映画『彼女がその名を知らない鳥たち』の初日舞台挨拶が28日、都内・新宿バルト9にて行われ、蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、監督の白石和彌が登壇した。
満員の観客に大きな拍手で迎えられ、蒼井は「少しでも楽しんでいただければと思います」と笑顔を見せた。また、阿部が挨拶しようと話し始めると、マイクが切れるハプニングが。すぐに対応したのは隣に立っていた竹野内。スマートに自身のマイクを差し出し、観客からは「優しい!」との声が。阿部は「そうなんです、竹野内さんって優しんですよ!」と笑いを誘いつつ、「宜しくお願いします」と挨拶を無事終えた。
阿部、松坂、竹野内が演じる三種三様な男性と関係を持つ主人公・十和子を演じた蒼井は「十和子っていう女性はすごく自分勝手のように見えて、実は主体性の無い女性なんじゃないかなっていうのがあったので。それぞれに対して違う面を見ていただけたらいいなと思いながらやっていました」と振り返り、「(共演シーンがそれぞれ)ロケ地が全然違うので阿部さんとのシーンは本当に汚いところ(笑)」と続け、会場を沸かせた。
さらに、松坂とはキラキラしたところ、竹野内とは白く夢みたいな場所で撮影していたと語った蒼井は「3本の作品を撮ってるような感覚でした」と述懐した。
オール関西ロケが行われた本作。関西弁の指導が厳しかったと語る阿部は「鬼のような方言指導の人がいて(笑)苦労しましたね。ただ大阪でしか撮れない絵が撮れていると思うので、そこはよかったです。いい風景のシーンもあって、僕たちは本当にきったない所に住んでましたからね(笑)知らなかった。あんなところで、あんな夢見たいなシーンがあったとは」と蒼井と笑いあった。
ジャパンプレミアで自身が演じた役・水島に「共感できたら終わり」と語っていた松坂は「水島は後半は憎悪が湧くぐらい薄いんですよ。その分、前半との落差が出ればいいなと思って、前半はいっぱい喋りました」と振り返り、「本当に進んでいくと薄い感じがわかっていくんで(笑)ペラペラぺラ男です」と苦笑いを見せた。
同じく最低な男・黒崎を演じた竹野内。実は初めての役どころだったらしく「どうして私に声をかけてくれたのかな。純粋に『大丈夫かな?』って。監督にイメージの相談をしたら『とにかく最低で最高だったら、ただそれでいいです』って言っていただいて」と語り、白石監督は「僕も割と今までの映画でクズをいっぱい撮って来てるんですけど、今回の黒崎は擁護のしようがないクズなんですね。とはいえ、台本では描ききれていない黒崎の人生が持つ悲しみや孤独さを描ききれないからこそ、竹野内さんにやって頂ければ、存在として色んなことを表現できると思いました」とキャスティングの意図を述べた。
撮影中は「モニターを見ながらよく笑っていた」と指摘された白石監督は、「それぞれのキャラクターが重大な危機に陥った時とか、大体想像できる中で見ているんですけど、これだけの俳優の方達となると斜め上をいく芝居をしてくれるんですね。そういうの見ると、良いものが撮れているという実感の元、笑えて笑えて仕方ないんです」と映画を撮っている上での喜びの瞬間を語った。
また、本作のテーマ”究極の愛”にちなみ、「究極の〇〇」について聞かれた蒼井は「究極の寒がりです」と打ち明けた。本作の撮影が昨年の今頃であったことから「このくらいの時期がちょうどギリギリです。近年の私のスケジュールを考えても真冬は舞台をやっている。真冬のロケをなんとか…」と、寒いという感情が一番嫌いだと話した。
阿部は「究極の選択ですね。お芝居を始めたことが本当によかった」と話し、「芝居はじめる前はトラックの運転手で、僕、陣治みたいだったんです。もっと汚かったんです。金髪で髭生やして。それが、これ見てください」と、着用しているスタイリッシュなスーツを指すと会場からは大きな拍手が送られた。「芝居やっててよかった。ただ陣治の格好は心地よかったです(笑)」と懐かしそうに微笑んだ。
松坂は「カンボジアで撮影してた時に、現地の人にアンコールワットの朝焼けを勧められて、1人で行ったら、現地の5人くらいの男の人がナイフ持って『わー!』って」と究極に怖かった思い出を話すと、観客もキャスト陣も呆気に取られた。「これはやばいと思って、アンコールワットの中に逃げ込んで、観光客の人に助けてもらいました」と驚きの経験を打ち明けた。「ただカンボジアはとてもいいところです」と笑顔をみせ、会場を和ませた。
竹野内は「役者やっていい時も悪い時もありましたけど、白石さん監督の現場で初めてお会いして、とにかく映画に対する情熱が本当に深い人だなって。そういう監督の現場にみんなで参加できた頃が本当に嬉しいなって。そういうのが栄養剤というか、今後の糧になりますね。究極の映画に対する白石愛を感じました」と語り、白石監督も「ありがとうございます」と照れ笑いを見せた。
そんな白石監督は「この映画を撮っていて『究極の熱演ってこういうことか』と感じたのが、そのシーンもゲラゲラ笑ったんですけど、桃李君の最終カット」と話すと、松坂は「僕ですか?」と驚きの表情をみせ、他のキャスト陣からは笑い声が。
阿部が「熱演でしたよね!やってんなと思いましたもん」とニヤついた表情で話すと、さらにキャスト陣からの笑いは大きくなった。松坂は「勿論みなさんのお芝居があった上で」と返したものの、阿部に「早くはけてくれって思ってたよ。なかなか行かないんだもん」と言われ「そういう指示があったんです!」と松坂のツッコミと共に会場からは笑いが上がった。
最後に阿部は「余韻に浸れる色んなこと話し合える映画で『愛ってなんだろう?』『恋愛ってなんだろう?』と色々考えさせられる映画です。いい映画に出させていただいて僕はマイクを持って立っていて、すごいなって。だって竹野内様って書いてあるマイクなんですよ(笑)すごく嬉しいですよ」と笑いを誘った。
蒼井は「今日から皆さんと共有できることがとても嬉しいです。それと同時にあまりしんみりしてほしくはないとご本人も思うんですけど、中嶋しゅうさんって今年亡くなられた俳優さんの最後の映像作品になっています。私に芝居の面白さを教えてくださった方で、ずっと演劇で共演させていただいて、今回監督にお話して映像での共演の夢がかないました。びっくりするほど気持ちの悪い役ですけど(笑)その辺も愛らしい方なんです。そんなしゅうさんの姿と松坂さんの熱演を皆さんの目に焼き付けていただけたらなと思います。本当にありがとうございました」と力強く語り、会場は1番の大きな拍手に包まれ、舞台挨拶は幕を下ろした。
映画『彼女がその名を知らない鳥たち』は全国公開中
【CREDIT】
原作:『彼女がその名を知らない鳥たち』沼田まほかる著(幻冬舎文庫・刊)
出演:蒼井優 阿部サダヲ
松坂桃李/村川絵梨 赤堀雅秋 赤澤ムック・中嶋しゅう/竹野内豊
監督:白石和彌
制作:C&I 配給:クロックワークス
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会