『ワイルド わたしの中の獣』監督インタビュー、本物のオオカミとの撮影に挑んだ主演女優の役者魂を称賛

第32回サンダンス映画祭に出品され、あまりの衝撃的な内容から話題をさらったドイツ映画『ワイルド わたしの中の獣』が12月24日より公開中。CG全盛の近年映画界に、あえて本物のタイリクオオカミと撮影に臨み、“野性”に心をかき乱されていく女性の姿を官能的に描き出したのは、女優で監督のニコレッテ・クレビッツ。今回、監督本人に本作の撮影秘話や魅力について語ってもらった。

ワイルド わたしの中の獣
ニコレッテ・クレビッツ監督

ニコレッテ・クレビッツ監督インタビュー


──本作の奇抜なストーリーはどのようにして思いついたのですか?

自分自身の夢から思いつきました。何かに後ろを付けられているなという夢を何度か見て怖かったし、混乱しました。それで夢の中で後ろを振り向いてみたらそこに“オオカミ”がいたのです。そこから着想を得て、自分の住む世界というものを改めて考えてみました。そして、映画を撮影するのに困難な今回の設定をあえて選びました。もう一つの理由は、丁度その頃にオオカミがポーランドの国境を越えてドイツに来ているというニュースがありました。ドイツからはオオカミが消えて100年以上経っています。彼らはすごく魅力的な動物だと思います。上手く環境に慣れる、順応できるという点ではある意味人間に近いですね。だから自分たちの習性を長年変えずにここまで生息できたのです。野生を捨てずに来た、つまり自由を手放すということはなかったのです。そのオオカミ達がドイツという都会に戻ってきた。丁度そのタイミングで夢をみましたから、そこがこの話の骨格になりました。

ワイルド わたしの中の獣

──オオカミはどのようにして見つけてきたのですか?

ハンガリーに行っていくつかのオオカミのグループの中から選びました。オオカミもそれぞれ得意な能力や性格が異なっているので、本作に合っているか適正も確認しました。今回のオオカミは見た目が美しいのとリリト(主演女優)との顔の相性がいいという点で選びました。トレーナーに育てられたネルソンという名前のオオカミです。彼はすごく優しくて紳士的でした。ネルソンには演技経験もあってCMなどに出演していました。彼はトレーナーが連れてきた群れのメインのオオカミで、リーダーでしたので、ネルソンの群れの7匹のオオカミは全部撮影所に連れてこられたのです。ネルソンを撮影が終わるたびに毎回その群れの檻に戻していました。

ワイルド わたしの中の獣

──主演のリリト・シュタンゲンベルクのオオカミとの演技はいかがでしたか?

リリトとはかなり話し合いました。キャスティング・オーディションで彼女は自分の番になった時に、すぐに本作の役柄について話し始めました。命が危うい状況に身を置くというところから説明を始めました。彼女は本作が自分を解放する唯一の機会だと分かっていましたし、私が何も言わなくてもすごくやる気がありました。ですから、彼女とは演出上のやりとりをするだけで、とくに具体的なアドバイスはしませんでした。状況を与えてそれにどう対応するかが俳優の仕事ですよね。私は彼女に恐れを感じてほしくなかったのです。リリトは本当に危険に身を晒していましたが、同時にオオカミに自分自身をすべてさらけ出していました。本当に彼女にとってオオカミは“恋人”という感じでしたね。

ワイルド わたしの中の獣

──主演リリトとオオカミの撮影はどのように行ったのですか?

この映画はものすごく用意周到に撮られています。つまり、安全をきちんと確保していました。まず、ハンガリーからオオカミのトレーナーを呼び寄せました。そのトレーナーにオオカミとの撮影はどこまでが可能なのかを色々と相談しました。オオカミが主人公を観て喜ぶ様子などを撮りたかったので。撮影は全部で28日間、1日の撮影は10時間くらいで、その内オオカミの撮影は15日間で1日3~5時間でした。主役のリリトは撮影前の3週間ハンガリーに行き、オオカミトレーナーの元で指導を受けました。そして、撮影は一匹のオオカミ(ネルソン)でほとんど撮影しました。オオカミはあまり長く檻から出しておけません。オオカミと上手く撮影する秘訣は、オオカミをそこそこお腹いっぱいにしておくことです(笑)。

ワイルド わたしの中の獣

舐めるという動作ではフォアグラを利用したり、リリトの後を付いていくシーンではポケットに肉片を忍ばせて少しずつ落としていったりしました。基本的にエサにつられればなんでもやりますね。しかし、オオカミは絶対に自由になる機会を見逃さないのです。もし檻の扉を少しでも長く空けていたりすれば、その隙に出て行って二度と帰ってこないでしょうね。犬とは違います。そもそも人を喜ばせようとは思ってないですし、どうでもいいんですよね。そこが彼らの魅力でもあります。だからリリトは本当に危険に身を晒しながら撮影をしていました。

──この映画で伝えたかったことは何ですか?

私は皆さんに経験というものを提供したかった。大抵、他の似たような系統の映画だと、自然に還るということは何らかの罰を与えられたりしますよね。コントロールが無くなった状態というのは、すごく怖いです。けれど何かに縛られない、制御されないというのは良いことなんです。私はそれを体感できる映画を作りたかったのです。

──日本の観客へ一言お願いします。

私はスタジオジブリ作品が好きなのでジブリの脚本執筆のオファーが来ないかなと期待しています(笑)。これは私の夢の一つです。他の日本の作品も尊敬していますし、大好きです。

映画『ワイルド わたしの中の獣』は新宿シネマカリテほか公開中

【CREDIT】
出演:リリト・シュタンゲンベルク、ゲオルク・フリードリヒ、ザスキア・ローゼンダール
監督・脚本:ニコレッテ・クレビッツ
配給:ファインフィルムズ

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