ニモが!ドリーが!マーリンが!13年ぶりに帰ってくる!!
1986年より『ジュラシック・パーク』や『スター・ウォーズ』シリーズのVFXを手がけたことで有名なILMのコンピュータ関連部門を前身として、スティーブ・ジョブズやジョン・ラセターらが設立したピクサー・アニメーション・スタジオ。初となる長編アニメーションの『トイ・ストーリー』を1995年に発表して以来、『モンスターズ・インク』や『インサイド・ヘッド』など多くの人に愛され続ける作品を世に送り出してきた。
その作品の中で、2003年に公開され、当時100億円を超えるメガヒットを記録した『ファインディング・ニモ』の13年ぶりの続編『ファインディング・ドリー』が、いよいよ7月16日に日本公開を迎える。前作でマーリンと共にニモを探す大冒険を繰り広げた、忘れん坊のドリーが今作の主人公。突然思い出した家族を探すため、マーリンとニモの親子たちと新たな冒険の旅へ出るさまを描く。
全米では一足先に先月6月14日より公開となり、最初の週末3日間でアニメーション映画史上ナンバーワンのオープニング興収1億3,506万273ドル(約148億5,663万30円)を稼ぎ出す破格のスタートとなった。同時期に『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』や『ターザン:REBORN』といった話題作も公開されたが、2週目・3週目もナンバーワンを維持し続け、北米での興行収入は現在4億2,258万243ドル(約464億8,382万6,73011円)。この時点で既に『トイ・ストーリー3』を超えて、ピクサー最大のヒットとなっている(Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)。
前作『ファインディング・ニモ』の魅力とは
『ファインディング・ドリー』を観る前に前作の魅力をピックアップしてみよう。まず「観客もマーリンと旅をしたような気分になれること」である。ニモの父である主人公マーリンは、ある事件がきっかけで極度の心配性になり、ニモが片方のヒレが小さく生まれたことも相まって、過保護になってしまう。遊び盛りのニモがマーリンに反抗して危険を冒した結果、人間に連れ去られてしまい、ニモを連れ戻す旅が始まるのである。
旅の道中でマーリンは、ディズニー・シーの人気アトラクション「タートル・トーク」でお馴染み、ウミガメのクラッシュと出会う。クラッシュは息子スクアートが海流から飛び出してしまった際、マーリンが助けに行こうとする一方で、「スクアートのやることを見てみよう」と言う。するとスクアートは自力で海流に戻ってくるのである。観客はマーリンの視点から観ることで、「子供を信じること」が大切であり、過保護なことは時として子供の可能性を妨げてしまうことを学ぶのである。ピクサーらしいのは、マーリンがモンスター・ペアレントなどとしてではなく、過去の事件のせいで過保護にならざるを得なかった、愛すべき父親として描かれている点である。この点には脚本を描く際にもこだわったそうで、マーリンが次第に父親として成長する姿、そして一つ一つの出会いから何を学んでいくのかという点に注目しながら観てみるのも興味深い。
もう一つの魅力は、ピクサー作品全般に共通する点でもある「“人間的に”描かれたキャラクターたち」である。「魚たちの世界の物語なのに人間的って?」と思われるかもしれないが、分かりやすく言うと「こういう人いるよなー」と思ってしまうことである。例えば、サメのイメージ向上のため、魚ではなく海藻を食べることを貫こうとするブルース、アンカー、チャムのサメ3匹が居る。サメがイメージ向上活動に取り組んでいるというのも面白いが、ブルースが初めて出会ったマーリン、ドリーに肩ならぬ「ヒレ」を回して連れて行く様子などは、堂に入り過ぎていて、もはや人間のキャラクターかと見紛うほどである。ドリーもセリフの中で「なんで男って道聞くの嫌いなの?」と真理を突くシーンがある。これらは、ピクサーのクリエイターたちの類稀な人間観察の賜物である。そうした描写がキャラクターたちや舞台を身近に感じる鍵となり、現実味のある物語を作り上げるのである。
愛され続けるファミリー映画 - ピクサー映画にある共通のテーマ
世界中で愛されるピクサー映画だが、これほどまでに受け入れられる理由とはなんなのだろうか。『ファインディング・ニモ』の他にも、『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』といった多くの作品に共通する項目がある。それは『ファインディング・ニモ』であればニモ、『トイ・ストーリー』であればアンディ、『モンスターズ・インク』ではブーという、主人公の心の支えとなる子供のキャラクターの存在である。作品の中で主人公たちは、子供たちを守ったり、時に無垢な行動に感化させられたりする。
1998年に『トイ・ストーリー』に続くピクサーの長編作品第2弾として公開された『バグズ・ライフ』にも、ドットという小さなアリの姫が登場する。自分の姉や周りの大人たちが、主人公フリックを信じたかと思えば手の平を返したように接したりと、態度が二転三転する中、ドットだけは一貫してフリックを信じ続ける。子供たちが観ると、フルCGで描かれた虫たちの世界に心躍らされることはもちろん、大人が観ると、ドット以外のキャラクターたちのことも理解でき、その上で「なんて良い子なんだろう!」とドットの純粋さに心打たれるのではではないだろうか。このように、小さなお子さんは登場する子供キャラクターの視点で、大人はそれを見守るキャラクターの視点で鑑賞できることが、ピクサー映画の醍醐味である。これこそが、ピクサー映画が世界中でファミリー映画として愛され続ける大きな理由ではないだろうか。小さな頃に親と観に行って楽しかった作品というのは、子供にとって大切な思い出の一部となる。まさに『インサイド・ヘッド』の黄色い「思い出ボール」となるようなイメージだ。
最新作『ファインディング・ドリー』への期待
『ファインディング・ドリー』に話を戻そう。今回は13年ぶりの新作ということで、まずCGの技術は格段にアップしている。前作の試写の際、ピクサーのCEOだったスティーブ・ジョブズは海藻の動きが不自然だと指摘したが、エンジニアは「現在の技術で海藻の動きを自然にしようとすると、映画の公開が1年遅れるか、巨額の制作費がかかる」と答えたそうだ。『モンスターズ・インク』の公開時も、サリーをはじめとしたモンスターの毛の細かさなどが話題となったが、前回成し遂げられなかった海藻の動きを含め、より進化したリアルな海の世界を描いていることが期待される。
また、『トイ・ストーリー』などピクサー作品の多くで脚本を手がけ、監督・脚本を担当した『ファインディング・ニモ』と『ウォーリー』で2度のアカデミー賞長編アニメ映画賞を獲得したアンドリュー・スタントンが続投する。ドリーの子供時代のかわいさも話題沸騰の本作だが、スタントン監督がどのような物語を紡ぐのかにも期待が高まる。
映画『ファインディング・ドリー』は7月16日(土)全国公開