「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、これから注目の監督・キャストにお話を伺う。
2021年7月期に放送され好評を博したドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』。
7月時点で邦画洋画問わず、本年度実写映画No.1を走っている劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』は、ドラマの2年後を描いた作品。鈴木亮平を始めとするレギュラーメンバーに加えて新たなキャストも加わり、横浜ランドマークタワーで起きた火災に立ち向かっていく。ドラマから引き続き演出を担当されたTBSテレビの松木彩監督にお話を伺った。
松木彩
MATUKI AYA
1987年生まれ、宮城県仙台市出身。
2011年TBSテレビ入社。
主な参加作品は『半沢直樹』、『テセウスの船』『下町ロケット』、ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』でチーフ演出を務め、同作で第109回ザテレビジョン ドラマアカデミー賞監督賞を受賞。現在、TBSドラマ『18/40 〜ふたりなら夢も恋も〜』にセカンド演出として参加。
演出のレジェンドたちの元で学ぶ
――いつ頃からテレビの世界を目指していましたか?
松木:テレビを目指したのは大学3年生の就活が始まる直前ぐらいで、それまでは全く選択肢になかったです。テレビ局受けてみようかなと思ったときにはもう募集ギリギリみたいなタイミングだったので、本当によく入社できたなと未だに思っています。
――学生の頃から映像に携わっていたのでしょうか?
松木:見るのは好きだったんですが、映像の経験は全くありませんでした。高校からずっと演劇を部活でやっていて、最初は演じる方をしていましたが、演出のことを考えるようになってから、こっちを仕事にできたらいいなと思い始めました。
――TBSに入社後は最初からドラマ担当だったのでしょうか?
松木:ドラマ希望で入社しましたが、最初の2年間はバラエティー番組のADをしていました。今思えば、バラエティーはディレクター的な仕事や編集など、責任ある仕事をやらせていただけるのが早かったので、すごく恵まれていたなと思います。
――その後ドラマの部署に異動されてからはいかがでしたか?
松木:弊社には、土井裕泰さんや福澤克雄さんなど、撮っている作品のテイストが全く異なるレジェンドみたいな方々がいらっしゃるんですが、私はそのお二人をはじめとする、たくさんの先輩方のもとでADとして学ばせていただきました。リハーサル一つとっても、先輩によって雰囲気もやり方も全然違っていて。伝説的な先輩方の演出をたくさん間近で見ることができて、本当に恵まれた環境だったなと思います。
土井裕泰:主な演出作品『空飛ぶ広報室』、『コウノドリ』、『カルテット』、『ラストマンー全盲の捜査官ー』、映画『花束みたいな恋をした』など
福澤克雄:主な演出作品『半沢直樹』シリーズ、『下町ロケット』シリーズ、『陸王』、『ドラコン桜』、『VIVANT』、映画『七つの会議』など
亮平さんの想像を超えたい
――ここからは『TOKYO MER』についてお伺いします。ドラマが制作された経緯を教えてください。
松木:この企画を立ち上げた弊社のプロデューサーからは、コロナ禍を戦う医療従事者の方々の姿を見て「この人たちにエールを届けたい」と企画した作品だと聞いています。私は最初医療ドラマとしか聞いていなかったのですが、企画書を読んでみると、これは「医療戦隊」じゃないかと。確かに、命の現場で闘う医療従事者の方々はヒーロー。そこを絶対ブレないようにやろう、という思いを受け取ったつもりで撮影に挑みました。
――他の医療ドラマと違うと感じる点はありますか?
松木:医療ドラマでは、患者さんの背景や手術に挑む経緯などのドラマを描く作品が多いように思いますが、病院内で物語が起きずに現場に行ってその場で助けるという作品の特性上、助ける相手の人となりや、どういう物語を背負っているのかはほぼ描かれないところが、これまであまり見たことのないタイプの作品だと感じました。
脚本の黒岩先生のお話を色々うかがう中で「今回の作品では、救助される人の人物像は考えないことがむしろ大事なんじゃないか。これはひたすら目の前の命と向き合うことのすごさを描く作品だ」という、作品の指針を固められた気がします。
――監督からみて主演の鈴木亮平さんはどんな方ですか?
松木:妥協を知らない人ですね。本当にいい意味で、こっちが気を抜いたら食われる感じがするというか。亮平さんは誰よりも考えているし、もうちょっとやればできるのに、というところで妥協は絶対にしない人。こちらが手を抜くとばれてしまう緊張感があります。なのでいかに自分が亮平さんの想像を上回れるかということをいつも考えていました。周りの本気も受け取って応えてくれる方なので、いつでもいろんな人に刺激を与えてくれる存在だと思います。
映画だからこそ、できたこと
――映画の演出は今回が初めてとのことですが、ドラマとの違いはありましたか?
松木:最初はどうやったらテレビではなく「映画らしくなった」と思ってもらえるのか、できもしないのに悩んでいた時期もありました。でも私はずっとテレビドラマで育ってきた人間だから、変えずに進めることに決めました。亮平さんも「変えない方が良い」と背中を押してくださったこともあり、ドラマのヒロイックでちょっと大仰というか、大きな世界観というのを、崩さずに堂々とやろうと思って。基本的にはドラマと撮り方は変えていないつもりです。
ただ、映画で表現の幅が広がったことはたくさんあります。中でも衝撃的だったのは音の演出です。ドラマは生活音があるところで見てもらう前提でつくるので、どんどん鳴らしていくんですが、映画では全くの無音にできたり、音楽と効果音の立体感にこだわれたり、時間もかけられて映画って贅沢だな、楽しいなと感じました。
――今年も日曜劇場『ラストマン』や映画『キングダム』と話題作を書かれている黒岩さんが、ドラマに引き続き脚本を担当されていますが、黒岩さんの脚本はいかがでしたか?
松木:MERシリーズの脚本は、毎回読むたびに「これどうやって映像にするんだろう」って。(笑)
私は一読者として黒岩先生の脚本が大好きなので、最初に脚本をいただいたときはファンとして夢中で読むんですが、読み終わって、いざこれを撮ると考えたときに、さあどうしよう、ということの連続でした。それでもテレビドラマで大体のことはもうやれるようになった気持ちでしたが、映画の脚本を読んで、まだ上があったか!と。黒岩さんは本当に底知れないなと思いました。
リアルな場所での爆破シーン
――劇場版は横浜ランドマークタワーが舞台。架空の場所ではなく、実在する場所にしたのはなぜでしょうか?
松木:ドラマの時からずっと実際の場所でやりたかったのですが、MERって爆破されたり、テロが起こったり、事故が起きたり、要はイメージが良くない使われ方をする場所ばかりなので、基本的にロケはしてもいいけど名前を出せないことが普通でした。
爆破するとなると許諾を得るハードルも高くなりますし、予算や時間的な制約により、実際に火を起こしたり爆発させたりすることは難しい場合が多いです。そのため、ドラマでは地方まで撮影できるところを探しに行って、東京の架空の場所に設定することが多かった。今回横浜市が舞台にしてよいと言ってくれたと聞いたときはとてもうれしかったです。ずっとやりたかったことがようやく実現できました。
それにしても、横浜ランドマークタワーさんはちょっと懐が広すぎると思います(笑)。どうぞどうぞって言ってくださって。これだけは言いたいのですが、横浜ランドマークタワーで実際に火災が発生したらどうなるかをいろいろリサーチしましたが、映画のような火災が発生することは絶対にありえないくらいすごいところでした。おそらくその自信があるから撮影させてくれたんだろうな、とプロデューサーの八木さんがおっしゃっていて、すごく納得しました。
※まだ映画をご覧になっていない方でネタバレが気になる方は、ここから先はご視聴後にご覧ください。
――今回、合成の世界で有名なSpade&Co.の小坂さんも参加されていて、爆発シーンなどクオリティが非常に高い仕上がりとなっていますが、特に大変だったカットなどがあれば教えてください。
松木:全部大変でした。今回、決してハリウッド大作に並ぶようなものすごい予算があったわけではないんですよ。それでも、爆発シーンもすごくたくさんあるし、特に後半は火災がメインになってくる。実際の火を使うにも様々な制約があるので、後半は全てCGになることは脚本を読んだ時点でわかっていました。
初めてSpade&Co.さんと仕事をする機会をいただきましたが、本当に細かくこちらの意図を汲んでくださって。私のコンテをみて、こうしたらもっと迫力が出るとか、これは上手くいかないと思うとか、たくさんアドバイスしてくださいました。基本的にはドラマのスタッフがそのまま映画に続投したので、映画畑の方々にがっつり入ってもらったのは主にCGと音だったのですが、その方々がドラマの世界観を映画に引き上げてくれたと思っています。
役者陣の安定感
――ドラマ版で研修医だった弦巻比奈(中条あやみ)の成長など、通常の映画以上にストーリーに厚みが感じられました。
松木:ありがとうございます。それはドラマ作品を映画化する強みと言えるかもしれません。ドラマ全11話をかけて一緒に育ってきたキャラクターがいたので、スムーズに入っていけました。
私は比奈(ひな)に関してはものすごく感情移入していて。比奈の成長はもう一つの大切なドラマだと考えていました。中条さんとも「一番成長しているのって多分比奈だね」という話をして。どれくらい成長したかは、最初の飛行機のシーンですぐわかってもらえると思います。映画で初めて見た人には、ドラマの時に頼りなかったことなんて感じさせないくらい、優秀なセカンドドクターなんだと思ってもらえるように映画の冒頭シーンをやろうと思っていましたし、中条さんもそれに応えてくださって。ちょっと泣きそうになりました。
比奈のオペシーンもすごく成長して頼もしくなっていて。そういう感覚は初めてだったので、キャラクターが育っていくってこういうことなんだな、と思って嬉しかったです。
――MERの皆さんが、距離があってもヘッドセットでお互いを思いやっているように感じました。そのあたりはいかがですか?
松木:そこにいないけど通じている、というところは大事にしたいと思っていました。近くにいるときは最低限の説明や目線のやり取りだけで伝わっていて、離れても声で繋がっている。目が合うこと、声が届き合うことは、こっそり私の裏テーマとしてやらせていただきました。終盤で全く届かなくなるところが大きな山場だったので、それでも届くというところに説得力を持たせる前半部分にしたいなと思っていて、このチームなら届く、そう思わせたいなと考えていました。
――劇場版から登場する杏さんの手術の手さばきも印象的でした。何度もリハーサルを重ねたのでしょうか?
松木:これ本当なんですが、リハーサルをしっかりやれる時間が全然なかったんですよ。ドラマの時は練習やリハーサルの時間を設けられたんですが、杏さんに関して言うと、ドラマのメンバーに比べたらほとんど練習時間はありませんでした。しかも、従来の医療ドラマでもやったことがないような、参考映像がほどんどない手術シーンだったんです。
ドラマで、最初は手元の吹き替えのために代役の先生に来ていただいていたのですが、亮平さんはじめ全てのキャストが全く吹き替えをしなくなって、私もいつの間にかそれが当たり前になっていて。杏さんのオペシーンを撮る当日に、そういえば普通は吹き替えの先生に来ていただくものだったって思い出して。どうしようと思っていたら、杏さんが完璧にこなしてくださった。裏でどれほど勉強し、練習されたんだろうかとびっくりしました。
たくさんの方々の応援のおかげで
――現在は次の作品に取り組まれているのでしょうか?
松木:チーフ演出ではありませんが、7月から始まる火曜ドラマ『18/40 〜ふたりなら夢も恋も〜』(7/11スタート 毎週(火)よる10時)という作品に、途中の数話だけ参加させていただいています。MERとは違って血の一滴も出ないおだやかな作品ですが、命を扱うという根本のテーマは似ているのかなと思います。よろしければぜひご覧ください。
――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
松木:今回の劇場版『TOKYO MER』は、もちろんキャストやスタッフの情熱の結晶みたいなところもありますが、ドラマからずっと応援してくださっている方、そして今回映画で初めて観てくださった方、本当にたくさんの方々の応援のおかげでここまで導いていただけたと思っています。
エンタメに振り切った作品ではありますが、お医者さんや消防の人たちのヒーロー感は、誇張して描いているつもりは全くありません。指導に来てくれたお医者さんもそうですし、レスキューの方が撮影中に実際に出動していくこともありました。そういうヒーローたちが本当にいるんだぞっていうのを感じていただいてけたらとても嬉しいです。
(取材・写真:曽根真弘)
劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』は大ヒット上映中
企画・プロデュース:高橋正尚
監督:松木彩
脚本:黒岩勉
出演:鈴木亮平/賀来賢人/中条あやみ/要潤/小手伸也/佐野勇斗/ジェシー(SixTONES)/フォンチー/菜々緒/杏/徳重聡/古川雄大/鶴見辰吾/橋本さとし/渡辺真起子/仲里依紗/石田ゆり子 ほか
配給:東宝
公式サイト:https://tokyomer-movie.jp/
公式Twitter:@tokyo_mer_tbs
©2023 劇場版『TOKYO MER』製作委員会