『新聞記者』
シム・ウンギョン×松坂桃李インタビュー
東京新聞記者・望月衣塑子のベストセラーを“原案”とした映画『新聞記者』が6月28日(金)より公開。“権力とメディア”“組織と個人”のせめぎ合いを真正面から描いた今作で、女性記者の吉岡エリカを演じるのは『サニー 永遠の仲間たち』『怪しい彼女』などで知られるシム・ウンギョン、エリート官僚の杉原拓海を『孤狼の血』『居眠り磐音』など話題作への主演が続く松坂桃李が演じている。そんな2人に、今作に挑んだ想いや共演した感想などを語ってもらった(取材・文:奥村百恵/撮影:ナカムラヨシノーブ)。
──今作の台本を最初に読んだ時の感想からお聞かせいただけますか。
シム:現代のジャーナリズムに関する映画であると同時に、吉岡エリカと杉原拓海が色んな選択をしながら生きている姿、そして2人の周りの人達のキャラクターなどもしっかりと描かれていると感じました。とても興味深い台本だったので、お話をいただけて嬉しかったです。
松坂:最初に台本を読んだ時は、胸にものすごくズシッとくるものがありました。社会的なテーマを扱っていますが、いま自分の目の前で起きていることにも置き換えることができる内容でもあるので、すごく身近なものに感じたというか。例えば、自分自身の判断や思いで行動できているかとか、今の自分と向き合うことができるような作品になるのではないか、と感じてお話をお受けすることにしました。
──松坂さんは内閣情報調査室で働く杉原を、シムさんは新聞記者のエリカを演じるにあたり、どのような準備をされましたか?
松坂:まず、杉原の職務などを知らなければと思って調べ始めたのですが、リサーチすればするほどわからないということがわかりました(笑)。もちろん監督はクランクイン前に色んな方にインタビューをして調べて下さったのですが、それでもやはり内閣情報調査室に関しては詳しいことを知る術がなかったそうなんです。なので、リサーチしてというよりは台本に書かれている杉原の揺れ動くひとつひとつの感情を、現場でしっかりと表現することを大事にしました。自分自身が揺らいでいる感覚で演じることで、きちんと積み上げながら完成させていけばリアリティを出せるのではないかと、そんな風に挑んでいました。
シム:私は撮影前に新聞社を見学したのですが、その時に新聞記者として働いている方とお話しさせていただきました。おかげで新聞を作ることの大変さが少しわかったような気がしましたし、色々と勉強になりました。それから実話にもとづいた映画『スポットライト 世紀のスクープ』を観ました。新聞記者がとある事件を暴いていくという話なんですけど、記者を演じたマーク・ラファロさんの自然なお芝居を観て“私もこういう風に演じてみたい”と参考にしながら演じるようにしていました。
──演じるうえで苦労したシーンなどがあれば教えていただけますか。
松坂:最後にエリカと杉原が道路を挟んで向き合っているシーンは、台本を読んでも全く想像がつかなくて苦労しました。台本には“2人が道を挟んで向き合って終わる”と書かれていて、杉原がどういう表情なのかは明確ではなかったんです。そういうことはよくあるんですけど、この作品に関しては想像するのが難しかったので、“ここはこういうことですか?”と監督に確認しながら進めていきました。現場でやってみないとわからないことが多かったので、杉原という役はすごく難しかったです。
シム:私は…撮影初日から撮影終了日までずっと難しいなと思いながら撮影していました(笑)。
松坂:全て日本語の台詞ですしね(笑)。
シム:そうなんです(笑)。普段あまり使わないような専門的な用語が出てきたり、漢字も多くて…(苦笑)。イントネーションに気をつけながら言わないと、きちんと意味が伝わらなかったりするのですごく苦労しました。それから、エリカは冒頭から新聞記者として働いているので、そこに至るまでの過程は細かく描かれていないんです。なので、違和感なくエリカを記者として自然に観ていただけるように気をつけながら演じていました。
──お2人は初共演になりますが、ご一緒してみていかがでしたか?
松坂:ウンギョンさんと一緒にお芝居していると、ワンシーンの中でもカットごとに緊張感がどんどん高まるというか、良い意味で空気が変わっていったのが印象的でした。ウンギョンさんはカットごとに違った感情や言葉、表情や熱量を出されるので、僕としては一瞬も気が抜けなくて。後半でエリカが杉原に対して“協力して欲しい”と説得するシーンがあるのですが、この時のウンギョンさんのお芝居が特に印象に残っています。
シム:松坂さんは普段は優しくてニコニコと穏やかなのですが、いざテストや本番になると目つきが変わって完全に杉原になっていました。そんな松坂さんとお芝居のキャッチボールをしながら演じていましたし、それがとても楽しかったです。
松坂:僕も同じで、ウンギョンさんに影響を受けながら楽しく演じていました。
──劇中では“フェイクニュース”を扱ったシーンが登場しますが、私自身もSNSなどで簡単に“フェイクニュース”を信じた経験があるので、改めて真実を見極めることの大切を感じました。
松坂:色んな情報が簡単に見れる時代なので、やはりそういったものに流されたり影響されて自分の意見が変わってしまうこともあると思います。だからこそ、いまおっしゃっていただいたように改めて自分の目の前にあることをしっかりと見て、自分の考えや思いを再確認して向き合うことが必要だなと、今作を通して僕も感じました。
シム:今作は“真実と選択”についての話なので、私もこの二つに関してすごく考えました。どんな選択をして生きていくのかというのはとても大事なことだなと改めて思いましたし、色んな情報の中からしっかりと真実を見極めなければいけないなと。映画をご覧になった方も、きっとそんな風に色々と考えるのではないかなと思います。
──ちなみに、何か大きな選択をする際にご自身の中で大事にしていることはありますか?
松坂:僕は割と“こっちのほうが良い気がする”と、直感で決めることが多いです。
シム:直感ですか!(とても驚いた表情で)
松坂:あれ(笑)?直感で決めたりしませんか?
シム:私は何かを選択する前に“本当にこれで合ってるのかな?”と悩んでから決めることが多いんです(笑)。
松坂:僕とは正反対ですね(笑)。僕の場合は選択しなかったほうの人生を想像してもタラレバの話になってしまうので、それよりは選んだ人生としっかり向き合ったほうが自然と悔いのない選択になっていくんじゃないかなと思っているんです。
シム:なるほど!その考え方も素敵ですね!
松坂:いえいえ、じっくりと悩んで決めるというのもすごく素敵だと思います!
──今作のような、現代社会にしっかりとリンクするような社会派エンタテインメント映画についてお2人はどう思っていますか?
シム:リアルに起こっている社会問題を、“映画”だからこそちゃんと表現できることもあるんじゃないかなと思います。今作に関しては、現代社会をしっかりと描いたエンタテインメント映画だと思っているので、純粋にお客さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
松坂:本当にそう思います。映画を入り口として、観る人に色んなきっかけを与えることができるのではないかなと。今作のような社会派エンタテインメント映画を観ることで、自分の視野を広げることができたり、心のゆとりみたいなものが生まれたりするかもしれない。なので、今作のような映画を日本でももっと作って欲しいなと思います。
──観たあとに深く考えさせられた映画があれば教えていただけますか。
シム:是枝裕和監督の『そして父になる』は、血が繋がっていることだけが家族なのかということをすごく考えさせられましたし、観ている最中に号泣しました。本当に良い映画なので本当に好きです。
松坂:『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』という、バレエ界きっての異端児といわれるダンサーのセルゲイ・ポルーニンを追ったドキュメンタリー映画がすごく良かったです。バレエ界の第一線で活躍している方が抱える苦悩や、誰にも共感して貰えない辛さが描かれているんですけど、同じ表現者としてすごく共感できる部分がありましたし色々と考えさせられました。
──では最後の質問になりますが、今後また共演するとしたらどんなジャンルの作品がいいですか?
松坂:兄妹もののコメディ映画とかやってみたいです(笑)。
シム:話が全く通じない設定とかでも面白そうですね(笑)。
松坂:それいいですね!
シム:英語、日本語、韓国語を混ぜながら、ボディーランゲージで必死に気持ちを伝え合ったりして(笑)。
松坂:あははは(笑)。すごく面白そうなので、僕らのコメディ映画の企画をどなたか考えてください!!
──ぜひ観てみたいです!ありがとうございました!
映画『新聞記者』は6月28日(金)より全国公開
(C)2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
シム・ウンギョン
ヘアメイク:miwako tohyama(THYMON Inc.)
スタイリスト:Babymix
松坂桃李
ヘアメイク:AZUMA(M−rep by MONDO-artist)
スタイリスト:丸山晃
取材・文:奥村百恵/撮影:ナカムラヨシノーブ