『黒い暴動♥』などで知られる宇賀那健一が監督を務める本作は、あらゆる娯楽が禁止された世界を舞台に、“音楽”を知らずに育ってきた若者たちが、枯渇した生活に希望を見出していく静かなるノイズミュージック映画。ファッション雑誌「装苑」専属モデル・SUMIREがヒロインを務め、吉村界人、若葉竜也、森本のぶらが共演する。
今回、“音楽”を心から憎んでいる警察官・杉村役で出演している斎藤工の独占インタビューに成功した。
──今作の企画や脚本、宇賀那監督、“音楽”を心から憎んでいる警察官役など、どこに惹かれてオファーを受けたのでしょうか?
斎藤:内容もそうですけど、お会いしたことがなかった宇賀那監督から直接連絡をいただいて。そこに添えられていたのが、今回の作品の構想でした。ちょうど1年くらい前ですが、その期間に撮影予定だった作品がなくなって急遽スケジュールが空いたり…。いろんなことが繋がっていったんです。天の声が聞こえたわけではないんですけど、すごく自然な流れでした。
──タイミングが良かった?
斎藤:そうですね。「この役で」「この作品で」っていう具体的なことよりは、このプロジェクト自体の匂いというか、波動みたいなのがすごく魅力的でした。
──役作りのアイデア、衣装や装飾などを斎藤さんご自身で提案されたとか。
斎藤:企画の段階ですごく出来上がっていると感じていたのですが、僕の解釈と監督の解釈が違ったら申し訳ないなと思いながらも、監督に提案させて頂きました。見ている方向が一緒だった気がして、思ったことをなるべく言うようにしていました。棒つきキャンディーを買い漁ったり(笑)。見た目が奇妙になるからというよりは、音を削がれた世界において「音に変わる娯楽ってなんだろう」と僕なりに考えて。
1つは砂糖。歴史をさかのぼると、胡椒とか調味料は貴重で高価だったそうで、何かが制限や禁止されている世界では別の何かのニーズが狂うんじゃないか、例えば砂糖は贅沢品になったりするんじゃないかと思って。それで飴を舐めているんです。劇中ではそういう設定は描かれてはいないですけど、自分の中では、砂糖というものの価値が上がったんじゃないかと思って、そういう贅沢品を持っている状況を作って、より人物像が見えたらいいなと。他にも細かいアイデアはいっぱいありました。
──耳ピアスもそうですよね?
斎藤:そうですね。
──あれは提案して作ってもらったんですか?すごいリアリティで…。
斎藤:早い段階で(森本の)耳を削ぐ描写があったので「削いだ耳どうするんだろうな」って。実際、鼓膜が無事なら大抵は聞こえる状態なんですが、やっぱり音の象徴というか、音が聞こえてくる部位としてはすごく印象的なところですよね。
──耳といえば音ですからね。ビジュアルもすごくグロテスクでした。
斎藤:そうですね。主人公のフレッシュな2人に徹底的に立ちはだからないと。権力を背負っているので。大物政治家や独裁者のような威圧感が必要だなと思って。
──若手の方々が多い現場だったと思うのですが、斎藤さんから見て現場の雰囲気はいかがでしたか?
斎藤:スタッフチームも非常に若くて、皆オシャレなんです。オシャレという言葉で片付けるより、何かアイデンティティを持っている人たちが多くて。雇われているというより、自分を鼓舞して作品を良くしようとしている人たちが現場に居たなと思います。非常に健全な、清い印象でした。
──キャストやスタッフの方たちとお話はされました?
斎藤:言葉で調節し合うというよりは、空気感をどうやって捻出するかということを皆で考えて。共通言語が「空気」。その空間から醸し出されるものを撮ろう、という現場でした。説明的だったり、漫画的だったり、1個ずつわかりやすくしていくよりは、実際に流れている「空気」をどう切り取るかっていうことに専念していた。羨ましかったです。若い頃に、こういう仲間と出会えていたら、もっと面白いことが出来たんじゃないかな。たぶん、今の年齢で今の状況で、僕は宇賀那組の人たちとセッションすることに意味が絶対にあるだろうと。非常に楽しかったです。
──良いチームだったんですね。
斎藤:ものづくりというか、クリエイティブな関係性というか、すごくフェアなんです、各部署の人が。俳優部がどうというよりは、何かこう皆がフェアに「こうした方が良い」という感じを出し合っている気がして…。自分も、すごく実験的な映画(『blank13』)を作ったので、監督がやろうとされていることが痛い程わかるという共通認識を、皆が持って現場に居た感じがしました。この作品に関われて幸せでしたね。
映画『サラバ静寂』はユーロスペース他にて公開中
【CREDIT】
出演:吉村界人・SUMIRE・若葉竜也・森本のぶ/斎藤工
企画・脚本・監督:宇賀那健一
©『サラバ静寂』製作委員会