『はだかのゆめ』甫木元空 監督 インタビュー Bialystocksと映画監督との往来の中で生まれる表現とは

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甫木元空

「More Cinema in Life. ~ITのチカラで、映画館をもっと身近に。~」をミッションとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、これから注目の監督・キャストにお話を伺う。

第35回東京国際映画祭 <Nippon Cinema Now 部門>にも選出された 『はだかのゆめ』が11月25日より渋谷シネクイントほか全国順次公開される。二人組バンド Bialystocks (ビアリストックス)のボーカルとしても活動する甫木元空が今作の監督を務める。そんな彼に映像を始めたきっかけや今作についてお話を伺った。

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甫木元空
HOKIMOTO SORA

1992年生まれ、埼玉県出身。
現在、高知県四万十町在住。多摩美術大学映像演劇学科卒業。2016年青山真治・仙頭武則が共同プロデュースした『はるねこ』で監督・脚本・音楽を務め長編映画デビュー。第46回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門出品。2019年にはバンド「Bialystocks」を結成し、今月、ポニーキャニオン IRORI Records よりメジャーデビュー。メジャーファーストアルバム『Quicksand』を発売する。



青山真治に見出されて

――甫木元さんが映像制作を始められたのはいつ頃ですか?

甫木元:多摩美術大学の映像演劇学科というところに入学してからですね。3年生の時に青山真治監督が講師として入ってきて、脚本を書くとか、いわゆる映画みたいなことを制作したいなと思うようになったのはそれがきっかけです。

――映画監督を目指すようになったきっかけは?

甫木元:企画を出して脚本を書いて、40分の映画をとにかく作ってみるという授業があって。それとはまた違う授業では、青山さんが学生を使って映画を撮るというのもあり、そこで助監督として入ったんですけど、その時期に他の監督にも助監督でつく機会がありました。それぞれ独自のマイルールがあって、やりたいことを具現化していくためにみんなでアイデアを出し合って作っていくというのを見ることができたんです。自分一人じゃできないけれど、こういう風にいろんな人と集団で作っていくということだったらできるかもな、って思ったのが同時期くらいですね。

――長編デビュー作となった『はるねこ』はどんな経緯で制作されたのでしょうか?

甫木元:大学3年のときに父親が亡くなった際に、膨大に家にホームビデオが残っていることがわかって。僕が生まれる瞬間から小学校ぐらいまで、短くほぼ毎日何か記録されていた。それを再編集して、最後に現在の自分が出てきてエンディングを歌うっていう、映画と演劇を混ぜたようなドキュメンタリーを卒業制作で作りました。それで初めて自分で作曲して人前で演奏したんですけど、それを青山さんが見て「お前卒業したら何をやるんだ」って話になって、「なんも考えてません」みたいな。(笑)「とりあえず脚本を書いてみろ」ってことになりました。<地元で撮る、新人の役者が主演、音楽はお前がやれ>っていう条件で企画考えてみろと青山さんから言われて、そこからって感じですね。

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――現在、高知県にお住まいですが、埼玉から高知に移住されたきっかけを教えてください。

甫木元:前作『はるねこ』の上映が劇場回り終わってひと段落したときに、次も自分のルーツに近いところで映画を撮りたくて。甫木元という姓のルーツでもあって、小さいころから夏休み・冬休みに行く高知県で何かできたらな、と思ったのと、90才ぐらいの祖父を看病するために高知に行った母親のほうが病気になって。それもあって、高知で映画を撮りたいと思っていたし、そういう流れなのかなと思いながら、行ってとりあえず脚本でも書いてみようかなと。

――『はるねこ』は生まれ育った埼玉県が舞台。今作も現在お住まいの高知県が舞台ですが、生活している土地だからこそ、描けることもあるのでしょうか?

甫木元:埼玉は小さいころから住んでいて、何が特徴とか、何が面白いというのが客観視できずに撮っていたと思います。高知に来たら、なんでも新鮮なんですよ。両方住んではいるけれど、高知ではまだ外から来た人で、埼玉はずっと小さいころから見てきたものなので、その被写体との距離感みたいなものはかなり違います。いま距離ができた分、逆に埼玉のこういう部分面白いな、というのがいろいろ分かってきました。

高知に行ってまず最初に、いろんな人に話を聞きました。見えているものだったり、そこの風景が特別だって思う感覚も本当に人それぞれだなって思って。高知にいるときは、外から来た人として自分が面白いなと思ったものをとにかくメモしたり、じいちゃんや母親が話すことを書き留めてリサーチするところから始めました。

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(C)PONY CANYON

キャストが生み出す世界観

――『はだかのゆめ』はセリフで語らないシーンが多い印象でしたが、キャスティングする際に、役者のもつ身体性のようなものは意識されたのでしょうか?

甫木元:内容は自分の体験が発端だったので、なるべく自分から距離を置きたい、ただの再現にならないようにしたいなと思っていて。4人がとにかくバラバラになるようにっていうのは漠然とありました。同じ場所にいるんですけど、見えているものが違うというか、考えていることも全く違う4人が一つの空間にいる、みたいなのを漠然と思っていた。ミュージシャンの人がいたり、自分の祖父がそのまま出ていたりとか。この再現をしてくれ、とか、風景に溶け込むように何かをするっていうよりは、個性的な人がいいなというのはなんとなく思っていましたね。そのまんま高知にいれる人っていうか。

――主演の青木さんとは、撮影中にはどんなやりとりをされましたか?

甫木元:入る前は少し話し合いました。背景だったりとか。入ってからはけっこうお任せの部分が多かったと思いますね。

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(C)PONY CANYON

――唯野さんの演じられた母親の仕草や話し方がとても印象的でした。芝居に関して何か話はされましたか?

甫木元:病気であるというのを、体の動きでそのまま出して欲しくないっていう話は最初にしました。うちの母親は癌だったんですけど、普通に見ている分にはちょっと足が不自由なぐらいで、常にしんどそうな感じではない。人と生活しているから、どこか気丈にふるまったりするじゃないですか。常にしんどそうだったり辛いようなのは違うなと思っていました。余命宣告を受けていて限りがある中で、ちょっとした出来事みたいなことが、普通の人だと通り過ぎるような細部まで逆に日常の幸福を覚えるような、時間の捉え方が少し違う人、っていう漠然とした話は唯野さんとしました。

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(C)PONY CANYON

――前野さんとはミュージシャン同士の交流があっての今回のオファーだったのでしょうか?

甫木元:単純に僕が聴いていたというだけで、埼玉出身というのだけ知っていて、なんとなく勝手に親近感を抱いていました。でもここにポンと前野さんが入ることで、良い意味での違和感というか、境界を一人悠々と超える感じは面白いかなと思ってお願いしました。

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(C)PONY CANYON

――監督の祖父・尊英(たかひで)さんが出演されています。尊英さんのキャスティングはどのような経緯だったのでしょうか。出演はすんなりOKしてくださったのでしょうか?

甫木元:祖父の話を聞いていて「この言葉いいなあ」とか思ったりしていました。「柚くんにこの質問をうちのじいちゃんへ投げかけてもらったら、こういうの返って来るな」っていうのはなんとなくわかっていたので、自分が普段やっている、小さいころからずっと生活してきて繰り返してきたことを、ただ同じことをやってくれればいいから、っていうアバウトなことを祖父に言って、来週撮影隊がきますと。(笑)そう話して了承してもらいました。

ドキュメンタリーのように「よーいスタート」とかかけずにやったほうがいいのかなとか、模索しながらやっていたんですけど、本人から、他の役者と同じようにスタートをかけて、どういう動線でいくとか教えてもらわないとわからないって言われて。そこからは全く他の人と変わらず同じようにやりました。生活や畑仕事など、普段祖父が やっていることをそのまま脚本には入れてあって。風景じゃないですけど、自分が見てきた痕跡みたいなものは、他の人というよりは本人にそのままやってもらうのが一番いいのかなと思ってお願いしました。

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(C)PONY CANYON

Bialystocksと『はだかのゆめ』

――今作では監督ご自身のバンドBialystocksが音楽を担当されていますが、劇伴として使用するにあたって何か意識されたことはありますか?

甫木元:脚本を書いていた時期に聞き取りしていた祖父の言葉で、これは音楽に向いてるな、これは映画に向いているなっていうのを自然と振り分けていって、それでできた曲っていうのがいくつかあって。それが一番自分の中で音楽を想像しやすかった。出来上がったものをもう一人のメンバーの菊池に見せて、何ができるかなと。

音楽によって印象を変えようとすればいくらでも変えられる映画なので、他の人にお願いしても、その土地の雰囲気を共有している人じゃないとちょっと難しいだろうな、っていうのはなんとなく最初から思っていました。初めは、どっかの子供がピアノ弾いているのがたまに聞こえてくるくらいっていうのを考えていたんですよ。意外とそっちのほうが嘘くさくなってしまって、そこも試行錯誤しながらでした。いわゆる劇伴みたいなものをちゃんと作って「嘘は嘘」って振り切って音楽を乗せる、というのを編集しながら作っていきました。

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(C)PONY CANYON

――映画と同じタイトルを付けられた主題歌『はだかのゆめ』には、どんな想いを込められたのでしょうか?

甫木元:映画自体は、余白が多くあって、饒舌に物語らない内容になるとなんとなくわかっていました。あの曲自体は脚本が完成する少し前からできていたのですが、言いたいことが凝縮されているので、最初はそれを乗っけるのもベタすぎるかなとか、自分との距離が近すぎるかなと思っていましたが、あの映画を見た後だから、単体で聞くのとまた違う聞こえ方がするんじゃないかと思って。その時自分が考えていた気持ちがかなりわかりやすく書かれているという、映画とのコントラストみたいなのがあるといいなと思いながらつけました。

今までとは違う場所へ

――監督はこれまで「身近な人との別れ」ということに対して、ある意味、向き合わざるを得なかったと思うのですが、今作が完成したことで、監督の中で何か心境の変化や、一区切りついたような感覚はありますか?

甫木元:たまたま、前作撮ったのも父が亡くなってだとか、今回は母親だったり、意図してできたというよりはそうなったという感じだったので、自分とは離れた人を物語で伝えるみたいなこともできたら面白いだろうなとは思います。音楽に関しても。自分のここ数年の話としてはここで一個句読点を打てた感じはあるので、また全然違うところに行けるといいかなと思ったりもします。

――最後にこの記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

甫木元:映画も音楽もやっていて、どっちが窓口になってもいいので、あんまり気負いせず、気軽に劇場に来てもらったり、音楽を聞いてもらえたりしたらありがたいなと思います。

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(取材・写真:曽根真弘)

映画『はだかのゆめ』は11月25日より渋谷シネクイントほか全国順次公開
監督:甫木元空
出演:青木柚/唯野未歩子/前野健太/甫木元尊英 ほか
配給:boid/VOICE OF GHOST
公式サイト:https://hadakanoyume.com 公式Twitter:@hadakanoyume

(C)PONY CANYON

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