“監督で観る” “俳優で観る”映画の楽しみ方。今注目の人やこれから注目すべき映画監督・俳優について紹介する【映画監督・俳優のすすめ】。Vol.4は数々の賞を受賞し世界で注目される是枝裕和監督。
Keyword 1:経歴 〜テレビから映画監督へ
日本の映画監督の中で新作を発表する度に世界が注目する実力派の一人、それが是枝裕和監督である。テレビ番組の独立系制作会社の草分けとして有名な「テレビマンユニオン」に参加し、多くのドキュメンタリー番組を手掛けた彼は、「しかし…福祉切り捨ての時代に」(ギャラクシー賞優秀賞)などで評価をされた。そして1995年に宮本輝の同名小説を映画化した『幻の光』で監督デビュー。この作品は、わずか12歳で祖母の失踪を経験し、さらに結婚後に夫の自殺という心に大きな傷を負った女性が、どのように心の傷と向き合ったかを描いた “喪失と再生”のドラマ。ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞した他、シカゴ映画祭グランプリなどにも輝き、日本はもとより世界で注目を浴びる監督としてスタートを飾った。
Keyword 2:フィルモグラフィー 〜カンヌ映画祭の常連
続く『ワンダフルライフ』(99)は世界30カ国、全米200館で公開され、ナント三大陸映画祭グランプリ他を受賞。3作目の『ディスタンス』(01)はカンヌ国際映画祭のコンペティション部門招待作品となり、以後は同映画祭の常連に。母親に捨てられた4人の子供たちだけの生活を描いた『誰も知らない』(04)では、主演の柳楽優弥が同映画祭史上最年少で最優秀男優賞を受賞。母親がわずかな現金と短いメモを残して家出し、残された長男が幼い妹弟の面倒を見る過酷な状況を描いたこの作品は、衝撃と共に世界中で高い評価を得た。そして誰かの「代用品」 “空気人形”が持ってはいけない心を持って動き出すペ・ドゥナ主演の『空気人形』(09)は「ある視点」部門に出品。『そして父になる』(13)は、出生時に息子が病院で取り違えられていた事実を知り、父親が苦悩と葛藤を抱く姿を描いたドラマ。福山雅治を主演に迎え、審査員賞を受賞している。
Keyword 3:テーマ 〜家族の崩壊と再生
監督デビュー作『幻の光』以降、『誰も知らない』など多くの作品で主題としてきた家族の物語。帰省した次男一家と年老いた両親の間で、15年前の長男の事故死が影を落とす『歩いても 歩いても』(08)。両親の離婚で鹿児島と福岡に離ればなれになってしまった兄弟が、何とか家族の絆を取り戻そうと奮闘する『奇跡』(11)。そして前出の『そして父になる』など、物語の中に離婚や死や事故といった家族の崩壊があり、心に傷を負った主人公たちが向き合う “生と死”や“喪失と再生”のドラマが心を打つ。どの作品においても子供たちの演技が素晴らしく、監督は子供たちにフレッシュな演技をさせるため、事前にセリフを教えずにその場で伝え、そこから生まれるライブ的な緊張感と空気を大切にしている。
Keyword 4:“家族”を再び見つめた四姉妹の物語『海街diary』
今年のカンヌ映画祭に出品された最新作『海街diary』(15)で描かれた“家族”は、母親の異なる四姉妹の物語。原作はマンガ大賞2013を受賞した吉田秋生のベストセラーコミック。15年前に家族を捨てた父と、その後に再婚して家を去った母。残された三姉妹(綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆)は、父の葬儀で気丈に振る舞う中学生の異母妹(広瀬すず)に出会う。四人は鎌倉で一緒に暮らし始め、是枝監督はそれぞれが抱える悲しみや愛や想いを、鎌倉の美しい四季に包みながら新たな家族の絆として描いている。
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プロデュース業も精力的にこなし、新人若手監督の輩出にも力を入れている是枝監督。世界が注目する中で、新たな活躍に期待が高まる。
是枝裕和
87年に早稲田大学を卒業後、TVプロダクション「テレビマンユニオン」に参加、主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。95年に初監督作品『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で受賞。続く『ワンダフルライフ』(99)以降、最新作『海街diary』まで話題作をコンスタントに発表。『花よりもなほ』では“仇討ち”をテーマにした初の時代劇に挑戦し、また12年には初の連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」で全話脚本・演出・編集を手掛けている。海外でも多くの賞を受賞し高い評価を受ける、日本を代表する監督の一人。2014年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げた。
『海街diary』
6月13日(土)より公開中
公式サイト:http://umimachi.gaga.ne.jp
【監督・脚本】是枝裕和
【原案】吉田秋生「海街diary」(小学館「月刊フラワーズ」連載)
【音楽】菅野よう子
【出演】綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮、風吹ジュン、リリー・フランキー、前田旺志郎、鈴木亮平、池田貴史、坂口健太郎
(2015/日本/143分)
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