『生きててごめんなさい』山口健人 監督インタビュー 小さな声を掬い上げる

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山口健人

「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、これから注目の監督・キャストにお話を伺う。

余命10年』監督の藤井道人がプロデューサー、山口健人が監督を務めた映画 『生きててごめんなさい』が2月3日よりシネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国公開中。藤井監督の下で多くの作品に携わり、綾野剛主演のドラマ『アバランチ』では藤井と共に演出を担当した彼に映像制作のお話や映画館について、そして今作についてお話を伺った。

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山口健人
YAMAGUCHI KENTO

1990年生まれ。埼玉県出身。早稲田大学文学部演劇・映像コース卒業。大学在学中より映像制作を始め、2016年BABEL LABELに所属。近年ではドラマ『箱庭のレミング』(2021年)、『アバランチ』(2021年)、『真相は耳の中』(2022年)や、MV・CM等の様々なジャンルで監督として活動している。2019年に公開されたワイモバイル『パラレルスクールDAYS』で海外の広告賞を受賞。最新作の映画『静かなるドン』の公開も春に控えている。

 

最初から監督になりたかった

――監督が映画の道を進もうと考えたのはいつごろですか?

山口:小さい頃から映画が大好きだったので、いつからか覚えてないくらい自然な流れで、監督になりたいなと思って。逆に他の職業を考えていなかったです。実際に作り始めたのは、大学の時に映画サークルに入ってからでした。大学の時は自分でカメラを回したり、手探りしながらやっていました。

――藤井道人さんと出会って今の会社に入られたそうですが、どんな出会いでしたか?

山口たまたま出会いました。藤井さんの作品手伝うようになってその流れで、BABEL LABELに入ったという感じですね。

――BABEL LABELは監督にとってはどんな場所ですか?

山口様々なタイプの監督がいるんですけど、好き勝手に自分のやりたい物を作り面白かった、面白くなかった、ここはよかったとか、遠慮なく意見を交わして、お互い高め合っていけるというのは、他の会社にはない良いところかなと思っています。

――監督にとって藤井さんはどういう存在ですか?

山口同じ会社の先輩でもあるし、追うべき背中であり、姿勢に関しても学ぶことが多い、尊敬している先輩ですね。

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山口健人

不意の出会いがあるのがすごくいい

――普段、映画館には行かれますか?

山口もちろん行きます。

―― 好きな映画館、よく行く映画館はありますか?

山口もうなくなっちゃったけれどシネマライズ。他にはユーロスペースとかです。あと、新宿周辺はよく行きますね。早稲田大学に通っていたので、早稲田松竹はすごく思い出がありますね。

―― 早稲田松竹ではどんな思い出がありますか?

山口ヴィターリー・カネフスキー特集で『動くな、死ね、甦れ!』と『ひとりで生きる』を観たことですかね。なんの事前情報もないままに観て、作品から溢れ出るエネルギーと良い意味での荒削りな野蛮さに大きな衝撃を受けました。

名画座の2本立てというのが僕はすごく好きで。1本観たくて行くと、もう1本あるじゃないですか。興味はなかったけれど観てみたらすごく良かった、みたいな、不意の出会いがあるのがいいなと思いますね。配信だとどうしても狙った作品しか観ない。知らなかった監督や作品に出会えるので、名画座は好きですね。

―― 映画館で映画を観るのと自宅で観るのとでは違いはありますか?

山口完全な暗闇で2時間ほど監禁されてひたすらスクリーンを観続けることしかできないのは、映画館の特権だと思うんですよね。自宅やスマホだと、止めようと思えば止められるし、いろいろな誘惑があります。

大きい画面を暗闇の中でひたすら観続けるという、集中を要する作業というのは、テレビやスマホでの鑑賞とは決定的に違う。映画館に行くことは鑑賞ではなく体験に近いと思います。特に違いを感じたのは『2001年宇宙の旅』。それこそ早稲田松竹で観たんですよ。それまでもDVDで観ていたんですけれど、正直、よくわからない哲学的な映画だと思っていました。でも、スクリーンで観た瞬間、全然違うんですよね。映画館の暗闇で観ると、音響も映像もすべてが情報ではなく体感として心に響いてくるんです。まるで登場人物と共に宇宙に放り出されたように、宇宙の静寂に息を呑み、息遣いを感じ取れる。観るではなく『体感する』ことを強烈に感じました。

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山口健人

脚本から演出、編集まで

――『アバランチ』などドラマの演出もされていますが、ドラマと映画を演出する上で大きな違いや変えていることはありますか?

山口特にはないですね。面白いものを作って、皆さんに楽しんでもらうという点に関しては、変わらないと思いますね。どちらも見てもらう場所が違うだけで、そこは変えちゃいけないと思う。Netflixなど配信サイトではドラマと映画は同列なので、ドラマであれ映画であれ、演出面ではあえて変えないというのが、僕にとっては大事なことだと思っています。

――監督は脚本を書くのと、演出するのはどちらがお好きですか?

山口どちらも魅力があるので比べられるものではないのです。脚本作りには、物語をゼロから生み出し、思わぬ展開を構築していく面白さがあります。一方で、演出には、言葉でしかなかった物語がキャストやスタッフの力によって、現実に立ち上がっていく面白さがあります。芝居によって脚本段階では考えてもいなかった動きや言葉が生まれたり、ショットの構図や照明によって思わぬ意味合いが見えてきたりする。それが、演出の楽しみではあります。

――映像制作をするうえで、編集までされる点にこだわりはありますか?

山口自分で繋ぐことで、新たな意味の発見があったりするんですよね。思ってなかったもの、こういう風な芝居の後にこういう表情を繋げてみたら新しい意味ができるとか。台本の流れとは違うけれど、シーンを入れ替えてみると見えてこなかった物語が見えてくることがあったりする。編集は、”意味の再発見”をする作業だと思っているので、自分でもやってますし、他の方にやってもらう時もそういう部分は大事にしています。

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©2023 ikigome Film Partners

小さな声を掬い上げる

――本作を映画化した経緯を教えてください

山口藤井からメンヘラをテーマに映画を撮りたいというプロデューサーがいるんだけどどう?と言われて、「はい、やります」と二つ返事で答えたのがキッカケです。

――今作のタイトルはどのようにして決められましたか?

山口タイトル候補のどれもしっくりこないなとなっていた時に、藤井とご飯を食べてたんですよね。劇中でイキゴメというアカウントが出てくるんですが、「何の略なの?」と聞かれて、「『生きててごめんなさい』ですね。」「それだ!」となった。確かに言われるとそうだなと。あの人たちの抱えるものが、そういういたたまれなさに起因していると思ったので、すごくちょうどいいというか、インパクトもあるし、いいタイトルだなということで決まりました。

――監督は現代の生きづらさをどう考えていますか?

山口今の時代、SNSの発展もあり、大きな声を持つ人の言葉に小さな声がかき消されてしまっている。それこそ、今作のタイトルのように「生きててごめんなさい」と感じている人の中にも、様々な「生きててごめんなさい」という思いがあるはずなんです。大きな声にかき消され、一括りにされてしまった小さな孤独や苦悩を掬い上げて描き出すこと。それが今作に込めた想いです。

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©2023 ikigome Film Partners

――今作のキャスティングはどのように決められましたか?

山口黒羽(黒羽麻璃央)さんに関しては、藤井から黒羽くんいいよという話があってオファーさせていただき、穂志(穂志もえか)さんに関してはオーディションで選びました。

――穂志さんをオーディションで選んだ決め手はありますか?

山口入ってきた時から役の莉奈でした。ダルダルの 寝巻きで来て(笑)。コジコジいてあるTシャツ。それはもちろん役に合わせてその格好で来ていただいたんですけど、立ち振る舞いや喋り、視線の動かし方がすごく役にピッタリだなと思ったので。

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©2023 ikigome Film Partners

――黒羽さん、穂志さんお二人に演じるにあたって伝えたことはありますか?

山口二人ともに言っていたのが、自由に二人が感じたものをそのまま演じて欲しいということでした。次のセリフまでどれだけ間をとってもいいから、ちゃんとその言葉を言う気持ちになってから言って欲しい。ひとつひとつの動作も、その気持ちで動いて欲しい。演じている自分の心がちゃんと動くように演じて欲しいと言うことをお伝えさせていただきました。

ーー現場で時間を要する手法かと思いますが、普段からそのような演出方法をとられていますか?

山口そうですね、基本的には。演じている俳優自身の心が動いて感動していれば、お客さんもそのお芝居に感動してくれると思っています。勿論、お芝居の技術は大切だと思いますが、演じている人間自身の感情が動くことを大切にしています。

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©2023 ikigome Film Partners

――プロデューサーの藤井さんとはどのように今作を作られましたか?

山口藤井自身が監督でもあるので、監督としての僕を尊重してくれて細かい内容に関しては言わず、方向を指し示す感じでした。「もうちょっと攻めた方がいいんじゃない」とか、「かっこつけているから、もっとお前の醜い部分を見せてみろよ」とか方向を示して僕の個性を伸ばす手助けをしてくれたので、徐々に修一(黒羽さん)が醜い部分、見せたくない部分を出していけたのかなという気はしますね。

ーーその関係性はやりやすかったですか?それとももっと何か言って欲しかったですか?

山口いやーやりやすかったですね。あんまり言われると嫌なので(笑)。

――今作の舞台を出版社に設定したのには何か理由がありますか?

山口一つは単純に映像業界に似ている部分があるからこそ、自分がわかりやすいだろうなという部分がありました。あと、自己啓発本って面白いなと思っていて。自己啓発本っていいことばかり書いてあるじゃないですか。これを読めば幸せになれる、人生が豊かになる、という本を作っている現場があまり豊かではないという皮肉を表現したかったからです誰かを幸せにするための本を作っているのに、作り手が幸せになれていない矛盾。そういった矛盾は、色々なところに溢れていると思いますが、それを端的に表現できる場所ということで設定させていただきました。あとは、主人公が編集者という役割にしたかったんです。ものづくりに関わっているけれど自分が主役ではなく、脇役にいる。主役になりたかったけれど脇役に甘んじている人間を描くのに、出版社っていうのがちょうどよかったということですかね。

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©2023 ikigome Film Partners

やったことがないものをどんどん作っていきたい

―― 今後どういう映画を作りたいですか?

山口今作は、僕個人の想いとかを投影したものを作りました。今後もこういうパーソナルなものも作りたいと思いますし、単純にもっとみんなを楽しませる、世界に通じるようなエンターテインメント作品を作っていきたいというのはありますね。今日もこの後ヤクザものを撮りに(『静かなるドン』)行きますけど。アクション、ホラー、コメディ、恋愛いろいろなことに挑戦していきたい、やったことないものをどんどん作っていきたいなと個人的には思っております。

―― 最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

山口ご覧いただけたら、何かしら「これは私だ」と感じる部分がある作品になっていると思います。インパクトのあるタイトルで、非常にネガティブな重い映画なのかな、と思うかもしれませんが、意外と観たらちょっと元気になれる、自分の人生をちょっと振り返って、明日もう一歩頑張れるような後押しができるような作品になっていると思うので、ぜひ、劇場でご覧ください。

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山口健人

(取材・写真:曽根真弘)

映画『生きててごめんなさい』は2月3日よりシネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国公開中

企画・プロデュース:藤井道人
監督:山口健人
脚本:山口健人/山科亜於良
出演:黒羽麻璃央/穂志もえか/松井玲奈/安井順平/冨手麻妙/安藤聖/春海四方/山崎潤/長村航希/八木アリサ/飯島寛騎 ほか

配給:渋谷プロダクション

公式サイト:https://ikigome.com/
公式Twitter:@ikigome_movie

©2023 ikigome Film Partners

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