「リリーさんは何もしないでもその存在だけで成立しちゃう人」/『海街diary』リリー・フランキー&是枝裕和監督ティーチイン

吉田秋生の漫画を是枝裕和監督が映画化した『海街diary』のティーチインが東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで6月21日(日)に行われ、是枝監督とキャストのリリー・フランキーが出席した。映画鑑賞後の観客からの質問に答えるトークイベントは、リリーと観客からの質問に是枝監督が答える和やかな空気感に終始包まれた。

DSC_0002

リリー 僕が四姉妹の誰かだったらよかったのに、映画の余韻を崩すようなこんなオヤジが来てすみません。はじめてこの映画を観たとき、犯人は誰だ! とかがあるわけでなく、言ってしまえば何も起こらないんだけど、なんだかジーンときてしまうところが随所にあって、何気ない場面で泣いてしまいました。穏やかな空気が途切れることなくいつまでも続く作品だなと感じましたね。

観客① 今日で三回目の鑑賞です。四姉妹や四季折々が映し出される映像がとても美しくてずっと観ていたくなるような映画でした。リリーさんは多方面でご活躍されていますが、監督から観た俳優としてのリリーさんの魅力はなんですか?

是枝監督 橋口亮輔監督の『ぐるりのこと。』の現場でお見かけしたのが最初で、前作の『そして父になる』できちんとご一緒させていただいたんですが、リリーさんはなんにもしないでもその存在だけで成立しちゃう人なんですよね。それってすごい難しいことで、役者さんにしてみればなんだよ! って思ってしまうことなんだけど(笑)演出家にとっては、身を乗り出してその人のことを探りたくなる。そんな役者さんですね。

リリー 原作があるものを映画化することの難しさってあるんですか?

是枝監督 やりにくいし、最初は苦労しましたね。僕は元々原作が好きだったんですけど、この原作の何が好きなんだろう、原作者の吉田さんは何を思ってこの場面を描いたんだろうとかたくさん考えました。こんなに人の作品を読み解くこともないので、大変だったけど楽しかったです。

リリー 僕は映画の冒頭のシーンもしかり、なんだかエッチな映画を観てしまったなと感じたんですよ。男性はきっと思ったはずですよ! 四季の移り代わりを長澤まさみの身体で表現しているんですよ!

是枝監督 あはは(笑)この映画の中には“死”が漂っていて、葬式のシーンが三度も出てくるんですよね。四姉妹の中でも長澤さん演じる佳乃は“生”の役割を担っているんです。原作でも佳乃の部屋って出てこなかったと思うんだけど、それって佳乃の居場所はあの家ではなくて、誰か男性の隣だからなんですよね。そういった生々しい生命力を感じさせる役目だから、長澤さんには最初から、すみませんがエロス担当でお願いしますとお願いしていました。

リリー 喪服とか普段着もピチっとしていて、計画的にエッチな気分にさせてるのかと思ってましたよ!

是枝監督 衣装といえば、喪服ひとつとっても四姉妹それぞれ着こなし方が違うんですよね。服装から彼女たちの性格がよく表れている。今回衣装を担当してくれたスタイリストの伊藤さんから、彼女たちの下着から決めさせてくれって言われたのには驚きましたね。

リリー それはとても興味がありますね……。僕が思うに、幸は上下色とかバラバラですね。あとはベージュが多そう。三女はボクサータイプ。

是枝監督 あ、三女はそうですね、スポーティな感じでした(笑)次女は日本製じゃないインポートのもの。

リリー わかる! すずはお腹が冷えないパンツを穿いてほしい。

DSC_0007

リリー そういえば、劇中にでてくるご飯がすごい美味しそうに見えたと思うけど、あれは本当に美味しかった。空き時間に普通に食べてましたもんね。なんかわからないけど本当に美味しいんですよ。

是枝監督 空き時間になるとみんなご飯をもって並ぶんですよね(笑)フードスタイリストの飯島奈美さんが多めにつくっておいてくれるんですよ。飯島さんは、「美味しそうに見えて、本当に美味しい料理をつくる」ということが心情だそうですよ。僕もいつも不思議に思うけどなぜか本当に美味しいんですよね。

観客② 私は三姉妹なので、色々共感ポイントがありました。その中で、家の柱に姉妹たちの身長が刻まれていて、幸がすずの身長を書き込むシーンが、すずへの愛情をすごく感じて思わず泣いてしまいました。リリーさんが本作で泣いてしまったシーンを教えていただきたいです。

リリー 何回か泣いてしまったんだけど、人間も街も風景もみんながすずを受け入れている感じにジワジワきたり、すずと千佳が二人でちくわカレー食べているときに千佳がすずに「いつかお父さんのこと聞かせてね」っていうんだけど、この三女が一番父親の記憶がないんだって思って、そんな何気ないところにジーンときたりしていましたね。

海街メイン

リリー すずは台本がない演出方法だったんですよね。それはどうしてなんですか? 大竹さんや樹木さんを前にして、どんなセリフが飛んでくるか分からないとか普通の人の神経じゃ発狂しますよ!

是枝監督 最初に演出方法決めるときに、今回のようなその場で僕がセリフを伝える方法と台本を渡す方法、あと即興という3パターンを実際にやってみてもらったんだけど、すずはどれも上手だったんです。本人に聞いたら今回の方法は他の現場では経験できなさそうだからやってみたいということで決まりました。本人はすごく耳を使ったといっていましたね。相手の表情からどう汲み取るかよく考えていました。

リリー あと思ったのが、綾瀬さんも長澤さんも夏帆さんもみんな主役をはれる女優さんなのにすずをあぶりだすような演技をしていましたね。現場でも本当に仲がよさそうで、みんながすずのことを可愛がっているなと思っていました。

是枝監督 すずももちろん素晴らしいんだけど、本当に周りが素晴らしかった。例えば、さっき話しに出てきた柱のシーンですけど、綾瀬さんがすずの頭をそっと撫でるシーンがあるんです。僕が指示しているわけじゃなくて、アドリブなわけですけど、あそこのシーンにすごいグッときてしまった。やっぱり、急にさぁ撮影始めますといって、すぐにああいった親密な関係が画面の中から伝わるものではないんですよね。現場での親密な雰囲気があってこそ滲みでてくるものなんだと思います。

リリー 続編つくってもいいと思うんだけど。続編ですずがすごいグレちゃってたら嫌だけど(笑)

是枝監督 そういっていただけるのは嬉しいですね。そういうずっと愛される作品であったらいいなと思います。

□=================================================================□

【Story】鎌倉で暮らす三姉妹、幸、佳乃、千佳の元に、15年前家を出ていった父の訃報が届いた。長い間会ってもいなかった父の葬儀のため山形に向かった三人はそこで異母妹すずと初めて会う。身寄りのなくなった彼女が、葬儀の場でどうしようもない大人たちの中で毅然とふるまう姿に、長女・幸は別れ際とっさに口にする。「すずちゃん…鎌倉にこない?いっしょに暮らさない?4人で」。そうして鎌倉での4姉妹の生活が始まる。

umimachi_main03_03

原作:吉田秋生(小学館「月刊フラワーズ」連載)
監督・脚本:是枝裕和『そして父になる』

出演:綾瀬はるか 長澤まさみ 夏帆 広瀬すず
加瀬亮 鈴木亮平 池田貴史 坂口健太郎 前田旺志郎 キムラ緑子 樹木希林
リリー・フランキー 風吹ジュン 堤真一 大竹しのぶ

製作:フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

配給:東宝 ギャガ

映画『海街diary』は、全国公開中。

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で