『SAND LAND』音楽 菅野祐悟 インタビュー「子供たちがワクワクするような音楽を作りたい」

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©バード・スタジオ/集英社 ©SAND LAND製作委員会

「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。

『Dr.スランプ』『DRAGON BALL』などの有名作品を全世界へ送り出してきた漫画家・鳥山明原作の映画『SAND LAND』が8月18日(金)から公開される。今作で音楽を担当したのは、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』や『名探偵コナン 黒鉄の魚影』、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』など数々の作品の劇伴を手掛けてきた菅野祐悟。劇伴の仕事について、今作の音楽制作についてお話を伺った。

230817_SANDLAND_03菅野祐悟 KANNO YUGO
1977年生まれ、埼玉県出身。1997年、東京音楽大学作曲科に入学。
『ラストクリスマス』(04)でドラマ劇伴デビュー。映画『アマルフィ 女神の報酬』(10)で日本映画批評家大賞。2014年、劇伴作曲家として月間ギャラクシー賞を受賞。2015年、第52回ギャラクシー賞テレビ部門で劇伴作曲家として奨励賞を受賞。テレビドラマ『ガリレオ』『SP 警視庁警備部警護課第四係』(07)、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(14)、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』(18)、『あなたがしてくれなくても』(23)。映画作品に『容疑者Xの献身』(08)、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(12)、『マチネの終わりに』(19)、劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』『ガリレオ 沈黙のパレード』(22)、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(23)などがあり、Netflixオリジナルアニメシリーズ『PLUTO』(23)の音楽も手掛けている。初映画監督作品『DAUGHTER』が今年12月15日に公開予定。

音の演出家

――改めて、劇伴について教えてください

菅野:映画やドラマ、アニメの映像の背景で流れている音楽のことを総称して劇伴という風に言われていて、一般的にはサウンドトラックやBGM、背景音楽といった言われ方をすることもあります。

物語を盛り上げたり、音楽で意味を説明したりして、物語をよりよく見せる。もしくは説明するための音楽です。なので、みなさんが普段聞いている歌や歌詞が入っているものというよりは、歌が入っていない音楽で、セリフの邪魔をせずに物語を補完していくような音楽が多いです。

――劇伴制作は普段どのようにされていますか?

菅野:最初に音楽打ち合わせというものがあり、監督やプロデューサーと打ち合わせをして、どのような音楽を求めているのか、作りたいのかということをヒアリングして、それを元に音楽を作ります。

大きく2パターンあり、映画の場合は、大体映像が先に出来上がっていて、それにワンシーンワンシーン音楽をつけていく。専門用語で言うと、「画当て」というような言い方をするのですが、映像に当てて音楽をつけていくというやり方が1パターン目。

もう1パターンは、テレビのドラマやアニメなどに多いのですが、映像がまだ出来上がっていない状態から音楽制作をスタートさせることがあります。そういう場合は、この物語の中にどういう音楽が必要かということを、音響監督もしくは選曲家と言われる方たちが音楽のメニュー表として出します。例えば、主人公Aさんのテーマ、物語全体のメインテーマ、サスペンスシーン、コミカルシーン、感動シーンなど、メニュー表に沿って作っていくやり方です。

メニュー表がなくて完全にお任せという場合もあり、その場合はどんな音楽が必要かということをヒアリングして、ドラマだと20~30曲くらい、アニメだと40~50曲くらいを事前に作ってそれをお渡しします。選曲家・監督・プロデューサーが、映像のシーンに合わせて音楽を当てて映像作品を完成させていきます。

――映画作品の場合は、ワンシーンずつ映像をもらうのでしょうか?

菅野:最初から最後まで通した映像を送ってもらい、それに合わせてプランニングして作っていきます。作曲家によって違うのですが、僕の場合は、物語のキーになる部分の音楽を作り、その核になるメロディーみたいなものを、いろんな場所にアレンジを変えて配置して音楽を制作することをよくやります。専門用語で言うと、「ライトモチーフ」という言い方をします。

例えば『ミッション:インポッシブル』の有名なテーマ曲がありますよね。イーサン・ハント(トム・クルーズ)が活躍すると、メインテーマのメロディが少し出てくる。そうすると、お客さんたちがイーサン・ハントのかっこいい姿を想起して、ワクワクする。あのメロディーが何度もかかることにより、観客の中にすり込まれていきます。最後やオープニングに一番メインの状態の一番アレンジがかっこいいものが流れることにより、音楽で映画全体の空気感なり、世界観を作っていくといったやり方があります。

劇伴の作り方というのも正解はないし、映像が良くなれば変な話、何でも良いわけです。例えば最初から最後まで音楽が一個もないという映画も世の中にあるわけで、それも一つの音の演出だと思うんですよね。

私は劇伴作曲家を、音の演出家だと考えています。どこから音楽が始まり、どこにどういう音楽をかけるべきか。ここは音楽がない方がいいんじゃないかとか。監督がここから音楽をスタートしたいと言ったとしても、もうちょっと音楽を前から入れたり、監督が言うより後ろから入れた方がもっと効果的なんじゃないか、ということを提案したりすることもあるんですよ。

コミカルな音楽が欲しいと言われたとしても、ここは暗い音楽をかけたほうがもっと笑えますよと提案することもあるし、その逆もある。音を使って作品をいかに演出して、作品をより良くするかを考えるというのも、劇伴作曲家の仕事の一つです。いいメロディを書く、感動するメロディを書くということは必要ですが、そこがメインの仕事ではないと考えています。

――テレビドラマと映画では音楽の作り方に違いはありますか?

菅野:大きく言うと同じなんですよ。その作品にとって一番効果的な音楽をつけるという意味では同じです。専門的なことを言うと、映画だとダイナミックレンジが広いので、テレビで聞こえないような小さい音から大きい音まで使えていろんな音楽表現ができる。テレビだと民生機で再生されたときに効果があるように音作りをする。そういう差はもちろんあります。

でも、そこは劇伴作曲家っていう仕事の中の本質的な部分では全くない。僕らが考えなきゃいけないのは、作品一つ一つに対して、どれだけカスタマイズして、その作品にベストな音楽を作れるかということ。これは映画だからこうだ、これはアニメだからこうだということは、僕は全く考えていないです。

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【 ストーリー】

魔物も人間も水不足にあえぐ砂漠の世界。
悪魔の王子・ベルゼブブが、魔物のシーフ、人間の保安官ラオと奇妙なトリオを組み
砂漠のどこかにある「幻の泉」を探す旅に出る—。

世界観を音楽で表現する

――今作の曲作りにおいて意識されたことはありますか?

菅野:この映画が他の作品と何が違うかというと、悪魔が主人公というところ。ヒーローものだけれどヒーローものじゃないというか。主人公はある意味、人気者でなきゃいけないと思うけれども、悪者でもなきゃいけないわけじゃないですか。ベルゼブブは自分のことを悪者だと思っているので。登場した時には「どうだ、かなりのワルだろ」と胸張って出てきてるわけだから、観客にも悪者だというふうに見せなきゃいけないわけですよ。

最初に出てきた悪いヤツのベルゼブブのテーマと同じ曲が、ベルゼブブが強くなるときにもかかるので、お客さんがその曲を聞いたときにワクワクする音楽にしなきゃいけない。両方を満たすメロディを作らなければいけませんでした。悪魔が主人公の、悪魔が活躍する作品なんだよ、ってことを音楽で演出する必要がありました。

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©バード・スタジオ/集英社 ©SAND LAND製作委員会

――メインテーマを作るのは難しそうですね

菅野:僕ら作曲家は、作りたいものが決まれば何でも作れるんですよ。その作品にあった必要な音楽を、クラシックだろうが、ジャズだろうが、テクノだろうが、ロックだろうが、演歌だろうが、僕らは何でも屋なので作れるんです。だけど、何を作って作品を演出するかということがある意味、一番の仕事。この世の中の誰の脳みそにもない “悪魔のテーマ” というものを、思いつくか思いつかないかというのが結構勝負になるんですよ。

――今作ではどんな要望がありましたか?

菅野:具体的なお願いというよりは、私の音楽の世界で表現してくださいというようなメニュー表でした。ここに音楽を当ててくださいというシーンの指定だけがある、わりと変わったメニュー表だった記憶があります。

映画の音楽は、このシーンに合う音楽を作ればいいという話でもなくて。最初の敵なのにすごく大きい生物がでてきて襲われたりもする。でもそのシーンだけを観てフルマックスの敵の曲みたいなのを書いちゃったら、その後がプランニングできないんです。敵のキャラクターに合わせたり、小ボス、中ボス、大ボスみたいなのがいたら、観客に、どんどん強い敵に挑んでいっていると音楽も通して感じさせないといけない。ワンシーンだけ渡されても、プランニングができないんですよね。

だから考え方としては、2時間の映画で1曲みたいなもの。最初から最後まで通して、一番作品にとって心地よくベストなものを作るという考え方です。

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音響監督の岩浪美和氏

――音響監督の岩浪さんとは何度も組まれていますが、音楽制作において音響監督とはどのような役割・棲み分けなのでしょうか?

菅野:岩浪さんは、音に関しての演出のすべての責任者のような存在です。声優さんの録音もするし、車が走る音や、敵が戦う音、風の音など、映画の中に流れているすべての音と音楽、セリフを合わせて、作品の中でバランスを取り、作品全体を演出する人の長みたいな感じです。僕はそのうちの一部の音楽という部分を担っています。

――岩浪さんのすごいところはどんなところでしょうか?

菅野:岩浪さんのすごいところはクオリティーが高いこと。途中でどんな魔法をかけているのか分からないのですが、仕上がりがいい。岩浪さんの中で見えている音の世界というものの及第点やクオリティーが高いんじゃないでしょうか。

あとは、本当に何も言わないんですよ。何も言わないことで、僕の脳みそをフル活用する。こうしてほしい、ああしてほしいというリクエストがない分、自分で考えるじゃないですか。そうすると僕の人生の全引き出しの中から、なにを作りたいかをチョイスできるんですよ。もしそれが違えば直せばいいですし。何も言わないという方法で、まず一回僕の中の脳みそのフルパワーみたいなものを、骨の髄まで引き出すという作戦なのかなと(笑)。僕はそういうスタイルが好きなので、すごくやりやすいです。

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――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします

菅野:鳥山明さんという日本の宝、世界に誇るエンターテインメントの神様みたいな人の作品を、今の世代の子供たちに楽しんでほしいなと。子供たちがワクワクするような音楽を作りたいということは、念頭に置いて制作していました。

分かりやすくもクオリティーが高くて、ハリウッドに負けないような作品にしたかった。鳥山明さんの作品は世界中が注目する作品でもあるので、世界一のコンテンツにしたいなという気持ちで作りました。大人たちが楽しむのは分かっているので、ぜひ今の子供たちにも観て、ワクワクしたり、エンターテインメントってとても楽しいねと感じて欲しいですね。家に帰って「ベルゼブブより俺の方が悪いことしているよ」みたいな楽しい会話のきっかけになるアニメ映画になっていたらいいなと思います。

(取材:曽根真弘)

SAND LAND』は8月18日(金)全国東宝系にてロードショー

原作:鳥山 明
監督:横嶋俊久
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
主題歌:imase 「ユートピア」(Virgin Music / ユニバーサル ミュージック)

【声の出演】田村睦心/山路和弘/チョー/鶴岡聡/飛田展男/大塚明夫/茶風林/杉田智和/遊佐浩二/吉野裕行/こばたけまさふみ ほか

配給:東宝

公式サイト:https://sandland.jp/
公式X(旧Twitter):@sandland_pj_jp

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