って疑問に思ったことがあります。どういう風にしたいっていう目標みたいなものはあんまりないんですが、今あることに対しては、誠実に向き合っていきたいと思っています。年齢を重ねれば重ねるほど、お芝居って深いんだなって気付かされます。あくまでも自分が演じるものだから、今ある自分が、やっぱり少しはその役に染み出てるんだなって思うときがある。だから、仕事に対してだけじゃなくて、目の前にある自分の人生に対してちゃんと向き合える人間でいたいなと思いますね。それがいろんなものを作ると。
――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
長澤:このサイトを見ている方々は、映画館・映画好きの人が多いと思うので、いろんな映画を観てきて、自分たちでそれぞれの好みで選んでいると思います。その中の一つとして楽しんでもらえる映画になっていたらいいなって思っています。
(取材・写真:曽根真弘/照明:田中銀蔵/ヘアメイク:スズキミナコ/スタイリスト:MIYUKI UESUGI(SENSE OF HUMOUR))
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