映画『検察側の罪人』原田眞人監督インタビュー
昨年8月に公開された映画『検察側の罪人』のBlu-ray&DVDが2月20日(水)に発売される。本編に加え特典ディスクにはメイキング映像や木村拓哉×二宮和也×原田眞人監督によるビジュアルコメンタリーなどが収録されており充実の内容となっている。日本映画史に名を残す新たな傑作となった今作の監督を務めた原田眞人が、劇中で明かされていない裏話や木村や二宮との撮影エピソード、また参考にしたというテレビシリーズの話や配信系の映画に対する想いなどを語った。
──今作では木村さんや二宮さんのアドリブも多かったそうですが、その中で印象に残っているシーンを教えて頂けますか?
原田:木村さんで言うと、彼が演じる最上と平岳大さん演じる丹野がホテルで密会するシーンで最上が“トイレどっち?”とジェスチャーで丹野に聞くシーンが印象に残っています。あれは木村さんのアドリブだったんですけど、2人の関係性があのシーンで一発でわかるんですよね。ああいうのをアドリブでできるというのは凄いなと思います。それから最上が一線を越えてしまう前にトイレで吐くシーンがありますが、あれも彼の提案で、人を殺すことへの恐怖心を出したいということを話していたのが印象的でした。作品全体を考えて色々と提案される木村さんと対照的なのが二宮くんで、彼の場合はその日の出来高次第という感じなんです(笑)。酒向芳さん演じる松倉の取り調べのシーンで、松倉の口をパっと鳴らす癖を二宮くん演じる沖野もやりますよね。あれは脚本には書いてなくて本番で二宮くんがアドリブでやったことなんです。あと「その辺で勝手に首つってくれ」という沖野の台詞もアドリブ。そのあと「さっきのアドリブ良かったね」と伝えて撮ったカットを見せたら「僕こんなことやってたんですか?」と全く覚えてなくて(笑)。二宮くんはちょっと神がかりなところがあるんです。
──対照的なお2人だからこそお芝居での化学反応が生まれたのではないでしょうか?
原田:そうですね。沖野が最上の姿を見て色んなことを吸収して成長していく話でもあるし、2人の関係がどんどん対等になっていくので、対照的な2人の芝居は非常に効果的だったと思います。僕の一番好きな映画で『赤い河』というのがありますけど、ジョン・ウェイン演じるトム・ダンソンという男とモンゴメリー・クリフト演じるマシュー・ガースという青年の疑似親子が、敵対したあと最後は対等な関係になる物語なんですね。実は『検察側の罪人』を撮るにあたり意識した作品でもあって、最上と沖野は犯罪のパートナーになるというのが僕の中での結末なんです(笑)。
──ラストシーンにはそんな秘密があったのですね!繰り返し何度も観て確認したいです。
原田:二宮くんが「最初のシーンとラストシーンで何かリンクできるものはありませんか」と提案してくれたので、その言葉をヒントに作っていきました。おかげで最後は沖野が最上のテリトリーに入ってしまったことがよくわかるようになっています。ビジュアルコメンタリーで詳しいことを話しているので楽しみにしていてください(笑)。
──コメンタリーでは他にどんなことをお話しされましたか?
原田:木村さんが「監督、実はね…メイクさんから聞いた話なんですけど…」と、“松倉の痣”に関する秘密をコメンタリー収録中に教えてくれました。全く知らないことだったので「え!そうだったの?」と驚きましたよ(笑)。それも見てのお楽しみです!
──話は変わりますが、木村さんにはテレビシリーズ『TRUE DETECTIVE』でマシュー・マコノヒーさんが演じていた主人公の刑事をイメージして演じて欲しいとおっしゃったそうですが、普段から海外のテレビシリーズはよくご覧になるのでしょうか?
原田:テレビシリーズだと全10話とかでキャラクターを色濃く描けるのが魅力ですよね。クライムサスペンスものだと『ファーゴ』なんかもそうです。『検察側の罪人』の全体のトーンを統一化させたくて『TRUE DETECTIVE』をスタッフやキャストみんなに観てもらいました。中でもマシュー・マコノヒーさんの芝居は最上の参考になるんじゃないかなと思って木村さんにそのように伝えました。『TRUE DETECTIVE』は1話1話が濃くて凄く好きなシリーズです。
──クライムサスペンスものがお好きなのでしょうか?
原田:謎が謎を呼ぶ物語は好きでつい観てしまいます(笑)。昨夜も『アブセンシア 〜FBIの疑心〜』というシリーズを見始めてしまって、スタナ・カティックという女優がもの凄い美女で芝居も上手いんです。彼女が演じるのはFBIの捜査官で、失踪してから6年後に瀕死の状態で見つかるところから始まるんです。いま忙しい時期なのに結末が気になって結局最後まで観てしまいました(笑)。
──ドラマは観始めると止まらないですよね(笑)。ちなみに今後は配信系のドラマなどを手掛ける機会もあるのでしょうか?
原田:昔、某配信サービスで“ペリーの日本遠征記”のような企画があったんですけど、莫大な予算がかかることがわかって実現しませんでした。ペリーの人生はとても面白いので、いつか映像化したいと思っています。ただ、それをテレビシリーズで製作するとなると100億ぐらいかかりますけど(笑)。
──最近ですとアルフォンソ・キュアロン監督の新作映画『ROMA/ローマ』がNetflixで配信されて話題になりましたが、そういった作品もご覧になっていますか?
原田:もちろん観ています。でも『ROMA/ローマ』は劇場公開するべき映画だと思います。僕はいつも映画のオープニングとクロージングになるブックエンドにこだわるんですけど、『ゴッドファーザー』と並ぶぐらい『ROMA/ローマ』のブックエンドは素晴らしかった。ラストの海のシーンなんてどう撮ったのかわからないですから。方法論すらわからない。シンプルな話だからこそ強さが伝わってきて、何日経ってもあのラストシーンが頭から離れませんでした。劇場公開作品はもちろん配信系の作品も観ていかないと、自身の発想が新しくならない。だから気になるものは観るようにしています。
──『ROMA/ローマ』はキュアロン監督の幼少期の記憶から構成された物語ですが、原田監督もそういった昔の記憶を作品にしたいというお気持ちはありますか?
原田:それこそバリー・レヴィンソンが自身の幼少期を思い出して脚本を書いた『わが心のボルチモア』のような作品を撮りたいとは思っています。僕は旅館で育ったんですけど、当時の女中さんや父方、母方合わせて6人いた叔父達との思い出なんかを映像化できたら面白いんじゃないかなと。それから井上靖先生の自伝的長編小説「しろばんば」も映像化してみたいです。ただ、大正時代の日本を描くにはニュージーランドとかでロケをしないいけないので、こちらも結構な資金が必要になります。
──となると、日本と外国との合作で作る必要がありますよね?
原田:合作にしても製作の資金面で日本のウェイトが大きいとダメなんです。日本主体ではないことを前提に色んな国と一緒に作れば歴史もしっかりと描くことができるかもしれない。ただ、日本語メインの映画で外国から出資してもらうには、まず僕が海外の映画祭で賞を穫るなどしてバンカブルにならないといけないんです。というのも、キュアロン監督が全編スペイン語の『ROMA/ローマ』を撮れたのは『ゼロ・グラビティ』の成功があったからこそだと思うので。そういったことも視野に入れて映画を撮っていくつもりなので、まずは2020年公開予定の司馬遼太郎さん原作の『燃えよ剣』に期待していてください。
映画『検察側の罪人』Blu-ray&DVD豪華版には、木村拓哉×二宮和也×原田眞人監督によるビジュアルコメンタリーをはじめ、臨場感溢れる撮影の裏側に迫ったメイキング映像、イベント映像集など、ここでしか観られない貴重な映像が収録。ブックレットも封入される。
映画『検察側の罪人』Blu-ray&DVDは2月20日(水)リリース
公式HP:http://kensatsugawa-movie.jp/
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取材:奥村百恵/撮影:小宮駿貴