映画『いのちの停車場』公開記念舞台挨拶が22日、都内・丸の内TOEIにて行われ、吉永小百合、松坂桃李、広瀬すず、西田敏行、南野陽子、柳葉敏郎、みなみらんぼう、泉谷しげる、田中泯、南杏子(原作者)、成島出監督が登壇した。
5月21日(金)より一部地域を除き、劇場公開を迎えた感動のヒューマン医療ドラマ『いのちの停車場』。吉永小百合をはじめ、松坂桃李、広瀬すず、西田敏行ら日本を代表する実力、人気を兼ね備えた豪華キャストたちが集結。「在宅医療」に携わる医者・患者そしてのその家族たちを通して、“いのち”“愛”そして“いまを生きていく”家族たちの願いを丁寧に描き出す。原作は都内の終末期医療専門病院に勤務し、命の終わりを真摯に見つめる現役医師でありながら、作家としてNHKでテレビドラマ化もされ話題を呼んだ「ディア・ペイシェント」(2018年刊行)などを世に送り出した南杏子による「いのちの停車場」(幻冬舎文庫)。『八日目の蝉』(2012)や『ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判』(2015)など数多くの名作を生み出し、日本アカデミー賞祭最優秀監督賞を受賞した日本映画界を代表する監督の一人である成島出がメガホンを取る。
イベントの模様は、全国259館(一部地域を除く)へ中継配信(※新型コロナウイルス感染防止のため、配信元会場は無観客にて実施)。舞台挨拶に先駆け、東映株式会社代表取締役社長・手塚治が登壇。「新型コロナ感染症拡大による緊急事態宣言により、東京・大阪など一部の映画館では上映が叶いませんでしたが、全国の『いのちの停車場』を楽しみにお待ちいただく皆様に向け、昨日21日より無事公開することができました。この作品はコロナ禍というリスクを抱えながらも、日本を代表する多くの俳優さんにお集まりいただきました。撮影現場では十分な感染症対策を行いながら、1シーン1シーン丁寧に積み重ねまして、スタッフ・キャスト一丸となって作り上げた作品です。この作品を一人でも多くの方に、映画館で安全、安心に観ていただくため、行政のガイドラインに添って、各映画館十分な感染対策を行っています。弊社といたしましては、映画を愛する皆様に向け、このような時こそ映画を楽しみ、映画で心を癒していただけたら、との思いから、この作品の公開に踏み切った次第でございます。映画は娯楽である、癒しであり、人の心に欠かすことのできない栄養素、ビタミンのようなものであると私共は考えております。どうか、安全対策の行き届いた、空調の行き届いた映画館でお楽しみいただければと思っております。最後になりますが、このコロナ感染拡大の1日も早い収束を願い、そして、コロナに罹られた皆様の1日も早い回復を願い、そしてまた、昼夜を問わず従事されている医療関係者の皆様には、心よりの敬意を表します」とマスコミに向けて挨拶。
そして公開記念舞台挨拶が開始し、全国259館の劇場への配信もスタート。イメージソングの「Amazing Grace」が流れる中、ゆっくりと幕が開け、豪華登壇者たちが登場した。まずは主演の吉永から、「この映画は、2020年の始めに準備が開始されて、9月、10月に撮影いたしました。大変な時期でしたが、スタッフの皆様が昼も夜も頑張ってくださいました。そして、全員が心を合わせて撮影を終えることができ、そして昨日、映画は封切られました。映画の公開はとても嬉しいことですが、とても残念なことがありました。緊急事態宣言が延長になり、映画は休業要請が出てしまったんです。演劇は大丈夫だけど、映画はダメと伺って、大変ショックを受けましたし、悲しかったです。挫けそうになりました。でも今日このように、全国の皆様へ向けてご挨拶ができるというのは、この(イベント会場の)劇場にお客様がいらっしゃらないから、と思って気持ちを取り直しております。きっとこれから、日本中のみなさまに映画をご覧いただけると思っております。」と挨拶し、このような状況下で本作が無事公開できたことに対しての喜びと、緊急事態宣言により一部の映画館では休業要請が出ていることに対しての心境を述べた。
また、都内の終末期医療専門病院に勤務し、命の終わりを真摯に見つめる現役医師でありながら、作家として本作を世に送り出した原作者の南杏子は「”生ききる”ということをこの作品の中で伝えたいと思って小説に書きました。おそらく、このような環境の中でご覧になってくださった方には、心に迫るものがあったと思います。皆様、ディスタンスをとって、大変な中で生活をされていることと思います。今日は本当にありがとうございました」と挨拶。
本作は、とある事件をきっかけに、金沢にある小さな「まほろば診療所」で在宅医として勤めることになった咲和子(吉永)、咲和子を追いかけてまほろばにやって来た、医大卒業生で運転手として働く野呂(松坂)、亡くなった姉の子を育てるしっかり者の訪問看護師・麻世(広瀬)、彼らを見守る院長の仙川(西田)が、患者たちに寄りそい、最後の願いを聞き入れていく中で前に向かって歩み始めていくという物語。そんな「まほろばメンバー」が、共にいのちに向き合う個性豊かな患者とその家族を演じたのが、泉谷、柳葉、南野。
妻の老老介護に疲弊する男性・並木徳三郎を演じた泉谷は、「たいして出ていないので、登壇する価値はないんですが」と前置きし、会場の笑いを誘いながら、「撮影現場では、長い付き合いだった岡田さん(故・岡田裕介東映グループ会長)と久しぶりに会ってたくさん喋りました。楽しくて、すごく充実した時間を過ごせました。岡田さんは『劇場で観てこそ映画だろう!』言っていたので、今日は複雑な思いです(笑)。『岡田、申し訳ない!こう言う状況だからそういうことだ!』と伝えたいです。俺はどのような状況でも映画は公開すべきだと思っています」と映画公開への思いを語る。
また、「死を扱うのは難しいが、よく考えてみれば生きるも死ぬも日常な訳で、そういうことを普通に乗り越えていかなければならない、ということがこの映画には込められていると思いましたので、どうやって日常感を出そうかなと心がけていました。」と語った。
最期の時間を穏やかに過ごすことを望んでいるが、長年会えていない息子を気に掛ける元高級官僚・宮嶋一義を演じた柳葉は、「この作品に入る前、顔合わせのときに、監督から『3シーンの中で宮嶋という男の一生を表現してくれ』と言われました。1シーン目は固い鎧で身を守っている姿、2シーン目はその鎧を脱いだ姿、3シーン目は全てを脱ぎ去った宮嶋という男の生き様を表現しました。正味2日間の撮影でしたが、参加させていただいて、改めてどんなに小さくても、しっかりとした覚悟をもって、その先にある希望に向かって生きようと考えました。この(コロナ禍の)環境だからこそ、この作品がみなさんの心に響くんじゃないかなと思います。ぜひ、多くの方に観ていただき、たくさんの人としての気持ちを考えていただけたらと思います」と、本作を通して伝えたいメッセージを述べる。
また、共演シーンのあった松坂は「野呂が宮嶋の手を握り、(息子ではないが)『親父ありがとう』というセリフがあるんです。宮嶋は言葉を返すことができないんですが、柳葉さんが演じながら手の握り方を変えて感情が波のように伝わってきて。その度に感情が揺れ動かされました。」と撮影時の感想を柳葉に伝える場面も。
小児癌を患う娘に迫る死を受け入れられずにいる母親・若林祐子を演じた南野は、「人っていつの間にかパッと生まれてきて、生きた意味もわからないまま亡くなって。亡くなるときに、家族でも、友達でも、会社でも、病院の先生でも、人と”ぎゅっ”と関係を持てれば、人生は成功じゃないと思いながら撮りました。キャスト、スタッフ今まで以上に言葉を掛け合って、大切な宝物にしていこうと思いながら撮影していました。本作を観られた方も感じてくださったのではないかなと思います。もし、一度観てもやもやする時は、二度観てください(笑)」と冗談も交えながら想いを述べた。
南野が出演していたシーンでは、松坂と広瀬にとっても印象的な場面が多く、「萌ちゃん(南野演じる祐子の娘)に寄り添うシーンは、患者さんと一番深く関わるシーンだったので、色々なことを思いながら撮影に臨んでいました。南野さんの顔を見ると、看護師として耐えなきゃいけなくても、それを超えて溢れ出る苦しさがあり、役として受け入れるのが難しいくらい苦しかったです」(広瀬)、「萌ちゃんの家族3人と海に行くシーンが印象的でした。本当に素敵で、胸がギュッとされるような思いがありました。その後、僕が萌ちゃんを背負って海に入るシーンがあるんですが、両親を差し置いて萌ちゃんと心を通わせて、、、「南野さん、すみません!」と思いながら演じました笑。」(松坂)と振り返ると、「最初は娘が取られてしまったと思って(松坂さん演じる野呂に)やきもちを焼いたんですが、娘が好きになっちゃんたんだと思いながらも、夫と2人で生きていくんだという決意もしました」(南野)と、当時の心境を語る。
咲和子の父親で、自らの”いのちのしまい方”を咲和子に託す白石達郎を演じた田中は、「(ライブビューイングで)カメラの向こうの方へお話しするのはとても不思議な感覚でいます。映画はライブだと思っております。映画の中で生きている、今も生きている、皆さんも生きている、生きていることはすごく大事なことだと思います。みなさん、大切に生きていきましょう」と本作を鑑賞される方々へエールを送る。
「まほろば診療所」メンバーが集う憩いの場「BAR STATION」のマスター・柳瀬尚也を演じたみなみは、「僕の演じる柳瀬という男は、世界中を旅して、金沢に落ち着いて、BARを出しました。そのお店の造りが遊牧民の家を模していて、とてもいい出来だったので、皆様にも見ていただきたいなと思ったんですが、終わると同時にさっと壊されてしましました。とても残念です。その中でゆっくり一杯飲みたいなと思っていたんですが…」と冗談を交えて挨拶。
世界がコロナウイルスと戦う中で、観客へのメッセージにについて質問されると、「南先生が”生ききる”と仰っていましたが、この言葉は心に留めておかなくてはと思いました。日々を精一杯に生きるということが、明日に繋がるのだと思いますし、それが最期までできれば、自分は幸せだったと思えるのではないかなと感じました。なかなか難しいかもしれないですが、この大変な時代を努力してきましょう」と吉永は温かいメッセージを贈った。
松坂は、「体を治すだけが全てではなくて、その人、その家族、それぞれの幸せの形があり、その小さな日々の積み重ねによって、”いのちのしまい方”に繋がるのだなと強く感じました。自分の”いのちのしまい方”というものを改めて考えさせられました」と述べると、「早すぎますよね、そんなこと仰るの」(吉永)、「早すぎますよ、そういう発言が70歳を越えた人間が言うものだよ」(西田)とすかさずツッコミが入り、「一日いちにち充実できるようにします。生ききります!」と松坂は改めて自身の気持ちを語った。
広瀬は、「訪問医療の世界は聞いたことはあったんですが、寄り添い方など(病院での医療とは)こんなにも違う世界なんだと知りました。役作りをしていく上で、麻世ちゃんの優しさや、寄り添い方についてなるほどと思う部分がありました。さっき松坂さんが仰っていた『その家族にあった幸せの形をつくる』という通り、最期を迎えるときに、近くに味方でいてくれる人がいると思える環境があるといいなと思いました」撮影時を振り返ってコメント。
西田は、「自分の死を自然死で迎えられる人は幸せだと思います。世界では、自分の同胞から鉄砲で撃たれて亡くなる方もいるし、過去の戦争では原爆で、震災では津波に飲まれたいのちたちもあります。それに比べると、自然死を迎えられることは本当に幸せだと思います。私も幸せな死に方を模索して、どのようにして受け入れるかを考えております。それは、”生ききる”こと、自分に与えられたことを一生懸命やっていくということしかないと思っております。死ぬということを常々考える年齢になりましたので、どう”いのちを畳む”か、夜寝る前には明日死んでいたらどうしようかな、と考えております。そんな人生は幸せだなと思っています」と自身の”いのちのしまい方”との向き合い方について語る。
最後に、「今日は本当にありがとうございました。そして、今ここで特にお礼を申し上げたいのは、今回この映画を製作するにあたって、医療関係者の皆様です。大変温かいサポートをいただきました。ご指導いただいたり、映画を観て感想をお寄せいただいたりしました。こんな大変な時期にこの映画を観てくださって、私たちに力を与えてくださったこと、感謝しております。また、マスコミの皆様が温かい記事を書いてくださったことも大変嬉しいことです。そして、今日映画を観てくださっている皆様、心から御礼を申し上げます」(吉永)
「このコロナの中で、この素敵なメンバーで、心を一つにして不安の中撮り切って、こうして初日を迎えることができました。この映画の製作総指揮を務めた岡田裕介さんは、映画の完成直前に残念ながら亡くなってしまいましたが、原作の発掘から、現場、キャスティングの話まで、吉永さんと一緒に二人三脚でやってきました。最期に映画を観てもらえなくて残念でしたが、きっと今日、みなさんと一緒に『おーい』と言って笑って観てくださっていると思います。我々も岡田さんと一緒に一生懸命作りました。皆様の心のどこかにそれが伝われば幸いです」(成島監督)と、2人の想いが贈られ、温かい雰囲気の中イベントは締め括られた。
映画『いのちの停車場』は全国公開中
(C)2021「いのちの停車場」製作委員会