圧巻の映像美で魅せる俊英ジョー・ライト【監督・俳優のすすめ Vol.13】

“監督で観る” “俳優で観る”映画の楽しみ方。今注目の人やこれから注目すべき映画監督・俳優について紹介する【監督・俳優のすすめ】。Vol.13は圧巻の映像美で観客を魅了し続ける映画監督ジョー・ライト。

Keyword 1:文芸ドラマの名手

テレビの演出家としてキャリアをスタートさせたジョー・ライトの長編初監督作は、過去に何度も映像化されてきた古典小説を見事に蘇らせた『プライドと偏見』。主演のキーラ・ナイトレイを米アカデミー賞主演女優賞ノミネートへと導いたほか計4部門でノミネートを果たし、自身も英国アカデミー賞で新人賞を受賞するなど一躍脚光を浴びた。続く監督2作目『つぐない』でも、シアーシャ・ローナンがアカデミー賞に当時として史上最年少でノミネートされ、作品賞を含む計7部門にノミネートされた。ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」を再映画化した『プライドと偏見』、イアン・マキューアンの「贖罪」を映画化した『つぐない』という2作で高い評価を得たことにより、“文芸ドラマの名手”と呼ばれるほどになった。

そんな評価を受けたジョー・ライト監督がしばらくして再び文芸ドラマを手掛けることで話題と期待を集めた『アンナ・カレーニナ』。レオ・トルストイの同名小説の映画化で、映画でありながら舞台劇のような場面転換や演出を行い、キーラ・ナイトレイ演じるヒロイン、アンナ・カレーニナの悲劇的な運命を、色鮮やかな衣装やセットで豪華絢爛に描き切った。もはや文芸作品の映画化においてジョー・ライト監督の右に出るものはいないといっても過言ではない。

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Keyword 2:誰もが圧倒される映像美

ジョー・ライト監督の映画は、その映像美が観客を魅了してやまない。全編を通して柔らかな色合いで、知的な女性エリザベスとプライドの高いダーシーのラブストーリーを描いた『プライドと偏見』。イギリスでロケを行った雄大な景色と相まってその映像美に魅せられる。『つぐない』では、2人の恋を予感させる序盤は優しい映像で描き、戦争と小さな嘘によって引き裂かれた2人の運命と、後悔を抱えたまま生きる少女の切なさを深みのある映像で描いている。ロサンゼルス・タイムズ紙の記者がホームレスの音楽家との交流を綴ったコラムを映画化した『路上のソリスト』は、ナサニエルが何年かぶりに手にしたチェロを奏でる喜びと音楽への陶酔を、ロサンゼルスを自由に飛び回る鳩で表現している映像がとても美しい。

映像美もさることながらジョー・ライト監督の映画の最も特徴的な点は、ワンシーンを途切れることなく捉える「長回し」にある。『プライドと偏見』では、エリザベスを追いながらベネット家の中までを映すオープニングや、華やかでありながら登場人物の思惑が絡みあう舞踏会でのシーンなどの長回しに目を奪われる。『つぐない』は終盤の戦場にいる兵士たちをステディカムで捉えて戦争の悲惨さを訴える、約5分に及ぶ長回しのシーンが圧巻。監督自身も“このような作品を手掛けるとは思っていなかった”と語る『ハンナ』のようなアクション映画でも、CGに頼らず長回しで撮ることにより、大人数を相手にしたアクション・シーンがよりリアルに感じられる。

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Keyword 3:新たなジャンルに挑んだ最新作

10月31日(土)より公開となる『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』は、あまりにも有名なピーターーパンの誕生秘話をジョー・ライト監督独自の視点で描いたファンタジー・アドベンチャー。ファンタジーというジャンルはジョー・ライト監督のこれまでの作品になく新しいジャンル。

ロンドンの孤児院に暮らす少年ピーターは、幼くして離れ離れになった母を探すため、夢と魔法のネバーランドへと旅立つ。そこで、若き日のフック船長や、誇り高いプリンセスのタイガー・リリー、そしてネバーランドを牛耳る海賊の黒ひげを相手に壮大な冒険を繰り広げる。

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「なぜネバーランドへ行ったのか?」「なぜ空を飛べるのか?」「ピーターとフックの出会いは?」など誰もが抱いた疑問を解き明かすような物語が展開されるという。物語だけでなく、ネバーランドの世界を目にも鮮やかでカラフルに描いた映像美に、きっと誰もがワクワクして心を奪われるはず。ぜひ映画館の大きなスクリーンで堪能して欲しい。

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次回作にはアン・ハサウェイ主演・プロデュースで同名小説を映画化する『The Lideboat』の監督を務めることが噂されている。実現すればアン・ハサウェイとの初タッグとなり、どのような作品が生まれるのか、続報に期待したい。


ジョー・ライト
イギリス、ロンドン生まれの映画監督・プロデューサー。
両親は人形劇場「リトル・エンジェル・シアター」の創設者。幼い頃から芸術、とりわけ絵画に興味を抱いていた。演劇部で活動しながら、同時にスーパー8カメラで映画を作っていた。セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで学びながら、奨学金を得て制作したショート・フィルムでいくつかの賞を受賞。90年代はミュージック・ビデオの監督をいくつか務めた。その後は、ティモシー・スポール出演『Bodily Harm』などいくつかのTVミニシリーズを手がけ、ルーファス・シーウェル主演『Charles II: The Power & the Passion』では英国アカデミー賞テレビ部門でドラマ賞を含む3部門を受賞した。そして、監督に抜擢された『プライドと偏見』(05)が高い評価を受け一躍注目を集めた。その他の監督作に『つぐない』(07)、『路上のソリスト』(09)、『ハンナ』(11)、『アンナ・カレーニナ』(12)などがある。

『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』
10月31日(土)全国ロードショー
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/pan/
【監督】ジョー・ライト
【出演】ヒュー・ジャックマン、ギャレット・ヘドランド、ルーニー・マーラ、アマンダ・サイフリッド、リーヴァイ・ミラー、アディール・アクタル
(2015/アメリカ/112分/スコープサイズ)

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© Universal Pictures.

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