映画『あの日のオルガン』“未来の保育士”試写会イベントが19日、都内・日本大学芸術学部江古田校舎にて行われ、戸田恵梨香、大原櫻子、平松恵美子監督が登壇した。
東京福祉大学保育児童学部の学生100名と、会場となった日本大学芸術学部映画学科の学生50名を授業の一環として招待した本イベント。先立って本編を鑑賞した学生たちは、知られざる“疎開保育園”の物語や、実在した保母を見事に演じ切った戸田&大原の演技に圧巻された様子。上映終了後、熱気冷めやらぬ学生たちの盛大な拍手と、黄色い歓声で迎え入れられた戸田、大原、平松が「距離が近いですね!皆さん楽しんでいってください」(戸田)、「私もずっとここで授業を受けていたので、この光景が異様です(笑)」(大原)、「皆さんこんにちは。どうだったでしょうか?良かったかな?」(平松)と挨拶した。
いよいよ公開を今週末に控え、未来ある若き学生たちを前に戸田は「初日が近いんだなと感じる部分はあるんですけど、突然目の前にやってきてしまったというような、どことなく自分の中でふわふわした感覚があって。ここには保母さんを目指している学生さんもいらっしゃるみたいですが、そういう方がこの作品を観てどう思うのか気になりますし、私の想いも届けばいいなと思います」と、生で意見を交わせるティーチインに対しても意気込んだ様子。
また大原は、本イベントに集まった日本大学芸術学部映画学科出身。「ちょうど去年の三月ごろから一か月間、この映画の撮影があったのですが、公開日までまだ先だなあと思っていたのに、気づいたらもう一週間を切っていてびっくりです。こういったメッセージ性のある映画は、一刻も早く届けたいという気持ちがあるので、ようやく公開されるんだなという喜びと、観てくれた人がどんな感想を抱いてくれるだろう?というドキドキ感でいっぱいです」と、公開が待ち遠しい様子。
「去年の夏から細々と宣伝活動をしていく中で、何度か、色々な視点から映画を見直す機会があったんですが、都度この作品の中に登場する保母さんや子どもたちが、どんどん愛おしくなる不思議な感覚がありました。今日は皆さんがどのように作品を捉えてくださったのかを伺えるのが楽しみです」と監督も期待を抱き、ティーチインに挑んだ。
Q「戸田さん、大原さんは、役づくりの為に実際の保育園で実習を受けられたと伺いましたが、その経験を踏まえて、これから保育士を目指す私たちに、何かアドバイスをいただけると嬉しいです。」
「今朝、くしゃみをしたら体をひねってしまって、歳だなあと感じたんですけど。こんな体を痛めているときに、保育士の仕事をしている人ってどうしているんだろうと思ったんですよ(笑)それは実際に保育園で実習をやらせていただいたときに、とにかく体力がいる仕事だなと実感したのがあって。この映画のみっちゃん先生じゃないですけど、子どもたちに見つからないように必死で隠れてたんです(笑)子どもたちの命を預かるという面で、精神的にも体力的にもとにかく負荷があるんだと考えると、本当に大変な仕事なんだなと思いました。保育士さんという存在が不足してきている難しい現実も耳にしたことがあったので、ひとりでも多くの保育士さんが増えることを祈っています。楽しみながら、自分の生きがい、やりがいを抱きながら、励んでいってほしいです」(戸田)
「当時はいつ死ぬかわからないという状況が今よりも強くあったし、大変だったとは思うんですけど、人の子どもの命を預かるということは、今も昔も変わらず、すごい責任感があるんだなって実感しました。その反面、みっちゃん先生を演じていて思ったのは、子どもたちと接しているときは、守ってあげたいという気持ちよりも、同じ目線で一緒に楽しむというのが、子どもたちを幸せにできることなのかなと思いました。子どもたちも、遊び仲間や友達というような感じで接してくれて、一緒に遊ぶことで笑顔になってくれれば、私たちも幸せを感じることができます。子ども扱いをしないで、同じ目線でいることが大事なんじゃないかなと思いました」(大原)
Q「撮影中、子どもたちと接する時間も多かったと思いますが、この作品を通して子どもたちから学んだことや、教えてもらったことはありますか?」
「戦争から逃げるところがなくなり、楓先生が怒りや苦しみを声に出したシーンがあるんですが、撮影中に一人の子どもから、『どうして楓先生泣いてるの?』って聞かれまして。『楓先生は戦争に対して怒ってるんだよ』と、他の保母さんが伝えると、『なんで戦争なんかするの?戦争なんかしなかったらいいのに』ってすごく純粋な心で聞いてきたことがあって、その言葉にはハッとさせられました。子どもの言葉を実際に耳にすると、この子たちを守らなきゃ、この子たちの未来を私たちが繋いでいかなければならないんだと、改めて実感させられました」(戸田)
「日々学ぶことがしかないというか、子どもたちのひとつひとつの行動が私にとって学びで、一秒一秒を一生懸命に生きて、一秒一秒を楽しんでいるその姿が、一番勉強になりました。子どもたちの笑顔をみると、この子たちを守っていかなきゃなと思います」(大原)
「撮影中、私は保母役の皆さんとはお芝居について言葉を交わしていましたが、子どもたちに対してはあまり要求しなかったんです。なぜなら子どもたちはお芝居に対してたくらみや自分を飾り立てるような部分がないから。大人になるとそういう一面も出てくるんですが、それがない子どもたちは素敵で、良いなと思います」(平松)
Q「何故このような映画を作ろうと思ったんですか?お客さんを感動させたいという想いはもちろんあると思いますが、それ以外に何か伝えたいメッセージはありますか?」
「私をこの企画へ声をかけてくださった方が、虐待や待機児童など現代の子どもたちが過酷な状況に置かれている今だからこそ、1982年に記されたこの疎開保育園という物語をメッセージとして伝えるべき作品であると思うとおっしゃっていて。私もその言葉を受けて原作を読んでみると、非常に感銘する気持ちがあり、作品を撮らせていただきました。伝えたいメッセージはたくさんありますが、それを言ってしまうと身も蓋もなくなってしまうので、家族や友達と一緒にこの映画を観て、『自分はこんな風に感じたけど、あなたはどう思う?』って、この作品に込められたメッセージを掘り起こしてほしいです」(平松)
Q「保母さんを演じていく上で、こんな保育士さんになれたらいいなと考えたり、理想の姿などは思い描いていましたか?」
「それぞれ人によって立場も異なりますし、難しいですね。楓先生だったら、子どもたちだけではなく他の保母たちさんや、疎開保育園に関わっている全ての人に気を遣い、皆がどれだけ有意義に過ごせるかを考えないといけないし、それぞれの学校、思想によって、理想の形は異なると思います。ひとつ私が言えるのは、誰に対しても愛情をもって接することが大事だなと思います」(戸田)
「私は非常に役に影響されるので、みっちゃん先生と子どもたちをとことん愛し、とにかくカメラが回っていても、いなくても、子どもたちを楽しませることに努めていました。みっちゃん先生は保母さんではあるんですが、“保母”という認識よりは、子どもたちを守り、笑顔にするということを意識してやっていたので、どういう保母になりたいかというと、それこそ楓先生のような視点をもち、みっちゃん先生の考えも持っているような人が理想かなと思います。でもいざ子どもたちと接してみると、なかなか難しいなって実感しましたね。とにかくストレートに子どもたちを笑顔にする保母さんになりたいなと思っていました」(大原)
Q「子どもと一緒に過ごした撮影中は、何が一番大変でしたか?」
「体力。前からも後ろらも抱っこをせがまれ、腰との闘いでした(笑)あとは先程の話でも、どうして戦争をするの?って質問をされたように、子どもって色々な疑問が飛び出すんです。それに対して誤魔化すことなく一生懸命に向き合うことで、子どもたちの心を守るということが一番大事だなと思ったし、慎重に接していかないといけないなと思いました」(戸田)
「めちゃくちゃ風邪が流行るんです。撮影中も一人が風邪をひくと、次の日、あの子もこの子も咳込んでいる!ってなって。病気の蔓延の仕方はすごく大変だなと思いました。あとは言葉のチョイスを間違えるとすごく傷ついたり、良い言葉を投げかけるとすごく笑顔になったり、子どもたちは受け止め方がすごくピュアだから、そのぶん言葉の選択で、自分の想いを伝え間違えかねないことが、すごく難しいなと思いました」(大原)
Q「命の重さや命の大切さについてどのように思いましたか?」
「私は当時6歳の時に、阪神淡路大震災を経験しています。近所のおじさんおばさんが亡くなりましたし、街も突然無くなってしまって。私が経験したことは震災ですけど、今の日常が当たり前ではないんだなと思って。子どものとき、地震が起こってはじめて地震という言葉を知ったし、はじめて死を目の当たりにして、その恐怖が分からなかったんです。でもだんだん少しずつ時間が経っていくなかで、その状況を理解していくと、なんで?なんで?っていう気持ちが生まれたんです。その当時の気持ちや、今、大人になったからこそ考えることを抱きながらこの作品に関わったのですが、子どもたちも大人たちも命を繋いでいくということがどれだけ大事なのかということは、改めて痛感しました」(戸田)
最後に、昭和から平成、いよいよ新しい時代が幕を開けようとしている今、この物語を未来へ伝えていく意義について問われると、戸田は「皆さん今日はありがとうございました。短い時間でしたが、皆さんに考えてもらえるきっかけになる良い時間になったかなと思えます。感動させたいという気持ち以外にも何かメッセージがありますか?というお話もありましたが、映画やドラマは感動を与えるだけではなくて、こうやって皆が一緒に同じ空間で観て、こうだった、ああだったと語り合えることが良さだと思います。これからお芝居を始める人もたくさんいると思いますが、伝えるという意義はすごく大きいですし、感動を与える、貰うというのが全てではないと思います。この作品は重い話でもしんどくなる話でもなくて、同情もしてほしくない。ただ、こんな事実があったということを知ってほしいという想いで、言葉を伝えました。ここで観たこと、感じたものがこれから先、皆さんの心の中にずっと残ってくれたらいいなと思います。これからの人生、最大限に楽しんでください」と、将来有望な学生たちへ向けて、熱いメッセージを贈った。
これからの子どもたちの平和な未来を担う学生たちにとっても、これからの映画界を担う学生たちにとっても非常に有意義な時間が流れ、夢や希望が溢れるイベントとなり幕を閉じた。
映画『あの日のオルガン』は2月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
(C)映画「あの日のオルガン」製作委員会