日本で異例の大ヒットを記録した映画『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーンが再びタッグを組んだ最新作『PK ピーケイ』が10月29日より全国公開される。
本作は、PK(酔っぱらい)と呼ばれる世間知らずの男が、“神様って誰だ?”という疑問から世間を巻き込む大論争を起こすヒューマン・ドラマ。宗教問題を取り上げながらも、ユーモアの中に感動を詰め込み、心に何かを植え付けるメッセージを込めたヒラニ監督。
──映画公開前の今のお気持ちを聞かせていただけますか?
ヒラニ監督:自分で脚本を考えて、それから撮影して編集もするので、同じシーンを編集の段階で200回くらい観ている。脚本も何百回と描き直していて、完成した映画を観ると、今まで泣いたり笑ったりしていたところで、それができなくなってしまった。だから外に出す(公開される)ことに緊張しているんです。自分が信頼している人たちに判断を仰ぐしかない状態になる。公開直前は毎回「どうしよう…最悪な作品を作ってしまった」という不安に駆られるんです。
──いま日本の映画界では、漫画や小説の映画化が多様化してきています。近年のインド映画事情に何か変動はありましたか?
ヒラニ監督:現在のインドの映画事情に関して言うと、100年の歴史の中で一番良い時期だと思います。いろんな客層に響く映画が作られているんです。これまではラブストーリーやアクションがメインで、踊ったり歌ったりするシーンが多かった。年間1000本が作られていく中で、そういうシーンがないスリラーやファンタジー、人間ドラマなど本当に多くの映画が作られています。それと同時に、しっかりそういう映画が受け入れられている。劇場自体も増えていて、マーケットも伸びています。ハリウッド映画よりインド映画の方が成績は上なんです。いま、映画を観るにしても、作るにしてもとっても良い時期だと思います。
──『きっと、うまくいく』の世界的ヒットも、その過程にあったということでしょうか?
ヒラニ監督:『きっと、うまくいく』に関しては、学生生活を描いていて、「夢を追え、それを楽しめ」という誰もが観ていて励まされる映画。万人に受け入れられやすいテーマなので、ある程度ヒットするだろうと予測はしていました。
ヒラニ監督:今回の『PK ピーケイ』に関しては、神の存在自体を疑問視しているので、万人が受け入れにくいテーマだった。神を信じている人に対して、そういう疑問を投げかけているので。それが受け入れられたということは、客層自体がより多様化していること、客層の性質が成熟きているのだと思います。
──『きっと、うまくいく』に続き主演に抜擢したアーミル・カーンさんの魅力を教えてください。
ヒラニ監督:本当に素晴らしい役者。今回は脚本を書いている段階から、アーミルを主人公として思い描いていました。理由の一つは、まず子供っぽい純粋なルックス。あと脱ぐシーンがあるのですが、やはり鍛えられた肉体が欲しかった。か弱い人だと、やはり様にならないので(笑)。もう一つの理由は、この映画のコンセプトに彼自身が共感してくれたこと。アーミルは神論者なのですが、信仰心が強い役者だと意見が食い違う部分があったと思うので、すごくやりずらかったと思います。彼は脚本をもらった時点で役作りに入り、準備をしてきてくれる。脚本についてたまに意見は言うけれども、邪魔にならないような話で、映画というものをすごく深く理解してくれている。とても良い役者です。
──この映画に込めたメッセージがいくつかあるかと思うのですが、その一つを教えていただけますか?
ヒラニ監督:まず、宗教が世界に与えた最も大きなダメージは、人々を殺してきたこと。これまで宗教関連の戦争で亡くなった人数は、病気で亡くなった人数を大きく上回っています。最近のイスラム国(IS)もそうですが、「神という名のもとに戦争をしている」「自分の神があなたの神より優れている」という信念から生まれる戦争によって、多くの人々が命を失っているわけです。宗教というのは人を殺すためにあるものではなく、平和をもたらすためにあるもの。宗教の教えでも、人を殺すことは何もない。ただ、人間がいつのまにか「神を守らなければいけない」という風に思い始めたんです。自分たちが神より上に立っていると勘違いしてきていることから、こういう争い事が起きてしまっている。
──最後に公開を待つ日本のファンへ見どころやメッセージをお願いします。
ヒラニ監督:見どころはすべてです!映画をいつも作る時、特にターゲットを定めていません。「誰のために作るのか?」と聞かれたら、いつも「自分のために作る」と答えるようにしています。自分が信じているものを作品に反映させて作り、それを他の人も気に入ってくれるといいなという感じです。信仰心の強いインドでは受け入れられると予測していたのですが、あまり信仰心のない中国でも大ヒットしたんです。誰に響くか本当にわからない。とにかく、この面白いストーリーで人々を楽しませることができたらいいなと思っています。クリスマスやお正月など、いろんな宗教を受け入れる日本で公開するのは楽しみ。宗教的な争いもなく、世界の人に見習ってもらいたい日本で公開できるのは、どういう反応が返ってくるのが興味深いです。
『きっと、うまくいく』では、青春映画でありながらも謎解きのような緻密なストーリー展開、そして社会問題にも鋭くメスを入れたヒラニ監督。本作では、主演に再びカーンを迎え、自分の人生に迷うすべての現代人のターニングポイントになる、笑いも涙も詰まった珠玉のドラマに仕上げている。
映画『PK ピーケイ』は10月29日より全国公開
【CREDIT】
監督:ラージクマール・ヒラニ
出演:アーミル・カーン、アヌシュカ・シャルマ、スシャント・シン・ラージプート
公式HP:http://pk-movie.jp
提供:日活、ハピネット 配給・宣伝:REGENTS
© RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED