アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた映画『オマールの壁』初日舞台挨拶が昨日16日、都内・角川シネマ新宿にて行われた。この日、本作が初主演作となるアダム・バクリが来日し、舞台挨拶に出席した。
長く占領状態が続くパレスチナで、監視塔からの銃弾を避けながら分離壁をよじのぼっては、壁の向こう側に住む恋人ナディアのもとに通っていたパン職人・オマール。人権も自由もない毎日を変えようと、仲間と共に奮闘するさまをサスペンスフルに描くヒューマンドラマ。
パレスチナのパン職人・オマールを演じたバクリは「この作品は僕を変えた。出演できた経験はこれからも残ると思う。今は観客としてこの作品を観ることができる」と感慨深げに回想。「初めてスクリーンで作品を観たときは緊張していて、自分の演技しかみていなかったけれど、とてもエモーショナルな体験だった。2回目にカンヌ国際映画祭で観たときも客席で父(俳優のムハンマド・バクリ)と兄が見ていたので、震えていた。感想は直接聞かなかったけれど、観終わった後の彼らの感動した目を見て、合格点をもらえたと確信した」と自信をのぞかせた。
イスラエル出身のパレスチナ人で、現在はニューヨークを拠点に活動するバクリ。占領下のパレスチナ市民の人々の暮らしを描く本作の役作りの難しさについて「大きな責任を感じた。主人公のオマールが経験したことを忠実に表現することが大切で、自分が経験しているように表現することが大事だと思った。この映画自体が、そしてこの壁自体がパレスチナの占領の暴力を象徴している」と撮影時の心情を吐露。パレスチナを分断する分離壁を前にしての撮影についても、「それまでも壁は遠くから見たことがあったけれど、映画を撮影したときにはじめて近くでみて、パレスチナの葛藤を象徴しているようで心を揺さぶられた。太陽が隠れてしまうほどの大きさに圧倒された」と強烈なインスピレーションを受けたことを明かした。
また、分離壁を乗り越えたり、追手から逃れようと街中を駆けるシーンなどバクリのアクション・シーンについて、同席した京都大学大学院教授/現代アラブ文学の岡真理氏が絶賛すると、「次は『スパイダーマン』とか『スーパーマン』いいですね(笑)」とアクション俳優への意欲ものぞかせ、「いろんな役に挑戦してみたいのでオープンですよ。今回もトレーナーと一緒にトレーニングしましたが、それでも危険なシーンはプロデューサーはやらせてもらえなかった。壁を登るシーンも準備していたけれど、途中までしか登れず、あとはスタントに任せなければいけなかった。あれはサーカスの団員しかできないですね」と笑顔で答えた。
バクリはトークイベントの最後に「日本の方々とパレスチナの人々は親切で暖かくて寛容、という共通点がある」と目を輝かせていた。
映画 『オマールの壁』 は角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほか全国順次公開中
【CREDIT】
監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ ほか
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/omar/