2016年スイス映画賞において<最優秀作品賞>ノミネート、<最優秀脚本賞>を受賞し、スイスで絶賛を浴びた衝撃の問題作『Nichts Passiert(原題)』が、『まともな男』の邦題で11月18日(土)より新宿K’s cinemaにて公開中。今回、初来日となったミヒャ・レビンスキー監督に本作の魅力やテーマ、撮影秘話などを伺った。
「よく脚本の練られた、スイス発の複雑な作品(クルトゥーアラジオRBB)」、「日常が狂気に変わる瞬間(シネ・ヨーロッパ)」、「最高の映画だ!(ブリッツ)」など、数々の媒体でも話題の本作。壮麗なスイスの雪山を舞台に繰り広げられる“悲劇につぐ悲劇”の物語を描き出し、2016年スイス映画賞において最優秀脚本賞を受賞した。
観客の感情にのめり込む衝撃 “悲劇につぐ悲劇” 作品のテーマとは?
ミヒャ・レビンスキー監督:こういう問題が起こった時に「どこまで」嘘を吐いてもいいのか。そこの境界線がどこにあるのか。どこかのポイントを超えてしまったら、それは問題と向き合わないといけないところが必ずある。ただそれは、それを隠したりとか無かったことにするのではない。誰かの面子を守るのではなく、潰す方が良いかもしれない。
それは絶対にあるんだけど、どこなのか。どのポイントなのかっていうのは人によって違いますよね。人によっては1番最初に自白する。あるいは最後まで言わずになんとかやり過ごすっていう人もいる。それがどこなのかが、今回の1番のポイントだと思います。
脚本のアイデアはどこから?
ミヒャ・レビンスキー監督:正直なところ、わからない(笑)。思い出せないんだ。僕はこういう仕事をしているので、常に色んなアイデアを持っていて、色んなことをずっと考えている時間がすごく多い。だけど、この考え事がずっと常にあるわけではなくて、どこかに行って忘れてしまったりとか、度々また戻ってくることもある。
今回の映画の考え・テーマに関しては、ずっと自分の頭の中にあったと思う。映画と同じような事件があった時に、実際に警察に行くのは5%くらいという数字が出ているそうです。95%は無かったことになっている。ほとんどの場合は、被害者だけが抱え込んでいるわけではなくて、親・友達・親戚だったりに話します。95%のレイプ事件は、それを知った人達みんなを共犯者にしている。これにはビックリしました。
衝撃のラストは観客の想像にお任せ
ミヒャ・レビンスキー監督:おっしゃる通りだと思っていて、鑑賞したたくさんの人がラストについて議論しました。私のところには、実際に「何でそこで警察が出て来ないんだ」というような苦情を言ってくる人もいた。その感想がまさしく私は正しいと思う。
主人公と同じ状況に立たされたらどうする?
ミヒャ・レビンスキー監督:その時になってみないとわからないけど、私のモラルから言えば、かなり早い段階で何か行動を起こしていたと思います。レイプは犯罪なので、もう自分1人でどうにかできる問題ではない。もう自分で解決出来ることの範疇を超えていると思うから、すぐに警察に行くと思う。それがその子にとって、ちょっと嫌な思いをさせてしまうことになるけども、早い段階で警察に行くのでないかなと思います。
もしかしたら、これは文化的な要素もすごく大きいのかなと思っていて...というのも、ドイツとスイスでこの映画を上映した時は、みんな他人事というか「自分だったら絶対こんなことはない」っていうディスタンスを感じたようです。
日本の評価としては「すごくわかる」「共感出来る」とか、そういった言葉をたくさん聞いたんですけど、そう評価してくれたのは日本が初めてです。もしかしたら日本の礼儀を重んじる文化なのかもしれないし「他人の面子を守りたい」「調和を乱したくない」とか、あるいは「問題を起こしたくない」「コンフリクトが起こることを恐れている」といった文化的要素があるのかなと思ったりします。
ミヒャ・レビンスキー監督:ドイツの人は何か問題が起きた時に、ほぼ必ず、とにかく喧嘩できるときはすぐ喧嘩するんですね。「喧嘩」という言い方が正しいのかはわからないけど(笑)。問題について話し合って必ず解決をします。どんなに喧嘩をしても、そのあと後腐れしない。おそらく平均的なドイツ人であれば、絶対に主人公とは違う行動に出ます。スイス人である私であったり、日本人とは違う行動に移ると思います。
ミヒャ・レビンスキー監督、日本での初公開を迎えて
すごく嬉しいし、楽しみにしている。本当に観てくれるだけで幸せな気持ちでいっぱいです。
映画『まともな男』は11月18日(土)より新宿K’s cinemaにて公開中
【CREDIT】
監督・脚本:ミヒャ・レビンスキー
出演:デーヴィト・シュトリーゾフ、マレン・エッゲルト、アニーナ・ヴァルト、ロッテ・ベッカー、ステファヌ・メーダー、マックス・フバッヒャー、ビート・マルティ、オリアナ・シュラーゲ、テレーゼ・アフォルター
原題:Nichts Passiert
配給:カルチュアルライフ/後援:スイス大使館
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