『バカ塗りの娘』堀田真由 インタビュー「青森の魅力がぎゅっと詰まった作品」

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堀田真由

「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。

「暮らしの小説大賞」の第1回受賞作である髙森美由紀の「ジャパン・ディグニティ」が原作の映画『バカ塗りの娘』が9月1日より全国公開される。今作で素朴で不器用な23歳の美也子(みやこ)役を演じるのは、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など話題作への出演が続く堀田真由。青森県弘前市で津軽塗と真摯に向き合った堀田にお話を伺った。

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堀田真由
HOTTA MAYU

1998年生まれ、滋賀県出身。
2017年にNHK連続テレビ小説『わろてんか』で注目を集め、その後ドラマ『3年A組 ー今から皆さんは、人質ですー』、映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』といった話題作に出演。2019年には映画『プリズン13』で主演を務める。主な出演ドラマに『チア☆ダン』(18)、NHK連続テレビ小説『エール』(20)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』ドラマ 10『大奥』「風間公親−教場 0−」(23)。映画作品に『殺さない彼と死なない彼女』(19)、『ライアー×ライアー』『ハニーレモンソーダ』(21)などがある。現在、読売テレビ・日本テレビ系ドラマ『CODEー願いの代償ー』に出演中。

津軽塗は人生のよう

――今作で演じられた役について教えてください

堀田:青森県弘前市に住んでいる女の子で、とても内気で、自分がやりたいこともなかなか口にできなかった女の子。家族がバラバラになってしまいますが、それでも彼女がまた津軽塗をやりたいと思う気持ちとともに、家族が一つになるという作品で、そんな等身大の女の子を演じました。

――津軽塗に挑戦してみていかがでしたか?

堀田:津軽塗の工程って50近くあるので、なかなか自分では覚えることができなかったんですが、今回は職人の父(小林薫)の隣で作業を見ながら、見よう見まねで彼女もどんどん成長していくという役だったので、すごく楽しくって。まだ職人ではないのでそんなにうまくなってはいけなかったんですけれど、朝から夜まで同じ工房でやっていたらどんどん上達してしまって(笑)。ちょっとこれはダメだって思いました。でも本当に楽しかったです。

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©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

――日々同じことを繰り返す職人の生活についてはどのように感じましたか?

堀田こういった塗り方があって、次の工程がこうで、乾かす時間がこうでという決まったものはあるんですが、温度や湿度によっても形を変えます。自分がこういうものを作ろうと思って作り始めても、その通りにはいかないのが面白さだと、職人さんがおっしゃっていて。そこがとても素敵だなと、そして人生のようだなと思ったんですね。

自分でもこういう風になりたいというビジョンを描いていても、そうならないことってある中で、思い通りにいかなかったら、一度立ち止まってみたり、違う方向でやってみたり、前に進んだり、というところは津軽塗と一緒だな、ものづくりって人生のようだなと感じて。なので、もしかしたら単調な毎日ではないのかもしれないなと思います。

――津軽塗のどんなところに魅力を感じますか?

堀田:実際に自分でも塗るシーンがあったので、津軽塗に対して思い入れがあって。映画の中で出てくる「CASAICO」というお店でお箸を購入して、今もそれを家で使ってるんですね。この1膳のお箸でも、こんなにもたくさんの工程があるんだなとか、その裏側を知っているのですごく愛着も湧きますし、より一層食卓を楽しめるというか。津軽塗というのは、勝手な私のイメージだと、厳かなちゃんとした行事ごとでお正月に使うといったイメージが強かったのですが。こんなにも日常に溶け込むものが今たくさんあるんだなということを知れて良かったです。毎日使っています。

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堀田真由

実際の工房での撮影

――弘前での撮影はいかがでしたか?

堀田:3週間くらい弘前にずっといたので、周りに住んでいらっしゃる方々との触れ合いの中で生まれたことがとても多かったです。皆さん映画を撮っていることを知ってくださっていたので、差し入れで「朝採れました」ってリンゴを持ってきてくださったり、お家のシーンではスタジオではなく実際に建っているお家を使わせてもらっていたこともあり、気づけばいろんな人がたくさん集まっていて。どなたと喋っているんだろうと思っていたら弘前の地方の方だったり、お隣のおじちゃんが来てくれたり(笑)。

東京だとスタジオの中に籠もっていてチームのメンバーとしか会わないので、本当に美也子自身がここに住んでいて、みんなとの暮らしがあるというのを感じましたね。工房も実際に使われている場所で、小さな空間なんですけれど、そこで職人さんは何時間もずっと座って作業されるんだなと、ここからいろんなものが生まれるんだなというのを感じながら、弘前でやることに意味があるなと。青森で撮れてよかったなと思いました。

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堀田真由

――いい環境で役作りができたのですね

堀田:今回主人公を演じさせていただいて、青森にいる役ということだったので、皆さんとコミュニケーションを取っていけたらなと思って弘前に行ったんですけど、気づけばそこの生活に自分自身が慣れていって。本当に美也子のように、あまり言葉を話さなくなっていった。彼女が日常の中でも入ってくるというか、ずっと弘前に住んでいたような感覚だったので、一番美也子ちゃんと近いところにいて、気持ちを保ったままいられたような気がしています。すごくロケーションに助けられました。

――素敵な空気感が作品から感じられました

堀田:台本を読んでいると工程のシーンが何ページもあって、セリフもないですし、この工程が画として間延びしないのか少し不安に思っていたんです。ただ初号試写で観させていただいた時に、一番その工程のシーンが美しくて。ずっと観ていたいというか。セリフがないので静かなんですが、父と作業をしながら対話をしているような感じがして。本当にセリフなんていらないんだなと思いました。音も実際に作業している時の音だったり、漆の赤の配色の色もすごく美しくて、これは是非、大きなスクリーンで観てほしい作品だなって感じました。

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©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

美也子という役に寄り添う

――美也子という役はいかがでしたか?

堀田:私は地元滋賀に住んでいたとき、それこそ刺激を求めて東京に出たいと思ったタイプで。彼女は私とは逆で、生まれ育った場所でこれからも生きていくはずですし、その中で弘前の伝統工芸に関心を持ち続けていく彼女は自分とは異なる考え方だったので、そこは共感というよりは寄り添うという形で撮影していました。

――美也子が職人への道を絶対諦めないのはなぜだと感じましたか?

堀田:きっと家族の顔色を伺っていて言えなかったんだろうなと思っていて。私も兄がいるので、すごく周りの顔色は伺っていたんです。でも私も彼女と一緒で、やりたいことがどこか明確にあって。逆に多分いろんなことを見ているからこそ、自分の中で何かやりたいことというのが、言葉にはできないけれど、ふつふつと感じるものがあったんだろうなと思います。

伝統工芸のこういったお家でなくても、家業を継ぐというところでは、家族は反対するというのは聞いたりもします。そういう想いも娘のことを想ってのことだと分かるんですけれど、一番近くで見ているからこそ、一番魅力に気づいているのは美也子だと思うので。そこは家族の影響というのはすごくあると思うし、自分自身が「やっぱりここが居場所だ」って見つけたのかなと思います。

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本当の父と娘のように

――小林薫さんとは以前も共演されていますが、今作での共演はいかがでしたか?

堀田:ドラマで以前にご一緒させていただいた時から、お芝居に対しても、佇まいもかっこいい先輩だなと感じていたので、また映画という形でご一緒できることは素直に嬉しかったです。今回は何か会話をしたというよりは、父と娘の雰囲気といいますか。「昨日何食べた?」「何時に寝ました?」などたわいもないことだけど、本当の親子のような感じで、変に気を張って何か会話をしなければということもお互い一切なく、自然な状態で撮影に取り組んでいました。

――津軽塗を練習する際も小林さんと一緒だったのでしょうか?

堀田:そうですね。クランクインする前日にこの工房に足を運んで、まずは基本的な掃除や刷毛の洗い方や片付け方というところから学ばせていただいて。津軽弁は前から練習していたんですけれど、津軽塗に関しては、事前にすごく準備をして行ったというよりは、工程が多いので撮るときに学びながらやっていました。

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©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

周りを大切にする監督

――今回、鶴岡監督の作品に参加されていかがでしたか?

堀田:鶴岡監督は地域の方や、地元というものをすごく大切にされる方だなという風に感じて。弘前で撮影をしていた時も、監督も一緒に津軽塗のやり方を学んでくださったり。方言で悩んでいる時も一緒になって色々考えてくれたり、演者さんともすごくいい距離感で、役者が悩む部分に寄り添ってくださいました。

演技面では、自由に自然に私が思うままにやらせてくださって、その中で監督の思い描く美也子像というのを、私のやることに対して肯定をしたうえで伝えてくださるところが、ご一緒していてとてもやりやすかったです。撮影前や撮影中もそうですし、撮影が終わったあとも何度も青森に足を運ばれていると聞いて、本当に地元やお世話になった方々、周りをすごく大切にされる監督だなと思いました。

――現代社会と地方の問題・課題(伝統工芸・少子化・後継者問題)を作品から感じましたが、そのあたりは演じてみていかがでしたか?

堀田そうですね。伝統工芸を伝授していくということに向き合う作品でもありますし、もちろんそこもメッセージとして届けたい部分でもあるんですが。まずは津軽塗というものが、例えば赤だけでなくても色んな色があったり、柄が色々あったり、日常の中でも使えるいろんな多様性がある漆器という部分を知っていただけたらなと思いながら演じていました。

私も津軽塗という名前を知ってはいたんですが、知識がなかったので硬いイメージを持っていました。この作品を観ていただけたら、漆器に対する考え方が少し変わるのではないかなと思うので、まずは知っていただいて、それを踏まえてどう伝わるかというところが私自身は届けたい部分ですね。

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堀田真由

――これから津軽塗とはどのように関わっていきたいですか?

堀田:撮影していた時にけっこう若手の職人さんもいらっしゃって。若手の職人さんは洋風のものと津軽塗をかけ合わせたり、スプーンの持ち手のところが津軽塗だったり、アクセサリーで津軽塗を出していたり。私からするとすごく驚いたというか、江戸時代からある文化というものを大切にしながらも、形を変えて今と馴染むものを作っていくというのは、すごく素敵な考えだなと思って。なので、また挑戦したいなって想いもありますし、いろんな商品を迎えたいなというのもありますね。

――最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします

堀田:この作品は津軽塗がテーマの作品なので、津軽塗の魅力が全面的に出た作品ではありますが、青森の四季折々の風景だったり、青森の食だったり、作品に出てくださった弘前の皆さんの笑顔だったり、本当に青森の魅力がぎゅっと詰まった作品でもあります。津軽塗の工程がたくさんあるように、スタッフ・キャストの皆さん、そして支えてくださった地域の皆さんとともに、この作品も皆さんで一つ一つテイクを重ねていって、すごく丁寧に作った作品なので、たくさんの方に届いたらいいなと思います。

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堀田真由

(取材・写真:曽根真弘/ヘアメイク:小笹博美/スタイリスト:小林新(UM))

バカ塗りの娘』は9月1日(金)全国公開

監督:鶴岡慧子

出演:堀田真由/坂東龍汰 宮田俊哉 片岡礼子 酒向芳 松金よね子 篠井英介 鈴木正幸 ジョナゴールド 王林/木野花 坂本長利/小林薫 ほか

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

公式サイト:https://happinet-phantom.com/bakanuri-movie/
公式X(旧Twitter):@bakanuri_movie

 

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