「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者に、映画についてお話を伺う。
2019年に公開された『狼煙が呼ぶ』そこから毎年作品を積み重ね、今年は狼蘇山シリーズ新作『ここにいる。』が上映される。そして現在は来年公開予定の長編『次元を超える』を撮影中の豊田利晃監督に、狼蘇山シリーズ、新作『ここにいる。』について、また『次元を超える』についても語ってもらった。
豊田利晃
TOYODA TOSHIAKI
1969年生まれ、大阪府出身。
阪本順治監督『王手』(91)の脚本を担当。『ポルノスター』(98)で監督デビュー。主な作品に『青い春』(02)、『ナイン・ソウルズ』(03)、『空中庭園』(05)、『クローズEXPLODE』(14)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18)など。狼蘇山シリーズとして『狼煙が呼ぶ』(19)、『破壊の日』(20)、『全員切腹』(21)、『生きている』(22)と毎年公開され、今年は『ここにいる。』が上映される。来年長編『次元を超える』が公開予定。
狼蘇山シリーズについて
――2019年からここまで狼蘇山シリーズと呼ばれる作品を毎年制作されていますが、最初から連作の予定だったのでしょうか?
豊田:いや、まったく思っていなかったです。2019年に拳銃不法所持で逮捕されて、マスコミや世の中に対するアンサーで作った映画が『狼煙が呼ぶ』なんですけど、意外と短編映画で語れることや、カタルシスってあるな、という発見があって。タイミングが合えばそういう映画を作り続けたいと思ったんです。
2019年に『狼煙が呼ぶ』を作り、来年も何か作ろうっていうときにコロナが来て、そこでちょっと燃え上がってきたんですよね。コロナの渦中で、映画制作全てが中止、延期になっていく。実際『破壊の日』に関しても、私は参加しないって人もたくさんいました。そんな中で作り続けるっていうのが面白いと思った。本来オリンピックをやろうとしてた日、2020年7月24日を『破壊の日』だと決めて、オリンピックは1年延期になったけれど、俺は約束を守るって言って強引に作ったのが『破壊の日』。
『破壊の日』の翌年、東京オリンピックが終わった後いろいろな事件が出てきて、そのようなことはやる前からわかっていた。それで『全員切腹』っていう映画を作るわけです。そういう流れなんですよね。
時代とともに、結果的にそうなっていったっていう。それをメジャーの映画会社は絶対乗ってこないので、自分たちのお金とクラウドファンディングや出資者を募ってやっています。
――連作としての繋がりは意識しましたか?
豊田:役名は繋がっているんだけど、一本一本独立した作品だと思って作ってるんですよ。繋がっているのは、必ず出てくる狼信仰の神社。鹿沼市の神社を狼信仰の神社と見立てて、そこを舞台の中心にしています。そこは携帯電波が一切入らないんですよ。なので集中しやすいというのもあって。ただスタッフは大変。みんなトランシーバーでやりとりするんです。
――狼信仰を題材にした理由は?
豊田:切腹ピストルズっていうバンドがいて、ずっとこのシリーズの音楽をやってくれてるんですけど、彼らの曲の中に「狼信仰」という曲があって。切腹ピストルズの隊長である飯田団紅に話を聞いたら、狼信仰というのは実際にあって、近くだと有名なのは武蔵御嶽神社、三峯神社は狛犬が狼なんですよ。そういう神社が実は日本中にたくさんあるので、いろんな神社を訪ね歩いて行ったんです。
昔は食物連鎖の頂点が狼で、イノシシを払ってくれるし、人間には害を与えない。神話では、ヤマトタケルが迷子になったときに道案内したのが狼です。それだけじゃなくて、明治に日本の政策によって狼が害虫扱いされて駆除されたんですよ。いまニホンオオカミは日本に1匹もいないとされています。近代化によって失われたものの象徴がニホンオオカミというのも面白いなと思って。
――渋川さんを筆頭に豊田組の名優が毎年多く出演されていますね
豊田:全ての舞台が栃木県の西方町、鹿沼市で、その村中が俺の映画を応援してくれてるんです。普通の映画とは違って、村人も映画の現場に入ってくる。ケータリングだったり、大道具だったり、電気だったり、畳だったり、町中と一緒に作っていくっていうのがすごく面白くて、俺も1月から移住してるんですよ。住民票も移動してそっちに住んでいる。役者は全員呼び出しですよ。行くぞお前らって。
――同窓会のような感覚なのでしょうか?
豊田:同窓会というか、祭。農民一揆みたいな、お祭り騒ぎのノリでやってます。実際その町で「ど田舎にしかた祭り」って祭りがあって、それは俺も手伝いに行ったりしています。祭りが好きなんですよ。
――撮影での栃木の方々とのお付き合いで移住を決めた?
豊田:監督も住めば?ってみんな言うわけですよ。東京まで車で1時間半なんで。近いし、家賃がべらぼうに安い。本当に自然の中で、家が馬鹿でかくて、庭がでかくて、環境がいいなと。これはでも、栃木だけの問題ではなくて、日本中の問題で。過疎化してるから、固定資産税だけ払ってくれたらどうぞ、という人が多いんです。
キャスティングによる化学変化
――役者とは事前にどのくらい打ち合わせをされるのでしょうか?
豊田:基本的なことは話しますが、自分で脚本を書くので、脚本に書かれてるんですよ。脚本が詩のようだみたいなことはよく言われるんですが、その本を読めば気持ちが入っていくんじゃないかな。出てくる役者がみんな、俺のことをわかってくれているということもあるかもしれません。ただもちろん映画なので、カット毎に、そうじゃなくて、こうだみたいなことはあります。その方向性を、ニュアンスを伝えるだけでわかってくれるような役者と仕事をしています。
――マヒトゥ・ザ・ピーポーさんや長澤樹さんなど、キャスティングも鮮烈ですね
豊田:多分デビュー作からそうなんです。デビュー作『ポルノスター』は千原ジュニアがそうでした。彼が19歳、俺が24歳の頃からの友達で、「映画撮るときはお前が主役やれ」と。そういうのが実は永遠に続いてて。『青い春』でも、新井浩文にしても永山瑛太にしても、演技経験がなかった中で引っ張ってくれている。『空中庭園』でも何人かそういう子たちがいて。『ナイン・ソウルズ』の又吉直樹、『モンスターズクラブ』ではKenKen。そういうのは常に考えています。
――キャスティングは監督がされている?
豊田:映画に映るフレッシュな顔が欲しいっていうのと、初めての映画っていう子が1人いると、その子の緊張がみんなに伝わって、現場の感じも良くなるんですよ。全員素人だと困っちゃうんだけど。『泣き虫しょったんの奇跡』でも窪塚の息子の愛流を起用したり。そういうことですよね。バランスなんですよ。
豊田作品のサウンド
――このシリーズで印象的なのがサウンドですが、監督からみて北田雅也さんのサウンドはいかがですか?
豊田:本来最終的な音をまとめる仕事のダビングは録音技師がやるんだけど、音響効果の人にやってもらっている。それが北田さんです。彼とは『空中庭園』からの付き合いで、音の感覚が自分に近い。それで北田さんにダビングをずっとお願いしています。
――ユーロスペースでの『破壊の日』上映時に、ものすごい音が鳴っていたのが記憶に残っています
豊田:ユーロスペースはビルが震えてたそうです(笑)。北田さんもあれはマックスだったと。コロナの状況とかストレスが音に出てたんじゃないかって言ってました。
――音楽はいつもどのように決めていますか?
豊田:音楽もキャスティングと一緒なんですよ。あんまり知らない人に頼んでいない。知ってる人や交流がある人に、こういうことをやらせたら面白いんじゃないか、って。ZAKがずっと俺の音楽をやってくれていて、最近忙しくなったからZAKの弟子にあたる葛西(敏彦)くんにお願いしています。映画は、映像と音の芸術だから音楽の重要度が高くて、クオリティの高い人とやりたくなりますよね。
――ロックなサウンドが多いのは、監督がお好きだからですか?
豊田:多分そうなんでしょうね。この映画にはギターの音が合ってるとか、『青い春』だとその当時のTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTって、男子校な感じがしたじゃないですか。男子校でしょ、ミッシェルでしょ。みたいな。そういうのはありますよね。
新作『ここにいる。』について
――『ここにいる。』はどんな作品でしょうか?
豊田:『生きている。』のときはコロナがあって、連絡が途絶えた人がたくさんいて「お前生きてんの?」が挨拶言葉みたいになっていた。その延長みたいな感じで「豊田さん今どこいるんですか?」とよく言われるんですよね。
「ここにいるよ」「ここってどこですか?」と言われて。それを詩的に捉えればいい言葉だなと。東京を離れたからって、やってることは一緒だし。それは俺に限らず、地方に人が流れていることって今とても多いと思う、海外行ってる人もいるし。でもみんなそれぞれそこでいろんなことをやっていて、自分自身は変わらない。逆に、本当にそこにいるの?そこでいいの?みたいな、問いかけの気持ちもあります。
――監督が今感じている想いが、作品の中に、反映されている?
豊田:俺の映画全部そうですよ。原作モノであっても。自分で脚本を書いてる映画は、必ず自分の生活とか、自分と社会のあり方みたいなことの反映でしかない。そうでないと何かやってても盛り上がらないんですよ。やる気にならないっていうか。そのために毎日その作業をやっている感じですよね。
ロケハンだったりシナハン(シナリオハンティング)みたいなことが好きで日々やっていて、映画を作ってそれを集合させる。人もそうですよね。こういう音楽が面白いなと思って、会いに行って、彼らを引き寄せる。そういう映画の作り方なんですよ。だから、おのずと映画と近い場所にいますよね。
今シリーズに欠かせない二人
――渋川清彦さんは監督にとってどんな方ですか?
豊田:どんな人か俺もよくわかんないですよ。ただいつも準備が整っている。やるんなら空けますよ、そういうことやるんだったら、俺もこうしますよとか。付き合いが長いから友達でもある。でも、友達と言っても多分普通の友達とは違うと思うんですよ。やっぱり監督役者のハードルは絶対お互い超えないっていうか。それで「何しようか」っていうのを楽しみながら、ずっと年月を過ごしてる気がしますね。もう彼も忙しいから。
――飯田団紅さんは監督にとってどんな方ですか?
豊田:そのときそのときで、自分の相棒みたいな人がいるんですよ。20代の頃は千原ジュニアが俺の良き相談相手で、相棒で、7年くらいずっと一緒だったんです。それからずっと、リトルモアの孫家邦(プロデューサー)みたいな人が自分と一緒にいて。そういう相棒みたいになる人がいつもいる。小笠原諸島で『プラネティスト』という映画を作っていたときは、小笠原の宮川典継がずっと一緒にいたんです。それが今、飯田団紅であると。隊長は面白いですね。思想もそうだし、彼らがやってる切腹ピストルズっていうバンドも刺激的だし。
――影響を受けて映画に反映されることもある?
豊田:影響を伝え合っているんですよね。俺の影響も受けていると思いますよ。もちろん俺も、隊長の考え方みたいなことに影響を受けてると思う。そういう何か、どっちがどっちみたいなことがわかんない関係で。だから脚本も一番初期の段階で飯田団紅には見せる。意見を聞く。
あーだこーだ二人で話をして、積み上げていく。二人でどっか行こうみたいなことになるんですよ。ロケハンだったりシナハンだったり。誰かに二人で会いに行って。うちの家の鍵も持ってるし。ちょっと隊長、パソコン忘れたから取ってきてって言ったり。今の相棒です。
――7月24日には映画『ここにいる。』ワールドプレミア公開イベントがありますが、どんなイベントになる予定ですか?
豊田:大げさに言ってますけど、やっと出来上がった!みたいな。志人(シビット)っていうラッパーがいまして、ヒップホップの世界では超有名なやつで。彼は京都の山奥に住んでいて、木こりをやっていてなかなか里に下りてこない。たまには東京でやろうよと。その志人が出るのと、もちろん『ここにいる。』の上映、切腹ピストルズのライブ。もうちょっと目玉があるんですけど、それはお楽しみ。
長編『次元を超える』そしてこれから
――来年公開の長編はどのような作品になる予定ですか?
豊田:なんていうかな。自分自身が想像力を使ってどこまでいけるのか。多分それの究極にたどり着くとは思うんです。脚本はできてるので、それが完成するのが自分でも楽しみだなって思ってますね。今は前半の撮影を終えたところです。
――W主演の窪塚洋介さんと松田龍平さんについてはいかがですか?
豊田:まだ松田龍平の部分を撮影したところ。二人とも忙しい役者さんなので、スケジュールが合わないんですよ。二人とも気心が知れているというか、俺が彼らのことをわかってるのと同時に、彼らも俺のことをよく知ってると思う。そういう状態になれる役者ってなかなかいないです。二人とも力がある、日本を代表する役者だと思う。『破壊の日』で一瞬ぶつからせたんだけど、もう一回ちゃんとぶつからせるっていうのは、俺自身も楽しみです。
――映画を作り続けるのはなぜですか?
豊田:自分が面白いから。これも戦いですよね。でも一切儲からないんですよ。儲からないし、やるたびに赤字なんですけど。それを何とかいろんなことで工夫してしのいでいる。
――やはり映画が好きだから続けられる?
豊田:自分が子供の頃とか、10代20代の頃に映画館で映画を観て、いいものをいっぱいもらったので、そういう経験をする機会を作り続けていく、ということはずっとやろうとは思うんですけどね。恩返しじゃないけど。それが何かは社会の状況によってまた変わっていくんだろうとは思います。
――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします
豊田:『ここにいる。』に関しては、映画館で上映するのは、短編をまとめて1時間30分くらいを超えるのを待ってから、映画館で、そして世界に持っていこうかなと思っている段階ですね。自分は一切配信もDVD化もしてないのは、再上映されることによって、映画館の大きい画面で大音量で聴けるので。みんなのタイミングが合えばいいなと思っています。
撮影協力:cafetenango カフェテナンゴ
(取材・写真:曽根真弘)
『ここにいる。』
監督・脚本:豊田利晃
音楽:切腹ピストルズ
出演:渋川清彦/飯田団紅/内藤正記/風間教司/冨山亮/山本真一/新屋泰伸/壽ん三/村門祐太/志むら/篠﨑泰三/瀧口亮二/松田邦洋 ほか
©豊田組
映画『ここにいる。』 ワールドプレミア公開イベント
2023年7月24日(月) 18時30分開場 19時30分開演
会場:渋谷WWW X
【チケット】豊田組ショップ内にて販売中 https://toyodafilms.stores.jp
『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』
監督・脚本:豊田利晃
出演:窪塚洋介/松田龍平 ほか
2024年公開予定