「若年性更年期」を抱える女性の恋愛を描いた最新作『更年奇的な彼女』が4月8日より大ヒット公開中の クァク・ジェヨン 監督。凶暴だけどキュートな彼女に振り回される男を主人公にした『猟奇的な彼女』(01)で一躍、名監督として一世を風靡し、日本公開(03)から10年以上を経た今もなお「ラブコメディの金字塔」として燦然と輝く代表作に。その後、日本映画デビューを果たした『僕の彼女はサイボーグ』(08)では、主演に綾瀬はるか×小出恵介を迎え、未来から来た人造人間の少女と青年の共同生活をコミカルかつ感動的に描き出し、大ヒットを記録した。
最新作『更年奇的な彼女』では、ヒロインのチー・ジアを演じたジョウ・シュンが撮影終了後に本編同様“逆プロポーズ”をして結婚。吹き替えを務めた藤原紀香も公開を前に、かねてから交際していた歌舞伎役者・片岡愛之助とめでたくゴールインするなど、結婚運の高まる「縁起のいい映画」として話題を呼んでいる。【監督・俳優のすすめVol.21】では一癖も二癖もある強い女性の“弱い面”を繊細に描き出すクァク・ジェヨン監督の魅力に迫る。
◆代表作『猟奇的な彼女』ブームの火付け役は大林宣彦
大学生のキョヌは、地下鉄で酔っ払って電車にひかれそうになっている女の子を助け、ひょんなことから「彼女」と交際を始める。シナリオ作家を志望している「彼女」にキョヌはどんどん惹かれていくが、強引で凶暴な性格に振り回されていく。本作が日本で注目を集めたのは、02年に開催された第13回『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』。『転校生』(82)『時をかける少女』(83)で知られる巨匠・大林宣彦の妻でプロデューサーの大林恭子が本作を見つけ、この年の審査員だった大林宣彦が上映を勧めたのがきっかけ。当時日本での公開は決まっていなかったが、アミューズ・ピクチャーズによる配給が決まり、2003年1月に公開された。チョン・ジヒョンが演じる「彼女」の、キュートでもありハチャメチャな行動や、今までのヒロイン像になかった魅力に日本中が引き込まれた。
◆綾瀬はるかの映画初主演は『僕の彼女はサイボーグ』
20歳の誕生日をたった一人で過ごす大学生のジローの前に突然現われた一人の美女。予測不能の言動でジローを振り回し、あっという間にいなくなってしまう。21歳の誕生日に再び彼女が現われるが、1年前に一目惚れした“彼女”とそっくりな“サイボーグ”だった。繊細でパワフルな彼女と、ちょっと頼りないジローの共同生活を描くSFラブストーリー。
ドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」(04)でブレイクし、「白夜行」(06)や「ホタルノヒカリ」(07)などで主演を飾り、人気絶頂の頃『僕の彼女はサイボーグ』(08)で映画初主演を果たした綾瀬はるか。小出恵介もまた『恋空』(07)やドラマ「ROOKIES」(08)で人気絶頂の中での出演となった。クァク監督にとって慣れない環境での撮影であったが、綾瀬の繊細な演技や体当たりのアクションを引き出し、小出をどこか頼りなくも温かなハートを持った青年に仕立てた。
◆最新作『更年奇的な彼女』は結婚運の上がる「縁起のいい映画」
『猟奇的な彼女』(01)『僕の彼女はサイボーグ』(08)に続き、“彼女”シリーズ3部作の完結編にあたる最新作は、恋のトラウマから「若年性更年期」になってしまう結婚を夢見る女の子チー・ジアと、同級生の中で“最も冴えない男”ユアンとの恋模様を描く感動作。
ある女性警察官(現シナリオ作家)からアイデアを得たというクァク監督。「若年性更年期」という病気自体は中国にもあったものの、その意味を表す文字はなく「中国では「早更」と書くんですが、こういう言葉はもともと存在してなかった。この映画をきっかけに作られた言葉」とインタビューで明かしている。ヒロインのチー・ジアを、「更年期」という心情変化を繊細に魅せ、お酒に酔うシーンでも実際に酔いながら演じきったジョウ・シュン。撮影後に彼女は“逆プロポーズ”を成功させ、吹き替えを務めた藤原紀香もめでたくゴールインしたことに、結婚運の上がる「縁起のいい映画」として話題を呼んでいる。
これまでの作品を通して、“破天荒で強い女性”を軸に描くラブストーリーを得意とするクァク監督。「惹かれるというよりも、『強く見えるんだけど実は弱い面を持っている』という描写がすごく好きなんです」と自身が語るように、一貫して強くて癖がありながらも、どこか心に柔らかい部分を持っている女性をパワフルかつ繊細に描写している。それに振り回される男性もまた、弱気な部分を多くさらけ出しながらも、しっかりと支え続ける共通点が伺える。
◆日本での2作目は古川雄輝が一人二役を演じるファンタジック・ラブストーリー
『脳内ポイズンベリー』(15)や『ライチ⭐︎光クラブ』(16)で話題の古川雄輝と初タッグを組む日韓合作映画『風の色』が2016年夏に公開予定。クァク監督が約8年間暖め続けてきた思い入れ深いオリジナル脚本は、東京と北海道を舞台に描くラブストーリー。“自分とそっくりな人間が3人は存在する”“ドッペルゲンガーに出会うと必ずどちらかが消えなければならない”というドッペルゲンガーの説を基に、恋人を亡くした男性が、彼女が生前残した「自分とそっくりな女性が北海道にいる」という言葉を確かめるため北海道を訪れる。そこで出会った彼女そっくりの女性は、彼そっくりの恋人を亡くしたばかりだった。西邑涼/村山隆とふたつの名を持つマジシャンを古川雄輝が、川口ゆり/最上亜矢と、ダンサーであり恋人を亡くす女性を藤井武美がそれぞれ一人二役を演じる。