“監督で観る” “俳優で観る”映画の楽しみ方。今注目の人やこれから注目すべき映画監督・俳優について紹介する【監督・俳優のすすめ】。Vol.14は緻密な脚本を大胆に映像化する天才監督ガイ・リッチー。
Keyword 1:緻密でハイスピードな犯罪アクション群像劇
子供の頃に観た『明日に向って撃て!』に影響を受けて映画監督を目指したというガイ・リッチー。CMやミュージック・ビデオの監督を手掛けるようになった彼は、マシュー・ヴォーンと97年に設立したスカ・フィルムで、初の長編映画『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)の脚本・監督に29歳で挑戦。賭けゲームで嵌められた4人組が強盗を企てた事から、タフな悪者たちが入り乱れて、お金と麻薬と銃の争奪戦が始まる。一寸先も読めないスリリングでスピーディな展開と、緻密な伏線がラストで繋がる面白さ。しかも悪者たちがみんな個性的で、ニヤリとさせるセリフの応酬でドラマはヒートアップ。映像の雰囲気やスピード感、音楽の使い方まで絶妙で、新たな天才の出現と映画ファンを興奮させ、イギリスはもちろん世界的にもヒットを記録した。本作に惚れ込んだブラッド・ピットは新作への出演を熱望し、格安の出演料で次の『スナッチ』(00)に出演。こちらも悪者たちが入り乱れる犯罪アクション群像劇で、放浪民の首領に扮するブラピ以外にも、ベニチオ・デル・トロやジェイソン・ステイサムらクセ者役者が揃ってダイヤモンドの争奪戦を繰り広げる。脇役だと思われたブラピが絡む大どんでん返しは、他の監督に真似できない鮮やかさで観る者を唸らせる。
その後、ガイと結婚したマドンナを主演に監督した『スウェプト・アウェイ』(02)は不評。そして次の『レイヤー・ケーキ』(04)はガイが監督を降板し、製作のマシュー・ヴォーンが監督もする事になり、これが監督デビュー作になった。その後マシューは『キック・アス』(10)の監督でその才能を開花させ、注目を浴びることになる。
一方ガイは、『ダイ・ハード』『マトリックス』シリーズのヒットメーカー、ジョエル・シルバーと組んで、不動産バブルに沸くイギリスの裏社会を舞台にした犯罪アクション『ロックンローラ』(08)を脚本・監督。ガイらしいスリリングな脚本と映像で英国ナンバー1ヒットを記録し、注目の監督へと返り咲いた。
Keyword 2:ガイ流“ホームズ”はアクション・アドベンチャー
次にガイがジョエル・シルバーと組んだのが大作『シャーロック・ホームズ』(09)。何度も映像化されたホームズだが、ファンであるガイはコナン・ドイルの原作を読み返して「ホームズが闘いの達人で、直感的に動くキャラクター」と確信し、原点に戻ったホームズ像を創り上げた。無精髭を生やして、犯罪関係の研究に没頭し、冒険好きで格闘技“バリツ”の使い手。一方ワトソンは、退役したばかりの軍医で戦場の英雄。身なりも雰囲気も堅苦しいが、格闘に強く女性にもてて賭け事好き。共に危険に惹かれ、2人が交わすユーモアや皮肉には、お互いの強い信頼が隠れている。『明日に向って撃て!』を手本にガイが描くのは、タフで憎まれ口を叩く男たちの友情。そんな愛すべきホームズ&ワトソンを、監督が即決したという名優ロバート・ダウニー・Jrとジュード・ロウが見事に演じきっている。
もちろんガイ流のスリリングな映像は健在で、格闘シーンも、柔道は黒帯、空手やブラジリアン柔術にも通じるガイならではの緊張感溢れる映像。特に格闘の達人ホームズが、敵を前にして闘い方を事前にイメージするスローモーション映像「ホームズ・ビジョン」は斬新。そして映像を使って一瞬で説明される見事な謎解き。さらにVFXを使った造船所や工場でのスペクタクル活劇が押し寄せる。ホームズは、ガイだから作り得た興奮のアクション・アドベンチャーに生まれ変わっている。
続編の『シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム』(11)はさらにスケールアップし、宿敵モリアーティ教授が世界大戦を起こそうとする陰謀に立ち向かう。舞台もイギリスからフランス、ドイツ、スイスとヨーロッパを巡る大冒険。列車で新婚旅行中のワトソン夫婦をマシンガンの嵐が襲う危機を、女装したホームズが救うアクションなどド派手な中に笑いが盛り込まれ、存分に楽しませてくれる。
Keyword 3:オシャレでカッコいいスパイ映画
『007 スペクター』の公開も控えてスパイ映画がブームの今年、ガイも新作『コードネーム U.N.C.L.E.』(15)の脚本・監督を手掛けた。冷戦時代に、犬猿の仲のCIAとKGBの敏腕スパイが手を組んで、世界危機に立ち向かうスタイリッシュなスパイ・アクション。ノリの軽い自信家でギャンブルが得意なCIAのナポレオン・ソロには『マン・オブ・スティール』でスーパーマン役のヘンリー・カヴィル。一方、堅物で格闘技に秀でたKGBエリートのイリヤ・クリヤキンには『ローン・レンジャー』のアーミー・ハマー。アメリカの60年代人気TVドラマ「0011 ナポレオン・ソロ」をベースに作られた作品だが、そこはガイ監督、洒落た音楽やファッションにもこだわっている。必要とあれば相手を殺す指令を受ける2人が、レトロな60年代ファッションを着こなして、痛快なアクションを繰り広げる。女性を口説くのも上手なソロの粋な会話や、2人の皮肉を交えたやり取りも面白く、正反対な性格ながら見事なスキルで仕事をこなしていく2人のバディ関係は最高だ。
実はガイの前に「ナポレオン・ソロ」映画化の監督にマシュー・ヴォーンが決まりかけた事があるという。結局マシューは別なスパイ映画『キングスマン』(15)を監督。しかもドラマ「0011 ナポレオン・ソロ」主演のロバート・ヴォーンはマシューの母と関係があり、ヴォーンの名前もその関係で付けられたのだから、何やら2人の因縁を感じさせる。
ガイの次回作は来年公開予定の歴史大作『円卓の騎士 キング・アーサー(原題)』。ジュード・ロウ、チャーリー・ハナムが出演する他、サッカー界のスター、ベッカムも出演予定。ガイ監督が作るアーサー王の物語が一体どのような内容になるのか、今から待ち遠しい。また人気の『シャーロック・ホームズ』シリーズ第3作も進行中と言われている。
ガイ・リッチー
1968年イギリス生まれ。『明日に向って撃て!』に影響を受けて映画監督を目指し、15歳で学校を辞め、スタジオの雑用係として働く。やがてCMやミュージック・ビデオを監督するようになる。95年の短編"The Hard Case"が認められ、マシュー・ボーンと設立したスカ・フィルムで98年に処女長編『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の監督・脚本を手掛け、続く『スナッチ』(00)も話題に。2000年にマドンナが彼の子供を産んだことでも話題になった。マドンナと結婚後、『スウェプト・アウェイ』(02)を監督し、PVやCMも撮るが後に離婚。『リボルバー』(05)、『ロックンローラ』(08)を監督後、『シャーロック・ホームズ』(09)、『シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム』(12)が世界的に大ヒット。2015年に、既に3児を授かっているジャッキー・エインズリーと結婚。
『コードネーム U.N.C.L.E.』
11月14日(土)全国ロードショー
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/codename-uncle/
【監督】ガイ・リッチー
【出演】ヘンリー・カビル、アーミー・ハマー、アリシア・ヴィキャンデル、エリザベス・デビッキ、ジャレッド・ハリス、ヒュー・グラント
(2015/アメリカ/116分)
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