『散歩する侵略者』引っさげ、黒沢清が釜山国際映画祭へ「釜山はいつでも驚き、感動する」

映画『散歩する侵略者』が韓国・釜山で開催中の「第22回釜山国際映画祭」に正式出品され、監督の黒沢清が、公式上映後の舞台挨拶に登壇した。

散歩する侵略者

公式上映には、劇場を満席に埋め尽くす多くのファンが集まり、 黒沢監督が上映後のティーチインに登場すると大きな拍手が巻き起こった。黒沢監督から「本日はご覧になっていただいてありがとうございました。釜山映画祭には毎年のように来ているのですが、季節の変わり目でこんなに寒いのは初めて経験しました。海岸に誰もいない釜山は初めてです。この映画でもだんだん人がいなくなって、釜山の街ほどそれが劇的に描けていたかはわかりませんが、楽しんでいただけたのなら嬉しいです」と挨拶し、イベントの幕が開けた。

質疑応答が始まると熱心なファンたちからたくさんの手が上がり、「なぜこの題材を映像化したのか」を問われると、黒沢監督は「作品のテーマ自体は宇宙人の侵略というハリウッド映画でもよくある大変お金がかかるような題材です。ただこの作品では同じテーマを扱いながらも、軍隊、政治家、科学者は一切出てこなくて、基本的には夫婦の愛の物語を中心として世界がだんだんと変化、変貌していく様を描いている、そこが魅力的だなと思いました。ハリウッドのようにお金がなくても、特別なものすごい技術を使わなくても、基本的にはこういう日常を描くだけで、非常に大きなテーマにチャレンジできるというところが、何と言っても、この原作の元になったアイディアの素晴らしいところだと思って、すぐに映画化したいと思いました」と語った。

また、黒沢監督にホラーのイメージを求める観客からの質問には「ホラーを楽しみにしていただいたお客さん、どうもすみませんでした(笑)でも、僕はホラー映画ばかり撮っているわけではなくて。過去の作品もホラー映画であっても、物語の中心は夫婦の関係であったり、若い男女の愛がどのように成立するのか、というのが物語の中心だったりします。今回はSFというジャンルですが、SFというのは最初に現実と少し違う設定があるだけで、その中の物語はなんでもありなんです。なので、今回は割と素直に夫婦の物語を描くことができたというのが実感です」と様々なジャンルを撮ってきた黒沢監督ならではの実感を込めて答えた。

散歩する侵略者

映画と原作との違いを問われると、「大きく言うと夫婦の物語はかなり原作に近く、もう1つジャーナリストと若い2人の3人の描写は原作とかなり違っています。原作はもともと舞台の戯曲だったので、 ほとんど場所が一箇所、夫婦の場合は夫婦の家、もう一方の 3 人も ほとんど家の近所の設定だったんですけれども、そこは映画なので ジャーナリストと若い二人はもう少しあちこち動き回って、どんど ん移動して、結構大変な目に遭うということにしようと考えました」 と語った。

本作の中で描かれる「概念を奪われた状態はどのように表現しようと考えたのか」を問われると「家族や仕事など様々な概念が奪われる、という設定をどこまで描写してどういうドラマとして表現するかはかなり悩みました。その概念がなくなってしまうというのがどういう状態なのか色々と想像したのですが、それをリアルに思い描くことはなかなか難しかったです。ただ、1つだけ考えたのは「家族」や「仕事」などの概念はとても重要ですが、人間が小さな頃から成長していくに従って覚える、学ぶ概念で、それを奪われるということは、それを知らなかった子供に戻るということだと。そして多くの概念を奪われるとなぜか少し幸せそうになるというのは、それを知らなかった子供に戻る、つまり縛られていた概念から自由になるという狙いで描きました」と話した。

散歩する侵略者

本作の世界観の中で日本ならではの描写について問われると、「そういうものは僕が努力しなくても、俳優や、撮っている町、東京ではないどこでもないような少し地方の都市、町の有り様や俳優の演技で嫌でも日本的ななにかが映っているので、僕はそれ以上、日本的な何かを出そうとは思っていません。アメリカ映画のようにしようと思っていませんが、僕は世界中のどこでも通用する『映画』であろう、『映画』にしようと思って作っただけです」と真摯に答えた。

会場にはまだ質問を求める多くの手が挙がっていたが、残念ながら時間切れとなり黒沢監督は「釜山映画祭ではいつも驚き、感激するのですが、質問の質がものすごく高くて本当に映画をしっかりと観て いただいているのが伝わって来て本当に嬉しいです。もっともっと手を上げてくださった皆さんの質問にもお応えしたかったのですが、すみません。また来年も来たいと思っています。また来年皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。ありがとうございました」と挨拶。 ティーチイン後はファンたちが、サインや写真を求めて殺到し、黒沢監督はその1人1人に丁寧に応え、大盛り上がりのイベントを終えた。

上映時間はこちら

映画『散歩する侵略者』は全国公開中

【CREDIT】
監督:黒沢清
原作:前川知大「散歩する侵略者」
出演:長澤まさみ 松田龍平 高杉真宙 恒松祐里 長谷川博己
製作:『散歩する侵略者』製作委員会
配給:松竹 日活

©2017『散歩する侵略者』製作委員会

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