第71回カンヌ国際映画祭にて、映画『万引き家族』のフォトコールと公式会見が行われた。
フォトコールと公式会見に参加したのは、是枝裕和監督、リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林、城桧吏、佐々木みゆ。会見上では多くの海外メディアが駆けつけ次々と質問が飛び交い、会見終了後は、サインや写真撮影を求める人々が殺到。プレス用に開かれた上映会終了後は絶賛の嵐で、是枝監督が新たに描く“家族”の物語に世界各国の心を感動で震えさせた。
──これまでに家族の物語を描いてきたと思うが、今回はまた新しい家族の形が描かれていると感じた。
是枝監督:5年前に『そして父になる』で血のつながりか時間なのかというものを描いて、その先に今回のモチーフが生まれてきた。ファミリードラマであるが、社会との接点にフォーカスをあてた。
──昨日のスクリーニングの反応について。
是枝監督:これまでのどの経験も感慨深いが、昨日はこれまでで一番温かい感じる拍手が続いて、今まで映画をつくってきた20年間が報われた気持ちになった。
──是枝監督作品には何度も出演しているが、是枝監督との仕事とはどんなものか?
リリー:是枝さんとの時間は、特殊な空気、魔法の時間、あっという間で濃厚で素晴らしいもの。
──子役と演じるにあたってリハーサルは何度も重ねたか?
松岡:海外と違い、日本の子役への演技指導は固まっている。一方、監督は自由に流動的に演出されるので、子供の魅力が開花されて、今作においても奇跡的な場面が生まれた。
──子役のキャスティングについて。
是枝監督:いつもオーディションでこの子を撮りたいかどうかで決める。台本を覚えるのではなく、その空気にどのように存在するかを見極めていく。今回も素晴らしい2人を選べた。
──今回是枝監督作品には初参加だったが、どんな経験だった?
安藤:今作は、自分自身にとって子供が生まれてはじめての作品だったこともあり、演者としても人間としても成長させてもらった作品。リハーサルはあまり重ねなかったが、事前に何かを背負って準備していかなくても、現場で向き合っていくと呼吸をするようにその世界に入っていけるような、そんな特別な時間だった。
公式会見
──今回も家族をテーマにした作品だと思うが、家族を通じて日本社会を伝えていくことがより効果的だと思っているからか?
是枝監督:効果的だと思ったからかといわれるとちょっと違う。この数年、ファミリードラマを撮り続けてきたが、今回はどちかというと少し視野を広くもって、現代と社会と家族との摩擦する面をきちんと描こうと、あくまで、社会を描こうというよりかは家族を描こうと思った。ただ今回は今までより社会によって、切り裂かれていく家族を描いてみたいと思った。
──今回描かれる家族は貧しく、ある意味哀れといえるが、見終わったあとに、この家族の一員になりたいと思った。この感想についてどう思うか?
是枝監督:この家族が実際にいたとして、日本で報堂されたらただの犯罪者でしかない。ただ、カメラがあの家に入ったときに、報堂だけでは伝わらない、ある種の豊かな繋がりや僕たちが感じられない色や光があって、その家族の姿を描くことによって、僕らの家族とか共同体というものが逆に照らされるというか、そんな存在としてあの家族を描きたいと思った。彼らが感じている喜怒哀楽を豊かに描きたいという風に思った。
──家族をモチーフにした作品だが、ある意味あなたにとって新たな家族に出会えたというように思ったか?
城:万引きは悪いことだけど、すごい楽しい温かな家族だと思った。
みゆ:新しい家族ができました!(一同笑)
──日本では未婚者が増えていたり、夫婦でのセックスレス問題など人と人との接触が減っていることが報道などで知られているが、ある意味そういった問題についても、作品においてのモチーフとなっているのか?
是枝監督:多分、そういううまくいかない家族関係から捨てられた経験をもつひとたちが集まっている。前提として家族をつくることに失敗しているから、逆に意識的に考えている。そういうやり直そうとしている感じがあの家族の中にあったと思う。指摘するモチーフは中心ではないが、彼らの過去としてきちんと存在していて、そのことがあるからこそ、あそこでの接触があったり、涙や笑顔があるのではないかと思う。
──安藤さんは、今回が初めてのカンヌだと仰っているが、カンヌで出品された三池崇監督の『愛と誠』(12)に出演されていて、義理のお父様は『カンゾー先生』(98)のカンゾー先生役であるわけで、ある意味今回でカンヌが身近になったと思うか?
また、松岡さんは、実際に妹さんがいらっしゃいます。是枝監督は松岡さんの育った環境と照らし合わせてつくっていたりするのか?
安藤:子供の頃の夢というか、わたしの家族は姉と父が映画監督だったりすることもあり、カンヌというのは家族にとっての夢であり、映画人であれば誰しもが憧れ目指す場所だと思う。今回是枝監督にふわっと連れてきていただいたが、昨日の上映を経験して、とてもすごい場所だと感じた。どういうお土産話をもって帰ろうか考えている。またいつか来れたらいいなと思っている。
松岡:お芝居をするきっかけは妹だった。子供の頃から同じ役を争ったりして、家庭の中で正直風通しがよくないこともあり、そういうときの気持ちが今回の役に通ずるところがあった。現在妹は演技は辞め、新しい夢に向かって進んでいる姿をたくましいと感じる。監督は私と妹とのことは知らないが、偶然にも今回の役と引き合わせてくれた。子供の時に妹には優しくできなかったが、みゆちゃんに、ゆり(みゆちゃんの役名)に対して、役を通して返せてこの作品でカンヌに来れて幸せに思う。
──日本にある実際の社会問題をモチーフにしてあるわけだが、海外メディアの反応は?
是枝監督:昨日何十件か取材を受けたが、ひとつは日本は社会問題をモチーフにした映画が少ないので新鮮に感じたと言われた。もうひとつは、血縁を越えた家族の繋がりというのは『そして父になる』のときもそうだったが、記者の中には養子である方が何名かいて、今回描いたのは特殊な繋がりをもった家族だけど、その物語の向こう側に自分自身の人生のテーマを見出してくれている方が非常に多いなと感じたの昨日の取材を受けた感想。とても自分に近いところでこの作品を捉えてくれている方が多いと感じた。
──2001年『DISTANCE』以来、7度目のカンヌだが、今回自分の気持ちの変化はあるか、最近のカンヌをみて思ったことは?
是枝監督:7度目だからといって、緊張や喜びはないのではないかと言われるが、映画祭に参加するというのは、例えば一本の映画を役者さんたちとつくっていく作業とすごい似ていて、毎回新しいキャストやスタッフと来るし、映画祭も毎回違う変化をしている中で自分も身を置く。幸運にもその流れの中で、7回も来させていただいてとても幸せなことだ感じている。映画祭がどう変化しているかを語れるほど深くウォッチしていたわけでないのでそのことについて語るのは難しいが、僕の中で30~50代で参加させてもらい、作り手として人間として成長でき、キャリアにおいてもすごく大きな存在となっている。ここでまた上映して恥ずかしくない作品をつくりたいと素直に、そういう場所だと思える。映画に対して畏怖の気持ちが持てるという場所が持てるというのは監督にとって幸せなこと。
──是枝監督含め日本で活躍している監督に起用される機会が多いが、なぜ自分が選ばれていると思うか?
樹木:それはー、いやー、んー、、、わかりません・・・。
──是枝監督作品に何度も出演しているが、お互いに相談しあって決めたりアドバイスし合ったりすることはあるのか?
リリー:是枝さんの撮影に参加させてもらえるのは自分にとって特別な時間。人生の中であまり感動したなと思ったことがなく、これまでに2回しかない。1回目は、『そして父になる』でカンヌのスタンディングオベーションを受けたときで、2回しかないその2回目が昨日の夜(公式上映)だった。是枝さんにはいつも勉強させてもらっているのと同時に人生を彩っていただいている。いいものをつくるということが、こういう風景を見られることに繋がったり、温かさを知れるということを教えてもらっている。なので、仕事という感覚はあまりないのかもしれない。
最後の質問が終わった後に「あのすみません、一言だけ」といい語り始めた是枝監督。
是枝監督:リリーさんとは実はそんなに言葉を交わさない。多分お互いが持っている価値観やジャッジする感覚が近い気がする。だから役者と監督として安心していられる関係だといえる。希林さんは先程キャスティングされる理由についてわからないと仰いましたが、お仕事させていただいている監督側からとしてはすごく明快。僕は、自分がつくるものを希林さんに出ていただけるものにする為に努力する。甘いままで彼女の前に立つとすぐに見透かされる。希林さんの前で恥ずかしくない監督でありたいと思う。そういう役者がいることは監督にとって非常に大切な事。今回でいうと、最初に撮った夏のシーンで、希林さんが台本にはない演技をしたが、そこから脚本をなおしていき、演出の指針を与えてもらった。そういう作品への関わりを演技の中でさらっとしめしてくれる存在というのは監督にとっては本当に大きな存在です。なので、私はもう(出演するのは)いいんじゃないのと毎回言われるが繰り返し繰り返し希林さんにオファーするのは彼女のそういう作品に向き合う姿勢に助けられているし、頭が下がる想いでいっぱいだ。
映画『万引き家族』は6月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
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