北野武監督作品史上興行収入歴代第2位のヒットを記録した映画『龍三と七人の子分たち』のDVDとBlu-rayが2015年10月9日(金)よりリリースされる。
『アウトレイジ』(2010)『アウトレイジ ビヨンド』(2012)と2作続けてバイオレンス・エンターテインメントを撮ってきた世界のキタノが、監督17作目にして一風変わったコメディタッチの作品に挑戦。お笑い芸人ビートたけしの得意領域──漫才のような軽妙な会話劇、コントのような奇抜でユニークなシチュエーション──を取り入れ、軽快に元ヤクザのジジイたちと悪徳若造詐欺集団の対立を描いた。
主演を務めた藤竜也は、肩身の狭い隠居生活を送りオレオレ詐欺に引っかかった元ヤクザの組長・龍三役をコミカルかつチャーミングに好演。大人の男性の色香/ダンディズム漂う名優に、これまでのイメージとはまた異なる新たな役柄に挑んだ感想や初タッグとなる北野監督の印象などを伺った。
──3年ぶりの北野監督の新作でしたが、これまでの北野監督のヤクザ映画とガラッと違うコメディタッチの作品でした。脚本を最初に読んだ印象をお聞かせください。
藤 素直に笑えたね。その前の『アウトレイジ ビヨンド』などとまた違って、もっと楽にできそうだと思いました(笑)。真面目にやりつつ、そんな難しくやっちゃ面白くないだろうと思って臨んだ感じですね。
──北野作品には初出演でしたが、オファーされる前までの印象と実際に出演されてみての印象で何か変化はありましたでしょうか。
藤 北野武監督の現場なんか想像できなかったから、それは特になかったね。テレビの中のビートたけしとガラッと変わることもあり得るわけだけど、全然変わらないのは面白かったよね、あのまま。今回出る前に16本の北野武監督作品を観て、良い作品がたくさんありますから、「なるほど凄いんだな」「これは(出演できて)えらいラッキーだな」と思ってね。だけど、「こんなに年寄りばかり集めて誰が観るんだろう?」というのは、内心あった。ただ、監督の中でもいろんな波があって、北野武監督作品の全体の中では当たるとか当たんないとかはあまり関係ないんじゃないのかな。俺も気楽にやろうって感じでしたよ。パッパッと撮ってさ、パッパッとヒットしちゃって驚いたよね。嬉しかったですよ。
──同世代の方々とこれだけ共演する作品というのも珍しいと思いますが、他とはまた違った現場の雰囲気でしたか。
藤 それはね、変わらない。若いのも年取ったのもみんな役者だから空気は変わらない。それはすごくシリアスです。
──シリアスな中で他の映画では観られないような不謹慎でブラックな笑いのシーンはいかがでしたか。
藤 いやー、ちょっと普通の神経じゃないよね(笑)。でも、それが北野武監督が『アウトレイジ』や『アウトレイジ ビヨンド』でぼくに感じさせた一種のニヒリズムのようなものなのかなと思って、ある意味感心しました。「なるほど、これが北野武監督の現場なんだな」と思って。
──『アウトレイジ』のニヒリズムやシニカルな部分とはまた違ったブラックさでした。
藤 そうそう、もっと明るいね。どれを取っても「これが北野映画」っていうスタイルを作ったのは凄いよね。例えば、「黒沢映画」とか、会社で言えば「松竹調」とかさ、あるじゃない? そういうひとつのスタイルを確立させてる。北野武監督の色があるのがすごい。
──監督自身の実際に体験したエピソードと伺いましたが、劇中で萬田久子さん演じるホステスのママの家から女装して出て行くシーンなどコントのようなシチュエーションは演じてみていかがでしたか。
藤 見ての通り、ヤバいシチュエーションで必死だから、どうやろうとか何も考えてなかったです(笑)。自分で何か面白くやろうとかは考えずに、とにかく必死に逃げるってことだけを考えていました。
──下條アトムさんにお話を伺った際にも北野監督の撮るスピードの早さに驚かれていたのですが、その辺りに対して戸惑いのようなものはありましたか。
藤 楽でしたね、嬉しくって(笑)。特に夜間のシーンがあまりないお話だったからっていうのもあったけど、毎回撮影は早く終わりました。しかも、一週間やって一週間休むスタイルだったから、現場はずっと元気なんだよね。休養があって疲れないから。休み明けて──もちろん北野さんはその間も忙しくやってるんだろうけど──俺たちはトレーニングしたり英気養ったり好きにして、そうすると新しくまたはじまる一週間が新鮮で、また初日を迎えるみたいなテンションで挑める。あのやり方いいと思うよね。金かかってしょうがないけどね。
──本作は北野作品ではじめて本読みがあった作品だと伺いました。漫才的やりとりや間などセリフの扱いが大切な作品だったかと思いますが、その辺りはみなさんとどういう風なコミュニケーションを取ってやられたのでしょうか。
藤 北野武監督の一種の漫才というか、セリフのタイミングとか、言った後にバーンと被せていくとか、そういうのってぼくたちあんまりやったことないんですよね。また、変に年を取ると割とゆったり喋ったり、なんか言われるとちょっと考えて「それはね……」なんてなるけれど、そんなのをやったらこれはマズいわけで、そこら辺を「もう少し被せて」とかテンポ感についての指示は何となくありましたね。やっぱり漫才的なやりとりの微妙な畳み掛けで盛り上がっていく感じをわかっていなかったから、ちょっと2~3回言われて、段々わかっていきました。
──現場で北野監督の演出はありましたか。
藤 現場ではないですね。現場では監督は撮影場所にいなくて、隣の部屋の奥にいるんだから。カメラで見てて、チーフがやって来て、「もう少し元気良く」とか「もう少しバシッと」とか割とそういうシンプルなことだけ伝えられて、それがどういう意味かみんな考えて──みんな長い間やってるから要求されてるシーンの空気というのはわかるから──すぐそれに対応してやっていました。たまに監督が入ってくると「(監督の仕草を真似て)今の結構面白かったよ、うん」みたいなことだけ言ってすぐ帰っちゃう(笑)。何回か繰り返してると、どういう風にやれば監督が喜ぶのかわかるわけ。だからみんな段々監督がイメージするニュアンスが何となくわかってきて、楽しかったです。
──メイキング映像の中ではたけしさんが現場に入られた時に一瞬にしてすごく緊張感が走ったような感じがしました。監督自身はあまりお話されないということでしたが、現場はどのような感じだったのでしょうか。
藤 そうだね。確かにね、そういうオーラがありますよね。北野武さんが偉そうとかいうことではなく、やっぱり北野武監督の新作をみんなでこれからやるんだ、っていう異様なエネルギー/期待する熱っぽいものが、静かだけど、初めて出た俺も感ずるんだよね。3年ぶりの監督の新作にみんなかなり気合入ってる空気があって、御大の北野武監督がみんなが揃ったところに「おはよう」とか「おう」とか言いながら入ってくるから、ものすごいオーラがありました。
──これまでに大島渚監督や森崎東監督など数々の名匠の作品に出演されてきてらっしゃいますが、北野武さんにある独特なオーラというのは、どのような違う魅力があるでしょうか。
藤 監督・北野武というのは、本人が作ったものではなく、周りが作っていったイメージみたいなところがあるじゃない? 監督が自分で作り上げていった16本の映画が積み重なっていったからこそ、説得力とオーラが出ているのだと思います。そのように作品を作り続けられてきたことに、ぼくは敬意を表します。オーラっていうのは、自分が出すものではなくて、人が受け取るもの、感じるもの、その人に対する一種の評価だと思うね。だから、別に北野映画が好きでも何でもなくて、ビートたけしにも北野武にも興味もない人にとっては、オーラって感じないよね。やっぱり彼を愛していたりすると、オーラを感じるようになるんですよ。ぼくは感じますけどね。
──本作は藤さんにとって、どのような作品になりましたか。
藤 ぼくは実はコメディーって全然やったことなかったから、完成したものがヒットして、みんなに笑っていただいて嬉しかったです。本当ラッキーでした。笑ってもらうのって、きっと泣かせるのよりも難しいんだと思う。それはやっぱり監督の才能にみんな拾ってもらってよかったなと思えます。有難いですね。
──最近、日々の生活の中でワクワクされたことってありますか。
藤 次の仕事が9月から入るから、それですね。今年は5月までNHK「かぶき者慶次」をやらせていただいて、5〜8月お休みをいただいて、9月にやって、また休む。程よく仕事をいただけるといいなと思っています。ワクワクと、日々のデザインをきちんとしないとですね。その準備は楽しいです。
──お休みの間はどういったことをなされているんですか。
藤 本当、気分良くジジイやってます(笑)。
──映画を観たりとかもされるんですか。
藤 はい、しますね。でも恋とかそういうのはないですな、こっちの気持ちは別として(笑)。だから真面目に老人をしておりますよ。
──たけしさんの作品でお好きな作品をお聞かせ下さい。
藤 『アウトレイジ』は好きですね。映画の虚構の世界に連れて行ってもらって監督の腕を楽しむっていう意味で好きな作品です。あと個人的には、『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)には感心しました。なんてリリシズムや優しさ、切なさのある映画なんだろう。実に素晴らしい青春映画だと驚きました。男の子と女の子の歩かせ方が素晴らしくて、あれだけで何かウルウルしてくるんだよね。やっぱりいつもそうなんだけど、自分がいいなと思った映画って、本当に「ありがとう」って気持ちになるんですよね。ぼくも同業者ですが、出てる俳優さん、監督、スタッフに至るまで、みなさんに「ありがとう」って言いたくなる。そういう映画に出たいですね。そう思われてみたい。そこがやっぱり映画の仕事に関わっているひとつのやりがいなんですかね。
【作品情報】
『龍三と七人の子分たち』
監督・脚本・編集:北野 武
音楽:鈴木慶一
出演:藤 竜也、近藤正臣、中尾 彬、品川 徹、樋浦 勉、伊藤幸純、吉澤 健、小野寺 昭、安田 顕、矢島健一、下條アトム、勝村政信、萬田久子、ビートたけし
「特装限定版」 ※2枚組
Blu-rayスペシャルエディションエディション(BD+DVD)¥7,000(税別)
DVDスペシャルエディション(DVD+DVD)¥6,000(税別)
「通常版」
Blu-ray¥4,800(税別)
DVD ¥3,800(税別)
発売・販売元:バンダイビジュアル 日本/2014/111分
公式HP:http://www.ryuzo7.jp
(C)2015 『龍三と七人の子分たち』 製作委員会
映画『龍三と七人の子分たち』DVD&Blu-rayは、10月9日(金)よりリリース