【特集】映画『少女』人間の奥底に眠る“闇”をあぶり出す秀才・湊かなえ

処女作にあたる「告白」をはじめ、「贖罪」「高校入試」「北のカナリアたち」「夜行観覧車」「白ゆき姫殺人事件」と、次々と映像化されるほどの長編ミステリーを世に送り出している人気作家・湊かなえ。「告白」に次ぐ第2作目であり、累計100万部突破のベストセラー小説「少女」が『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』で知られる三島有紀子監督の手で映画化。

少女
(C)2016「少女」製作委員会

“死”にまつわる禁断の世界を描いた今作は、同級生のある“告白”から「人が死ぬ瞬間を見てみたい」という願望にとらわれた、2人の女子高生の衝撃的な夏休みを綴る。今回はそんなミステリー界の女王、湊かなえの魅力に迫っていく。

“イヤミス”の生みの親 湊かなえ


ミステリー小説界に“イヤミス”(読了後に嫌な気分になるミステリー)という新しいジャンルを生み出した湊かなえ。かつて専業主婦であった彼女が「告白」で小説家デビューしてから、あらゆる作品が映画やドラマなどで数多く映像化されてきた。

少女

湊かなえは2007年に「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。2008年には「聖職者」から始まる小説「告白」を出版し小説家として本格デビューを果たすと、2009年に同作が第6回本屋大賞を受賞。デビュー作の受賞は例がなく、史上初の出来事であった。彼女は作品を書き始める前に、作中の登場人物の脇役にいたるまで全員分の履歴書を書くという。それにより登場人物がどういう人間であるかを突き詰め、その結果である作品のラストは、読者によって様々な感情を呼び起こされ、普通とは違う余韻を強く残す。

インタビューなどで優し気におっとりと喋る彼女から生み出されるとは思えない良質なミステリーと、容赦のない肉薄した人物描写、そして類まれなラスト。これらの魅力は小説ではもちろんのこと、動く映像として見てみたいと思わされるものが多い。今回はこれまで映画化された3本と、それらの原作を見事に映像化した映画監督との化学反応を合わせて紹介したい。

「告白」×中島哲也監督


終業式の教室で中学教師を辞職することを生徒たちに話す女性教師。その話の中で亡くなった愛娘の死因を「このクラスの生徒に殺されたからです。」と衝撃の発言をしてこの話は始まる。記念すべき湊かなえデビュー作「告白」。全編モノローグで語られており、語る当事者が変わっていくことにより一連の出来事の真相へと近づいていく。

告白
(C)2010「告白」製作委員会

中島哲也はCMディレクターの経歴を得た映画監督である。そのためか鮮やかな色彩の映像美と、様々なカメラ技法を駆使した印象的な場面作りが特徴で、観客の脳裏に鮮明に作中の場面を残させる。代表作に『嫌われ松子の一生』(2006年)や『パコと魔法の絵本』(2008年)などがあり、この2作品はどちらも日本アカデミー賞で優秀監督賞を受賞した。

告白』にもそれまでの色鮮やかさは控えつつも、小説の世界観に沿った灰色がかった空気感と、相反するように抜けるような青空が印象的だった。そして原作でも衝撃的だった牛乳にあるモノが混入されているシーンは、映画で観た方にも戦慄が走ったことではないだろうか。『告白』は評価も高く、第34回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞を含む4つ最優秀賞を受賞。この他にも国内外で多数の賞を受賞した。

また、小説の文庫本に中島監督の映画化にあたってのインタビューが載っている。そこには「作中の彼らが何を考えていたかわからないところがおもしろい。彼らが真実を話している保証はどこにもない。」と語っている。

「白ゆき姫殺人事件」×中村義洋監督


この作品は化粧品会社の女性社員が殺害され、その犯人と思わしき人物を友人から聞くことになったフリー記者が独自に調査を始めることから始まる。関係者に話を聞いていくうちに事件の真相に辿り着くという目的より、人権を無視した自分本位な目的が目立っていく。また現代社会におけるSNSやマスコミの力がいかに大きく、そして真実が歪められている可能性についても切り込んでいる。

白ゆき姫殺人事件
(C)2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C)湊かなえ/集英社

中村義洋は、伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006年)『ゴールデンスランバー』(2009年)や、海堂尊の医療ミステリーである東城大学シリーズの『チーム・バチスタの栄光』(2008年)『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009年)など、これまで多くの傑作ミステリー小説を映画化している。原作の緻密に計算された謎解きを映画として巧みに昇華しており、本作でもその手腕は頷ける。また独自の解釈として、原作にはないフリー記者が自分が容疑者として誤って追いつめてきた女性に会っても本人とわからず話しかけるシーンがある。皮肉を上塗りさせるこの場面が特に映画だからこそ際立つ。

「北のカナリアたち」×阪本順治監督


北のカナリアたち』は、湊かなえ作品「往復書簡」の中の「二十年後の宿題」を元に着想を得て作られた作品だ。そのため設定は大きく変わっている。まず原作では20年前に起こったある事件がきっかけで小学生の教え子の元を去った1人の女性教師が、定年後に体を悪くし、事件に関わった6人の元教え子に会いに行って近況を聞くよう別の元教え子に頼むことから始まる。全てのやりとりも手紙で行われている。

北のカナリアたち
(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会

映画では元教え子の1人が殺人事件を起こし、そこから定年した女性教師が6人に会いに行き20年の時を得てあの時の事件に向き合うことになる。女性教師と事件に関わりの持つ6人の元教え子の幼いころの絆がコーラスで表され、物語に深みを与えている。阪本順治は多数の映画を制作してきたが、原田芳雄の遺作となった『大鹿村騒動記』(2011年)や『団地』(2015年)など、人情に厚く、ストーリーの骨太さを持つ映画作品も多く手掛けてきた。本作もそれにもれず、主演に吉永小百合を迎え、森山未來や満島ひかりなど若手実力派俳優と共に濃密なミステリー作品に仕上げた。

北のカナリアたち』は第36回日本アカデミー賞で12個もの優秀賞を受賞。そのうち最優秀として作品の要である音楽や、北海道の雄大で時に厳しい大自然の中で行われた撮影などが高く評価され、最優秀音楽賞や最優秀撮影賞など3つの最優秀を受賞している。

「少女」×三島有紀子監督 新たな化学反応


デビュー作「告白」の次に世に出された「少女」。親友の死体を見てしまったという転校生の話を聞き、それなら私は親友のように身近な人物の「死ぬ瞬間を見てみたい。」と思った少女は、まさにその立場の友人の少女の顔を見つめる。危うい少女たちのすれ違いや、純粋な想いが交差する極上のミステリーである。

少女
(C)2016「少女」製作委員会

三島有紀子は『しあわせのパン』(2012年)、『ぶどうのなみだ』(2014年)でどちらもオリジナル脚本で映画を制作し、同作の小説も出している。ほとんど音楽のない生活音や衣擦れの音。美術により細部まで作り込まれた三島監督の世界観は、映画の舞台の美術や家具ひとつとっても品が満ちている。

独特の世界を持つ三島監督と湊かなえの世界が融合するとき、どのような化学反応が起こるのだろうか。学校を舞台とした「少女」の中でも三島の世界観を含みながら、これまでにない少女たちの繊細で残酷な美しいミステリーを、新たな境地で表現していることだろう。

映画『少女』は全国公開中

【CREDIT】
原作:湊かなえ『少女』(双葉文庫)
監督:三島有紀子
出演:本田翼、山本美月、真剣佑 / 稲垣吾郎
配給・宣伝:東映 公式サイト:http://www.shoujo.jp

©2016「少女」製作委員会

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