映画『聖の青春』完成披露試写会が5日、都内・丸の内ピカデリーにて行われた。この日、主演の松山ケンイチをはじめ、東出昌大、竹下景子、安田顕、森義隆監督が登壇した。
「東の羽生、西の村山」と並び称された、実在した天才棋士・村山聖(さとし)の将棋に全人生を賭けた、29年の生涯を描く感動のノンフィクション小説を映画化した本作は、100年に1人と言われる天才・羽生善治と「東の羽生、西の村山」と並び称されながら、名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、そして羽生ら今も将棋界で活躍する仲間たちとの友情を通して描く。監督を『ひゃくはち』『宇宙兄弟』の森義隆が務める。
この日、劇中さながら袴姿で登場した松山と東出。村山聖を演じる松山は「この役ほどスタート地点に立つまで、時間のかかった役はありませんでした。長い間没頭していたような気がします。村山聖という生き方に心を揺さぶられたので、それを伝えることに熱中していました」とコメント。役作りに関して「村山さんは亡くなってはいますが、実際にお付き合いをされていた方々からたくさんお話を聞かせていただきました。映像も残っているので、役への栄養として参考にさせていただきました。ただ、それだけだとコピーになってしまうので、精神という内面を作り上げていくことで村山聖以上の村山聖になれると思っていた。病、死と向き合う内面の部分が一番苦労しましたね」と述懐した。
兼ねてから「プロ棋士のファン」という東出は、羽生善治を演じることに「台本が来た時に、この大役をもらって本当に鳥肌が立つ思いでした」と語り、「羽生先生が七冠を獲った当時、実際に使用していた眼鏡をお借りしました。嘘のない本物の力を借りれたことは、すごい力になりましたね」と振り返った。松山も「村山さん本人のネクタイをお借りして、対局シーンとかで付けてましたね。若干崩した個性的なつけ方をしていて。そういうところから村山さん本人がどこかで村山聖像を作っているような気がして、それが可愛くもありユーモラスだなと思いました。それが村山さんの青春の一部だったんじゃないかな」と吐露。
一方、病床の村山をサポートするプロ棋士・橘正一郎を演じる安田は、役作りについて聞かれると「セリフを覚えて、ちゃんと言う」とあっさりしたコメントに、会場からは笑い声が。続けて「その上で監督さんの指示にちゃんと応えられるような自分でいようと頑張っていました」と付け加えていた。
イベントの途中では、今年5月に羽生善治三冠を破り14年ぶりの新名人となった佐藤天彦名人が登場。佐藤名人は「主演のお2人が村山さん羽生さんに非常に似ていると聞いています。松山さんは役を演じる上で20キロくらい増やしたそうで、今ここまでスッキリされてるとは思わなかった」と感想をこぼした。松山は「複雑な気持ちですね。村山聖として会っていたら、また違う気持ちになっていたと思う。あわよくば映画界の力を使って、名人と盤を挟んで座ってみたい」と期待をのぞかせていた。さらに、棋士にとって「座右の銘」を表す揮毫(きごう)入り扇子の紹介が。各々が揮毫をあしらった扇子を披露。松山「好きに勝るものなし」、東出「無私」、安田「おだやかに」、竹下「絆」、森監督「聖魂」と掲げた。
中でも松山は「原作を読んで村山聖という人間が好きになった。この人を演じられるなら全部捨られるという想いがあったからここまで来れたんだと思います。やっぱり好きっていう気持ちは、全部越えちゃいますね!それをすごく実感できた現場でした。いま自分の中にあるど真ん中の言葉です」と話した。
また、村山聖にとっての羽生善治のように「自身にとってのライバルや憧れの存在」について聞かれた松山は「ライバルは自分ですね。自分自身に勝つことができなければ、村山聖を演じることはできなかったと思います。(自分に)負けじゃダメだという想いは、今までやってきた中で一番強かった」と明かした。
同じく「自分」と答えた東出は「僕らの世界は白黒つけるのではなく、芸術でいう点数みたいなものだと思うんです。100点もあれば10点もある。結局自分に打ち勝たないと上にはいけないと思うので、ライバルは自分だと思います」とコメントした。安田は「この世界は競争社会ですからね。いろんな方たちに『舌噛んでくれないかな』とか思いがちですが(笑)」と笑いを取り、「男5人でTEAM NACSを長いこと10年やっていますが、彼らとはお芝居というものに共に夢中になれる同志であり、刺激をもらえる良きライバルでもあります」と真摯に語った。
最後に松山は「誰のためでもない自分自身の人生を大事にしたいと心から思える作品になりました。この作品を観て何か心に残っていただければ」と想いを明かし、イベントを締めくくった。
映画『聖の青春』は11月19日より全国公開
【CREDIT】
原作:大崎善生(角川文庫/講談社文庫)
監督:森義隆『宇宙兄弟』『ひゃくはち』
出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、安田顕、柄本時生、北見敏之、筒井道隆、竹下景子/リリー・フランキー
配給:KADOKAWA 公式サイト:satoshi-movie.jp
©2016「聖の青春」製作委員会/©大崎善生(角川文庫/講談社文庫)