『リボルバー・リリー』行定勲監督 インタビュー「2023年を生きる人に響いて欲しい」

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行定勲

「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。

8月11日から公開される『リボルバー・リリー』。原作は長浦京の同名長編小説。メガホンをとったのは、数々の名作を世に送り出してきた行定勲。今作で本格アクション映画に初挑戦した。そんな行定勲監督に、今作について、一緒に組んだスタッフについてお話を伺った。

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行定勲
YUKISADA ISAO

1968年生まれ、熊本県出身。
長編映画初監督作品『ひまわり』(00)で釜山国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。『GO』(01)で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞に輝き、一躍脚光を浴びる。『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』『春の雪』(05)、『クローズド・ノート』(07)、『パレード』(10)、『うつくしいひと、サバ?』『ナラタージュ』(17)、『リバーズ・エッジ』(18)、『劇場』『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)などがある。

 

6日間のロードムービー

――この作品を監督することになった経緯を教えてください

行定:プロデューサーから、こういう原作があるんだけど大正時代を背景にしたアクション映画をやらないかと言われて。なんで僕なんですか、と聞いたら、そういうのやってないよね、と。プロデューサーの勘だと思うんですけどね。今までやってない人間が、新しい試みをしてハマれば面白いことなりそうだっていう。

普通はもっと安牌なところで仕事が来るので、そういう意味ではすごく冒険だと思う。僕は普段ラブストーリーか青春映画のオファーが多いんです。自分で企画する場合は、自分が想像もしなかったものを作りたいんですが、なかなか『リボルバー・リリー』のようなスケールのものって自分では想像し難い。なので非常に嬉しかったので、後先考えずにやりますとは言いました。

――スケールの大きい映画に挑戦してみていかがでしたか?

行定今まで自分が作る映画でやってきたことって、半径100mぐらいの視野で起こる出来事。個人が何を選択してどう生きたかっていう様を見せたときに、観客がそこで心に触れるものとか、言った言葉だとか、そういうものを、自分事のように考えるっていうものなんです。

今回、同じように大正時代の小曾根百合(綾瀬はるか)っていう一人のキャラクターの身に起こる話を定義していったときに、果たしてスケールが大きくなるかどうかというのはわからなかったけれど、とにかく想像したのはそれで。だから6日間のロードムービーにしようと。登場人物が移動すると何が起こるかというと、大正時代の風景がどこにもないので全部作らなければいけなかった。これは映画的な運動なんですよね。全部を作り上げなきゃいけないから借景ができないんです。

今まで自分の映画は借景をしてきたんですよ。この風景があるからこういうシーンが浮かんで、こういうのいいよね、という。この桜が咲いている時期にここにいたら儚いよね、それを探しに行こう、みたいなことはしてきた。今作は全て想像の中で作るしかない。その経験は僕の中ではなかったんだけど、それを脚本にしてしまったばっかりに、みんな大ごとになっていった。

結果的には、主人公が大きく巻き込まれていくきっかけからこの6日間で、彼女が選択して、最後にどんな言動まで至るかっていうこと全部が、彼女の生き方に関わることだったんです。それが表現出来た。あとはそれを観客がどういう風に受け止めるか。そこにスケール感が出る。場面場面を作り上げる上で、そこで起こることというのを考えていきました。

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©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

アクションシーンに必要なもの

――今作は『シン・仮面ライダー』も担当されていた田渕さんがスタントコーディネーターですね。アクションシーンに挑戦してみていかがでしたか?

行定:今回、アクションを入れ込んでほしいとは言われているけど、アクション映画を作ってるつもりはないんですよ。戦い始める動機が何かによってずいぶん空気も変わりますよね。それが全てでした。

小曾根百合は、銃さばきは当たり前なんだけども、武道も体得しているだろうし、合気柔術みたいなことやってたら面白いかもねと。彼らなりの架空の合気道。同門同士が戦ったら、同じ合気をかけるから掛け合っちゃって、両方動けなくなったら面白いですよねとか。

あとは間合いっていうものをすごく大切にしたい、戦いにも流儀があるっていう話はしました。ここ最近のアクションって、殺陣を排除したい監督が多いような気がしていて。要するに、リアルにずっと追いかけてカットを割らないでやる。僕はそれより、人と人が見合うとか、カットが割れたときにそこに現れる人物が撃たれるとか、そういうことってやっぱり大切な気がしていて。撃たれる側のリアルと、撃つ側のリアルはあるんだけど、カットをここで切り替えるから「ため」があって美しく倒れる、という。僕はアクションも耽美的であるべきだと思っています。

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©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

行定闇雲に全部撮って、編集でリアルにまとめたりとか、カメラを振りまくるといったことは、VFXやワイヤーを使えばできることかもしれないけど、そうじゃない間合いみたいなものは大切にして欲しいとは伝えました。

逆に言うと、殺陣がちゃんと必要ということ。間って映画の嘘なんです。間が作られないとカットって割れないはずなんですよ。こっちもバーンって撃って向こうも撃って、その後にお互いに当たったりしてるから、そんなはずないんですよ。だけど映画の間合いっていうのはあるよねって。現代ではなく大正時代という設定なのもある。本当はもっとのんびりした銃撃戦をやりたかったんですけど、さすがにそれは緊張感がないねってなりました。

篠田昇から受け継がれていくバトン

――照明は今作で10本目のタッグとなる中村裕樹さん。撮影は今回新たに今村圭佑さんという組み合わせですがいかがでしたか?

行定多分融合なんですよね。新旧っていうか。中村さんは大きな構えの映画も臆することなく、淡々と、非常に楽しんでやってくださる人。あと若い人たちが好きですよね。もう還暦過ぎてるのにお若いのは、若いスタッフに常に刺激を受けているからだと思います。

元々中村裕樹と今村圭佑はCMで何度も組んでいて、映画をやってないだけだったんです。それを知っていたので。今村は『世界の中心で、愛をさけぶ』を観て、映画って面白いなって思ってくれていたみたいで。その時のカメラマンだったのが篠田昇。今村は日本大学芸術学部に行くんですが、そこは篠田昇の出身大学だった。そういう流れがあって、DNAがそこに流れ込んでるような気がします。

今回は僕らが今村と接点を持つことで、彼自身からまた何か違うものが生まれる可能性もあると、基本的に撮影方法は今村がやりたいようにやってもらいました。なのに不思議と編集して組み上がった映画は、今までの自分の映画の延長上であるような感覚があった。結構画のトーンに関しては意見したのでそうなっていったのもあるんだけど。でも彼が撮りたい画を撮ってるんですよ。もっとこうしてくれとかはほぼ言ってない。なのになぜかそうなってるっていうのは、不思議と相性が良かったのかなと思います。あと彼は撮る判断がとても早いんですよ。これは優れたカメラマンにしかできないことだと思うので、すごい若手が出てきたもんだなとは思っていますね。一緒にやれて良かったなと思います。

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©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

岩井俊二監督について

――同じく東映作品で師匠ともいうべき、岩井俊二監督の『キリエのうた』の公開も近いですが、新作についてアドバイスし合うようなことはありましたか?

行定:ないですね(笑)。岩井さんと飯食ってるのは楽しいですけどね。彼は作家で、僕は映画監督なんですよ。ここに大きな違いがあって。映画監督としての岩井俊二との会話は、すごく同感な部分があると思っているけれど。

彼は映像を主軸にした作家だと思います。作品はご自身が見た風景だとか、ゼロから生み出しているものなんだと思うんです。僕は同じような部分も持ってますけど、例えば今回の『リボルバー・リリー』は完全に切り分けていて、僕ではないですね。作家は長浦さん。脚本は書いてますけど、ほとんど口立てで共同脚本の小林達夫が形にしていく。だからそういう意味では私は作家では決してないんですよ。そこが岩井さんと大きく違う。

僕は、一個一個の作品のオリジナリティというよりは、作品群の選択を含めたオリジナリティ、ラインアップを目指している。一人の人間が、いろんなジャンル、いろんな題材をやる。前に言ったことと、今言ったことが一貫してるよねとかじゃなく、そのキャラクターに乗っかって心情を紡ぎ出すっていうやり方です。

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行定勲

――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします

行定:55歳になるんですけど、この歳でこういう新しい挑戦をさせていただけて自分としても視野が広がりました。2023年を生きる人たちに観て欲しい映画です。

いつもは、10年後でも古びない、普遍的な題材を映画にしたいと思ってきたのですが、今回は、2023年の人にこの映画を封切で観て響いてほしいと思っています。戦う事に対して、主人公たちがどんな選択をするのか。そのことを、映画を作る上で僕自身が考えさせられたんですよね。こんなことは今までなかった。そういう気持ちで作った映画なので、是非ともスクリーンで、登場人物たちがたどる道や彼らの背景みたいなものを感じてもらって、それが自分ごとになってくれることを望んでいます。そういう意味では本当にたくさんの人に観ていただけたらなという想いです。

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行定勲

(取材・写真:曽根真弘)

リボルバー・リリー』は8月11日(金)全国公開

監督:行定 勲

出演:綾瀬はるか/長谷川博己/羽村仁成(Go!Go!kids/ジャニーズJr.)/シシド・カフカ/古川琴音/清水尋也/ジェシー(SixTONES)/佐藤二朗/吹越 満/内田朝陽/板尾創路/橋爪 功/石橋蓮司/阿部サダヲ/野村萬斎/豊川悦司 ほか

配給:東映

公式サイト:https://revolver-lily.com/
公式Twitter:@revolver_lily

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

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