映画『サニー/32』公開前トークイベントが19日、都内・シネアーツ試写室にて行われ、白石和彌監督、髙橋泉(脚本家)、宇野維正(映画ジャーナリスト)が出席した。
『凶悪』の監督・白石和彌と脚本・髙橋泉が再びタッグを組む本作。北原が演じるのは、仕事も私生活も今ひとつの中学校教師・藤井赤理。物語は、彼女の24歳の誕生日にピエール瀧&リリー・フランキー演じる“サニー”の狂信的信者に拉致・監禁されるところから始まる。“サニー”とは「犯罪史上、もっとも可愛い殺人犯」と呼ばれ、ネットなどで神格化し世間を騒がせた11歳の少女の愛称。
誘拐犯の柏原(ピエール)と小田(リリー)の2人は赤理(北原)を“サニー”と呼び、強烈なキャラクターたちの群像劇がサスペンスフルに展開していく中、人間の弱さと強さ、さらにはネット社会の危うさまでをも内抱している物語は、予想を超えた結末に向けて走り出していく。
本作の企画スタートについて白石監督は、AKB48グループのプロデューサーである秋元康から「北原里英を主演に映画を撮って欲しい」というオファーを日活のプロデューサーを通じて受けたところから始まったと明かす。
一方で、高橋と共に小学校6年生の女児が同級生を殺害し、世間に大きな衝撃を与えた「ネバダ事件」をベースにした作品を構想していた白石監督は「師匠である若松孝二監督が作っていた60~70年代のアングラな映画にAKB48の現役アイドルを使ったら面白いことになるのではと思った」と振り返ると、作品について「アングラでありながら、過去に起こった実事件からSNSやネットメディアの在り方など極めて現代的な要素まで詰め込んでもエンタメ作品として一切破綻していなかった」と宇野。
続けて、「色々な要素が入った作品は破綻しがちなことが多いが?」との問いに髙橋は「ひとつのテーマ以外のことを膨らませると主題がぼやけることが多いのですが、そこは白石監督への信頼があるので全ての要素のボリュームを上げきった」の返答に宇野は感服した様子。
『凶悪』以降、日本映画界を代表する俳優として確固たる地位を築いたピエール瀧とリリー・フランキーの2人について話が及ぶと、「あの2人をある種のコンビ関係で映画に登場させられるのは僕らの特権」と胸を張り、髙橋も静かに頷くと「このコンビ的な関係性で登場させるパターンはもう何回かイケる」とすっかり味をしめた様子の白石監督の発言に場内からは笑いが。
一方、本作は昨今のネットメディアを反映した作品でもあり、特定のネットメディアを意識した演出について、北原里英が出演するライブでの演出を観たことがキッカケだったことも語られた。
現在の日本映画界について宇野から問われると、白石監督は「日本映画は今、冬の時代。これだけ(多くの作品)を撮ってもカツカツ。なにより若い人材が入ってこなくなっているので、その点を変えて行く取り組みはしなければいけないのではないか。実際、監督や脚本家には印税が入らないですから」と神妙に語る場面も。それに対して、宇野が髙橋にも意見を求めると「全然、儲かっていますよ(笑)」の一言に会場中が笑い包まれた。
観客からの質問コーナーでは、白石組常連で高校の後輩でもある音尾琢真が、本作の役柄がなぜ22歳の設定なのかについて聞かれる場面では、なかなかスケジュールが合わない中で「役に関係なく先輩の映画には出させて!」の猛アピールに、「スケジュールがなかなか合わない中、22歳の役で良ければ」と出演が決まった経緯が語られ、「まぁ、映画ですし」との白石節に質問者笑ってしまう一幕も。
今後の展望に髙橋は「女子高生がキャーキャー言いながら『サニー/32』みたいな映画を観れるような世界にしたい、この作品を観て何か感じてくれれば」と語る。白石監督は「映画の作り方は若松監督に叩き込まれましたが、常にハリウッド映画を意識している。実際、マーベル映画大好きですし」と前置きし、「今は、監督として恵まれているので勝負したい。日本の映画で育っているので時代劇だったり、それこそ『ゴジラ』を撮ってみたい!」と野望を口にした。
本作について「今作は“祈り”が一つのテーマ。これまで道を外れた大人の話が多かったが、今回は救える作品になっています」と新境地となった本作をアピールし、盛り上がりを見せたトークイベントは終了した。
映画『サニー/32』は2月9日(金)より新潟・長岡先行公開、2月17日(土)より全国公開
【CREDIT】
監督:白石和彌
出演:北原里英、ピエール瀧、門脇麦、リリー・フランキー、駿河太郎、音尾琢真(特別出演)、蒼波純
(C)2018『サニー/32』製作委員会