「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。
監督・岩井俊二×音楽・小林武史による音楽映画『キリエのうた』が10月13日(金)から公開される。主人公のキリエを演じるのは、BiSH解散後もソロとして精力的に活躍しているアイナ・ジ・エンド。キリエの歌がつなぐ4人の登場人物の、13年間の出逢いと別れを描く。これまでも『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』と音楽映画の名作を手掛けてきた岩井監督に今作について伺った。
岩井俊二
IWAI SHUNJI
1963年生まれ、宮城県仙台市出身。
93年『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で日本映画監督協会新人賞を受賞。以降、『Love Letter』(95)、『スワロウテイル』(96)、『四月物語』(98)、『リリイ・シュシュのすべて』(01)、『花とアリス』(04)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『ラストレター』(20)など数々の作品を手掛ける。また日・米・カナダ合作映画『ヴァンパイア』(12)、長編アニメーション『花とアリス殺人事件』(15)、『チィファの手紙』(20)など、国内外を問わず活躍している。
バイオリンのような、弦楽器のような鳴り方をする人
――まずは今作が映画化に至った経緯を教えてください
岩井:簡単にいうと、最初は小さな音楽映画が作りたくて、そのあたりからスタートしたんです。主人公2人の、ミュージシャンとマネージャーのバディーものみたいな感じの話が最初にあったストーリー。そこにアイナさんを起用したことで段々物語が膨らんできて、夏彦のくだりとかいろいろ増えてきて、今みたいな形になりました。
――主演にアイナ・ジ・エンドさんを起用しきっかけをお聞かせください
岩井:ちょうどこの物語を書いている最中、ヒロインを誰にしたらいいんだろうなと思っている時にROTH BART BARON(ロットバルトバロン)というバンドのライブにアイナさんがゲストで出ていて、1曲だけ歌ったんですよね。
それをたまたま見て、この子いいかもとなって、それがきっかけでした。その時はBiSHも知らなかったのでそこから勉強して。BiSHというグループをやっているんだ、ソロでもアルバムを出しているんだとか、作詞作曲も自分でやっている、すごい才能の人だなと。BiSHは振り付けもやっているし、映画の主演でいけるなと思いました。
――早い段階でオファーされたのでしょうか?
岩井:そうです。映像を見たその日か翌日ぐらいには、スタッフにスケジュールを確認してもらいました。もし他の音楽映画でも決まっていたらこっちは断られちゃうと思ったので、まず何も入ってないだろうかというのを確認したかった。やるやらないは別として、音楽映画に出る予定があるのかとか、そういうのを聞いてもらったんですよね。
そしたら、出たいというリアクションで、やります!という感じだったので逆にこっちも慌てて。ただBiSHの活動もあって、2年後ぐらいには体が空くんじゃないかとおっしゃっていたんですけれど、それが突然だいぶ繰り上がって、数か月後の撮影は可能かみたいな話になった。こっちもまだ本を書いている段階で、自分一人で書いていただけだったので、どこの映画会社とか何も決まっていなかった。そこから慌てて、そこら辺を固めていきました。クランクインまでは、本当に慌ただしかったですね。
――アイナ・ジ・エンドさんの歌声のどのあたりに惹かれましたか?
岩井:一番最初に声を聞いたのは、CMソングだったと思います。その時には、太めのしっかりした声の人だな、いい声だなと思いました。その後、音楽番組に、ROTH BART BARONの三船雅也とのユニットで一緒に出ているのを見てはいるんですよね。その時はあんまりピンと来ていなかったんです(笑)。
その後にライブ映像を見た時に、アイナさんがクローズアップで映っていて、彼女の細かい指先の動きや、とても繊細な部分が存分に映っていた。声もさることながら、細やかな表現というか、体を使った表現も含めてすごいなと。歌声もバイオリンのような、弦楽器のような鳴り方をする人だなと思いましたね。
本物の音楽を持ち込んでくれる
――映画の音楽を作るにあたって、岩井さんにとって小林武史さんはどういう存在でしょうか?
岩井:『スワロウテイル』の頃から一緒にやっていますし、ずっと長く途切れず、一緒にご飯食べたりしている間柄で。ちょっと盟友に近いところもあります。『スワロウテイル』のときも『リリイ・シュシュのすべて』のときもそうでしたけれど、本物の音楽を持ち込んできてくれるというところでとても信頼しています。
――今作の音楽を作るうえで、小林さんに伝えたことはありますか?
岩井:キリエが路上ミュージシャンであるということと、新しいフォークの形みたいな話をしましたね。
1970年代にはフォークソングというジャンルがあって、(フォークシンガーが)いっぱいいたんです。その後80年代を経て、いなくなっちゃったんですよね。いるにはいるんですが、その前の世代として存在していて、新しい世代としてはいなくなっちゃったというか。言い方とかも変わり、90年代になるとネオアコ、ネオアコスティックみたいな言い方に変わった。要は電子音を使わないというか。80年代が電子音の全盛期だったので、アコースティックを使ったもの、という別な見方になった。
今回はそういう意味で、日本の中では死語にされてしまっているような、フォークを新たに、この現代でどう描くかを考えました。
例えばあいみょんさんは、確実にフォークソングを歌ったりしてますが、フォークとは言われない。フォークという言葉が使われなくなっている。そこまでなくなる必要があった言葉なんだろうかと。ジャズも残っているし、ボサノバも残っている。その中でフォークって言葉が、あまりにも日本の中では消えすぎているんじゃないかと思います。
日本のフォークは60年代、70年代の間でもだいぶ変化しましたが、自分が割と好きだったのは初期のフォーク。子供時代に聞いていた感じのフォークというか、あんまり歌謡曲に寄っていない時代のものが好きで、そんな話を小林さんにしました。その通りになっているわけではないんですが、最初の入り口としてそんな話をお互いに共有しました。
この映画を味わい尽くしてほしい
――監督は画に関しては最後の編集の仕上げまでご自身で行っている印象がありますが、自分の手で最後までやるのには何かこだわりがありますか?
岩井:こだわっているわけじゃないんですが、8mmフィルムをやっていた頃、隅から隅までやらないと誰もやってくれないので、自分でやってましたし、プロになって最初の頃も、編集は自分でできないと仕事にならなかったんですよね。
ミュージックビデオとか、時間がないとオフライン編集もはしょられて、スタジオだけあっていきなり撮影したやつをその場で編集しろみたいに言われる。スイッチングも、その当時デジタルじゃないですからね。スイッチャーがあってテープを入れて。最初にカラーバーを調整して、そこからでしたからね。何の違和感もなかったんです。
映画になって、編集マンという人が最初に編集したやつを持ってきたときに、練習したのかなと思って。こんな感じになりましたみたいな。なんでこの人は自分の作品を編集しているんだろうと思って。それで自分で編集を始めたら、スタジオの人に彼が編集なんだから、彼が編集するんだと言われて「いや別に必要ないですよ、自分でやるんで、全然大丈夫です」って言ったら、ちょっとトラブルにはなりましたけど(笑)。
それ以降はずっとそういうこともなく。結局自分でやったり、あと下ごしらえはうちの若い子に頼んでやってもらって仕上げるとか、いろいろありますね。どうしても人に任せられないという側面はあるかもしれないですね。
――自分の意図を汲み取れる方になかなか出会えないのでしょうか?
岩井:画は「そうじゃなくてこう」って言いやすいのでそんなに難しくないんですが、問題は音ですよね。何をされたのか分からないので、自分でやるしかないという。そこに入ってる音が何なのか、知らないわけにはいかない。結局、自分でやるしかない状況に陥っているという。足音や、細かい音ですよね。この映画も2、3ヶ月やってますけど、編集より大変ですね。
――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします
岩井:今回、『キリエのうた』という音楽映画を撮りまして、あえて自分たちで音楽映画を名乗っているので、やっぱり音楽を存分に楽しんで欲しい。アイナさんの素敵な音楽と、北斗くん、華ちゃん、すずちゃん、それぞれの才能溢れる若き俳優さんたちと一緒に、本当にこころゆくまで撮影できたので、そんな彼らの凄みも堪能しながら、ぜひこの映画を味わい尽くしてほしいなと願っています。
(取材・写真:曽根真弘/ヘアメイク:高徳洋史/スタイリスト:申谷弘美(Bipost))
『キリエのうた』は10月13日(金)全国公開
原作・脚本・監督:岩井俊二
音楽:小林武史
出演:アイナ・ジ・エンド 松村北斗 黒木華/広瀬すず ほか
配給:東映
©2023 Kyrie Film Band
公式サイト:https://kyrie-movie.com/
公式X(旧Twitter):@kyrie_uta