「More Cinema in Life. 〜ITのチカラで、映画館をもっと身近に。〜」をミッションとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者に、映画館について、映画についてお話を伺う。
『コンビニエンス・ストーリー』が8月5日(金)よりテアトル新宿他全国公開される。監督は、テレビドラマ「時効警察」シリーズや『転々』、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』、『大怪獣のあとしまつ』と、独特な世界観で人気の三木聡。映画館について、そして新作についてお話を伺った。
三木聡
MIKI SATOSHI
1961年生まれ、神奈川県出身。20歳から放送作家の事務所に入り、「タモリ倶楽部」、「ダウンタウンのごっつええ感じ」、「トリビアの泉」といった人気番組の放送作家としてキャリアを重ね、『イン・ザ・プール』(2005年)で長編映画監督デビュー。ドラマ「時効警察」シリーズの監督をはじめ、主な映画監督作に『転々』(2007年)、『インスタント沼』(2009年)、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(2018年)、『大怪獣のあとしまつ』(2022年)などがある。
映画館で体験するから面白い
――まずは映画館についてお伺いしたいのですが、お気に入りの映画館はありますか。
三木:テアトル新宿さん。この作品が公開されるからということではないですけど(笑)。20歳くらいのときは、いわゆる単館系に行ってました。今は六本木ヒルズになっちゃったけれど、六本木にシネ・ヴィヴァンがあって、渋谷だとシネマライズやシネクイント。単館系の映画館みたいなのが割と直球世代というか。今はどんどん減っちゃいましたけど、映画館というとそういうイメージです。なんか面白げなことがあるんじゃないかと。それこそ鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』もテントで観ました。渋谷ジァン・ジァン横にテント(シネマ・プラセットのドーム型テント劇場)を建てて、そこで映画を上映するというのが80年代はあったんですね。ブロックバスター的なシネコンよりも、そういう単館系の映画館の方が親しみがあります。
――単館系の上映作品から影響を受けたんですね。
三木:まあそうですね。そういうところに「面白いことがあるんじゃないか」という感覚があった世代なのかな。
――自宅で配信された映画を観ることも当たり前になってきましたが、映画館での鑑賞との違いをどんな風に感じますか。
三木:体験するかどうかみたいなところ。スティーヴン・スピルバーグは90年代『ジュラシック・パーク』や『プライベート・ライアン』で、映画をどうエクスペリエンスにしていくか、みたいなことを掘っていたんじゃないかな。ある種その空間に入りこむことで、仮想体験みたいなことがあるんだと思う。映画になる以上は再現なので、再現されたものしか映ってないんだけれど、それをあたかも体験したように感じられる、というのが映画館。クリストファー・ノーランの『テネット』も、映画館で体験するから面白いっていうのがある。ちょっと前だけど、六本木ヒルズのTOHOシネマズに行って娘と『テネット』を観て、ああだこうだ話したりして。家でテレビで観るよりも、2人で映画館で観て「あれってどういうことよ」と話すのは面白いですよね。映画ってそういうところがあると思うし、体感して体験して、思うことが出てくる。それが面白いなって思いますね。
――映画館にもっと多くの人が足を運ぶようになるには、どうしていったら良いと思いますか。
三木:映画館の形が決まっちゃっているじゃないですか。椅子があって、スクリーンがあって、スピーカーがあって。昔の小劇場は、劇場の持っている雰囲気みたいなのがあって、そこに行くと面白そうなことがあるんじゃないかって思わせてくれた。単館系でもシネコンでも、いわゆる”普通”の映画館では起こらないことが起きそうな雰囲気の内装とかってないのかな、って思ったりします。オーソドックスに格式のある形でもいいと思うんですよね。そういうものがあると、その場所にいく意味が感じられる。「あそこの映画館でこの作品を観たら面白いよね」っていう、映画館独自の個性みたいなことがもうちょっと出てくると面白いことがあるんじゃないかとは思ったりしますね。
――独自の個性があると行ってみたくなりますよね。
三木:「ホラー映画を見に行くなら、あそこがいいよ」とか。もっとそういうことがあってもいいんじゃないのかなと。「あの劇場、なんか怖いんだよね」みたいな。ワーナー・マイカル・シネマズ海老名(現イオンシネマ海老名)のTHXじゃないけれど、「スター・ウォーズ」を観るなら7番スクリーンだろうと、何千人か分からないけれどマニアがいて、そこで観たいという人がいる。音が極端にいい映画館とかもあって欲しいし、この街のここで観たい、というのがあったらいいと思う。もちろんシネコンみたいなのもいいんだけれど、それ以外の部分でそういう映画館が出てくると面白いなと思いますよね。
紙の上で自由になれるのは、年に1回あるかないか
――ここからは監督の作品作りについても伺いたいと思います。三木監督作品で印象的な、セリフのやりとりはどのように生み出されているのでしょうか。
三木:よくアドリブかどうかって聞かれるんだけれど、基本的には脚本通り役者に演じてもらっています。本読みをやって、その上で構築していく。シティボーイズのライブの演出をしていた頃、よくコント的なことを書いていたというルーツがあります。シティボーイズって、元々つかこうへいさんのところにいた人たち。割と初期に演劇的なコントの作り方を導入したグループで、東京の演劇的な感じでコントをやっていた。大阪の吉本新喜劇のような、台本とかはなくて「自分の発想でここのお客を笑わせてやる」っていうところに自己存在意義みたいなところを感じられる芸人さんとは、別のスタイルなんだよね。どちらかというと机の上やパソコン上でセリフを作っていって、それを忠実に再現してもらうという形式が多いですね。
――アイデアは普段から集めているのでしょうか。
三木:もちろんメモはありますよ。日常的に書いてるメモみたいなもの、それを台本の中に反映したりすることはあります。今回の作品でいうと、コンビニでいけ好かない客が「今日は雨だからよく寝られるよね」と言うシーン。あれは実際にコンビニで遭遇したことで、ヤンキー系のカップルなんだけど、そんなロマンチックなこと言うんだ!っていう。それをメモしていたものを元にしています。紙の上で自由になれる瞬間もありますけどね。ある出来事なり発想なりが別の発想を生んでいくという。まぁ、年に1回あるかないかくらい。
――面白さにはテンポ感なども重要だと思いますが、カット割りなどの編集作業は監督が主導されていますか?
三木:一旦は編集部に任せます。基本的には画コンテを基に撮影をしています。編集の富永君は、「時効警察」の最初の頃からやってもらっている方でクセもわかっているので、たぶんここでつなぎたいんだろうなということも含めて最初のラッシュ(仮編集)をあげてきてくれる。そこからある程度テンポなり、ここはもうちょっと間を取ろうとか、そこはもうちょっとたたみかけるように、というようなことは作っていきますが、基本的なリズムは富永君に作ってもらっています。
――監督の意図を踏まえたベースを作ってもらい、微調整をしているんですね。
三木:それが今のスタイルですね。撮る段階である程度カットは決まっていて、何カットも撮ることはあまりやらないので、限られた材料の中で的確にテンポを作ってもらう。まあでも富永君がやっぱり面白いので。いかに役者の動き出しの予感を感じさせたところで切れるかどうかって、編集のセンスだったりします。セリフ終わりに、ちょっと次の余白を作って、会話のリズムを崩さない程度にそれを行うことによって、役者の次の動きがスムーズにつながっていく。映像としての動きのリズムがでてくる。ラッシュを見て、なるほどなと思ったりしますね。
成田さんの持っているリアリティみたいなことは面白い
――今作についてお聞きしますが、今回、三木組初出演の、成田さん・前田さんをキャスティングされた理由を教えてください。
三木:成田さんの持っているリアリティみたいなことは面白いなと思ったことが一つあります。
――リアリティというと。
三木:異界に行く話じゃないですか。異世界に行くので、現実の成田さんの存在の仕方みたいなことは一つ決め手になりました。六角さんと前田さんって、ある種リアリティがない部分がある。「生きてるの?前田さん」って感じがあるんだけれど。そこが魅力なんですよね。異界と我々の世界とを繋ぐ人間として、成田さんの持ち得ているリアリティみたいなことが、非常に面白かったです。
――何か成田さんが出演されている作品を見られてそう感じたのでしょうか?
三木:会って話して、芝居をしているのを見てです。会った時の成田さんの、なんていうのかな、不思議なリアリティの持ち込み方。そのリアルってのは別に現実の投影だけではなく、映画の中で自分がどういう風に生きているのかを錯覚させなければいけない。「よーいスタート」以外のシーン以外の時間が、あるかのごとく演じてもらわないといけない。彼にはその映画の持っている立体性みたいなことは感じたっていうのはありますね。彼と会って話したときに、そういう奥行き感みたいなことがあるかもしれないっていう風に思いました。
変な体験を映画館でする
――今作の画作りが海外のルックのような印象を受けましたが、意識されたことはありましたか?
三木:『大怪獣のあとしまつ』の頃から、Y系(イエロー)を強調した色味作りをしています。今はカラーライティングという、LEDでコンピューター上で色が変えられるライティングチューブがあるので、光量自体はそんなに上げずに色が反映できるような形で撮っていこうと。冒頭の加藤とジグザグが住んでいる部屋のシーンは、昔譲り受けたアンジェニューという16mmのオールドレンズを使いました。アンジェニューが妙に変な光線の入り方をするので、加藤の部屋もそれで撮ろうということに。多少画像の解像度は下がるけれどそれも含めて味だろうと。撮影の高田さんといろいろ研究しました。そういう遊びというか映像的なトライは、今回は思い切ってやってみようという自由度はありました。暗いところは結構暗く落として、表情が見えるギリギリかちょっと表情が見えない方がイマジネーションが増えるので、ライティングも落とし気味に作っていきました。結果として、それが80年代のデイヴィッド・リンチだったり、90年代のコーエン兄弟だったり、さっき話したように単館系でいろいろ観ていた何らかの影響みたいなことはあったんだろうなって思います。
――最後に、記事を読んでいる方に本作の見どころを教えていただけますか。
三木:この映画は最初に話したように、体験してもらいたい。自分で体験して、いろんな意味の脈絡とかを断ち切ってあるんで、そこの空白をどういう風に観ながら、埋めながら面白がってもらえるかどうか。それはご自身の中の答えでいいと思うんです。正解とかいうことではなく、映画館の中で感じながら観てもらえたらすごい嬉しいなと思いますね。体験として。変な体験を映画館でする、ってことだと思うんですね。
(取材・写真:曽根真弘/照明:中島浩一)
映画『コンビニエンス・ストーリー』は8月5日よりテアトル新宿他全国公開
公式サイト:https://conveniencestory-movie.jp/ 公式SNS:@cv_story_movie
(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会