「広瀬すずとの出会いがこの映画のポイント」/『海街diary』樹木希林×是枝監督 ティーチイベント

映画『海街diary』の大ヒットを記念して、6月24日(水)、四姉妹の大叔母・菊池史代役を務めた樹木希林と是枝裕和監督によるティーチインイベントがTOHOシネマズ日本橋にて行われた。

『海街diary』は、吉田秋生の同名漫画を『そして父になる』の是枝裕和監督が映画化したヒューマンドラマ。北米配給ほか、すでに101カ国での配給が決定している話題作。当日、イベント開始前に観客とともに映画を鑑賞していたという樹木は、イベント開始時間になり、観客席から立ち上がり登壇。観客や是枝監督を驚かせた。樹木の鋭い発言に笑いが起きるなど、樹木節炸裂のイベントとなった。

★『海街diary』0624イベント

樹木 今日はじめて観ましたが、大変完成度の高い映画に仕上がっていましたね。撮影ではじめてすずちゃんに会ったときに、偶然、原作のすずちゃんと同じ名前だということを知りましたが、この子に出会えたことがこの映画のポイントだと思いました。だって大概「あー!」って感じでしょ(笑)

是枝監督 この子に出会ったからというのは、『誰も知らない』の柳楽優弥くんのときもそうだったし、すずも本当そうですね。

樹木 運も才能の内ですからね。四姉妹もみんなチャーミングだった。

──夏帆さん演じる三女役は四姉妹の中で中間的な存在というか、どちらかというあまり目立たない立ち位置だと思いますが、キャスティングに苦労されたのではないかと思いました。

樹木 もうね、ぼくがあの人がいい、と言えばみんな出てくれるのよ、この監督は!

是枝監督 いやいやいや……(苦笑)千佳は出番が多いわけではないけど、三女は上の二人とは違ったテンポで生きているのは、実際の姉妹に取材している中で感じていて、夏帆さんは出演作品を観ていて、映画女優という印象だったので、こういう役もうまく演じてくれるだろうと思いました。キャスティングは全部自分から声を掛けています。

──演出方法など作品ごとに異なっていて、毎回何かに挑戦しているという印象があるのですが、今回この映画で挑戦したことはありますか?

是枝監督 原作もそうですが、この作品は人間の話の外側に街の話があるんですよね。だから通常のホームドラマより広い何かを描いているから、いつもよりも視野を広げた形にできないかと思ったので、それが挑戦したことになるのかなと思います。

──映画の中で素敵だなと感じる画がたくさんありました。画のこだわりはあるのですか?

是枝監督 『そして父になる』でもご一緒した撮影監督の瀧本さんと相談しながら進めていて、例えばすずと風太が船の上で花火を見るというシーンでは、花火の画があまり大きくないんですけど、大きくも撮っていたんだけどカットしたんです。たぶん、あのくらいの大きさが地元の人が見ている感覚なんだろうなと思ったんですね。実は船の周りに花火が写る構図って、設計図を引いてすごい計算しないと撮れないんですよ!

樹木 そんな苦労があったのね~。でも花火をそんな苦労して撮ったわりには、それは効果あったのかしら(笑)

──この作品には命の話もあったと思いますが、病院内でのターミナルケアについてや銀行のことなど描かれる上で何か調べられたりするのでしょうか?

是枝監督 取材しますよ。原作で、なんで幸が看護師なのか、なんで佳乃が銀行員なのか考えたときに、幸は死の側に常にいるからだということと、死というのは死んだ人を悲しむだけでじゃなくて、常にお金が絡んでいる。それは原作でもお金絡みのことが色々描かれていますけど、だから佳乃は銀行に勤めているのかなとか思いました。

樹木 そういうお金のことって避けて通れない分、自分の中にすっと入ってくるわよね。

佳乃と坂下さん

──キャストたちの表情が見応えがありました。特に印象的だったのが、長澤さん演じる佳乃が加瀬さん演じる坂下さんに前の会社を辞めた理由を聞くシーンでの二人の表情です。

是枝監督 坂下さんは辞めた理由を「ここは自分の居場所じゃないと思ったから」と答えるんだけど、この作品は“居場所”というのが重要なキーワードであると感じていて。佳乃は坂下さんのその言葉から、すずがなぜ鎌倉にきたのかということに思いを巡らせたんじゃないかな、という話をを長澤さんには伝えました。

樹木 この映画は人の器がどんどん広がっていく経緯が自然に撮られていると感じますね。

──樹木さんは直近で『あん』に出演されていて違う役を演じられていますが、役の切り替えなどは大変ではないですか?

樹木 そんなの簡単よ! 一日寝れば治っちゃうもの(笑)

──少ないながらも樹木さんが登場するシーンがとても印象に残りました。

樹木 ちょっとの役なら、ということで出演させていただきました。映画を観ていて思ったのが、この家は女で土台がつくられているという気がしたわね。結局、家っていうのは女の出来なんですよ。だから、大竹さんをキャスティングした監督は上手だなと感じたわよね! この人だったら、あー壊れていくなってわかるもの(笑)

是枝監督 演技がね! 大竹さんの演技がそう感じさせてくれていましたね! 樹木さん演じる叔母さんが、家におはぎを持ってくるシーンで、幸に楔をうつところがあるんだけど、そこが大事だと感じました。あと法事のシーンでは、すずにはじめて会った叔母さんがすずにあれこれ聞いてそれを幸にたしなめられると、「色々大事なことよ」って扇子でポンと叩くシーンがあって、そこが個人的に好きです。

樹木 あら、そうだったの? 本人が演じていてもわからないものね(笑)

──映画の中でお気に入りのシーンはありますか?

樹木 私は、お風呂上りのすずちゃんがバスタオルをバッと広げて扇風機に当たるシーンが気持ちよさそうと思ったわね。

是枝監督 法事が終わって、四姉妹と叔母さんとお母さんとみんなで家に帰ってきて、それぞれ行動するワンカットが好きです。みんなそれぞれ動きがすごくうまくいっていると思っています。

樹木 あそこに実際に住んでいる感じがするものね。生活が染み付いている感じが出ていた。大勢になればなるほどうまくいくのよね。

──この作品を他の監督には撮らせたくないと思ったということを仰った是枝監督のインタビューを拝見しました。

樹木 それはそうですよ! 監督はね、綺麗な人が出てくるのが好きなんですよ!

是枝監督 まぁそれもあるんですが……(笑)ぼくは原作が大好きで、一巻目に描かれている、法事が終わった後に四人が高台に上るシーンがあるんですが、そのシーンを見て、これ映画だ、と思ったんです。それで、絶対これ誰かが映画にするな、と。誰かにされるのは嫌だと思って、自分で手を挙げました。

樹木 私はちょっと前から監督と知り合いですけど、この方はあまり欲を露にしないのよね。人間的にみんなに好かれる監督なわけなんだけど。今の話を聞いてとっても面白いわね(笑)

──映画を観ていて何度も笑ってしまいました。カンヌでも笑いが起きましたか?

是枝監督 浜田店長の登場シーンや、酔っ払ったすずを見て姉たちが顔を見合わせるシーンとかはカンヌでも笑いが起きていましたね。コメディ作家ではないのですが、そうやって笑っていただけるのは嬉しいですね。

樹木 笑いっていうのは、その人の気持ちがわかったときに笑える、というのが上質な笑いよね。

千佳と店長

──「風とロック」でレキシの池田さんと対談されていましたね。それが池田さん出演のきっかけなのでしょうか?

是枝監督 そうなんです。箭内道彦さんに誘われて野音にいったときに、メロディももちろんいいんですが、トークがすごい面白くて(笑)キャスティングを考えたときに、きっと彼ならやれるだろうと思って声をかけさせてもらいました。

──花火大会の日に浴衣を着たらと言われて、着ないと言っていたすずが結局当日は浴衣を着ていたんですが、その心境の変化は撮影していたけどカットしていたりするのですか?

是枝監督 撮影は特にしていなくて、まぁ、こういうことってあるよねって感じで。多分、出かける前に玄関でお姉ちゃんたちに「絶対着たほうがモテるよー」とか言われたんだと思うんですよね。

樹木 普通若い子だったらもっと明るい色を着るんでしょうけど、おばあちゃんの浴衣だから色がとっても地味なのよね(笑)そこが面白かったわね。

──綾瀬さんと長澤さんは『世界の中心で愛を叫ぶ』でドラマと映画で同じ役を演じられているのに、今回の役は二人が間逆の性格だったので驚きました。監督の中でそういったことは意識されなかったのでしょうか?

是枝監督 今までやった役がどうこうっていうのは考えないですね。綾瀬さんとはこの映画の企画が始まる前に一度お会いしていて、TVでみるような印象とは違って、所作も美しくてしゃんとしている凜とした方だなと感じたんです。だから長女は彼女だなと。佳乃は、幸が“死”の側に近いとしたら、対照的に“生”の役割を担っているので、誰かなと考えたときに『奇跡』でも少し出てくれた長澤さんを思い出して決めました。

──この映画はいろんな人たちのエピソードが繰り広げられていく原作と違い、幸とすずを中心としたエピソードとなっていますが、惜しくもカットしたシーンなどはあったのでしょうか?

是枝監督 カットすべきショットだからカットしているのであって、惜しくもというのはあまりないですね。あえてあげるなら、幸がすずの前髪を家の庭で切ってあげていて、それを佳乃と千佳が縁側から眺めているというシーンがあって、そこはいいシーンだったんだけど、編集していたら合わなかったのでカットしました。

樹木 そういうカットしたシーンも役者にとっては糧になるから無駄ではない、ということにしましょう(笑)

★『海街diary』0624イベント_キメ

是枝監督 樹木さんは、大好きな役者さんではあるのですが厳しい方なので、現場に入るとき、脚本を見せるとき、完成した映画を観ていただくときに、ちゃんとしたものを作っていると思っていただかなければという気持ちになります。是非また出てください!

映画『海街diary』は、全国公開中。

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【Story】鎌倉で暮らす三姉妹、幸、佳乃、千佳の元に、15年前家を出ていった父の訃報が届いた。長い間会ってもいなかった父の葬儀のため山形に向かった三人はそこで異母妹すずと初めて会う。身寄りのなくなった彼女が、葬儀の場でどうしようもない大人たちの中で毅然とふるまう姿に、長女・幸は別れ際とっさに口にする。「すずちゃん…鎌倉にこない?いっしょに暮らさない?4人で」。そうして鎌倉での4姉妹の生活が始まる。

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

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