小津安二郎監督の『東京物語』をはじめ、大林宣彦監督の『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』など、数多くの名作が誕生した映画の街、広島県・尾道市。そんな尾道にある唯一の映画館が、「 シネマ尾道 」だ。

第9回 “映画の街にある、たった1つの映画館”< シネマ尾道 >

シネマ

 

尾道から映画館が消えた、2001年

1950〜60年代には、約20館ほどの映画館があったと言われている尾道市。しかし、時代の流れによって、次々と映画館が閉館していき、とうとう2001年には映画館が尾道市から姿を消す。様々な名作を生み出してきた“映画の街”と呼ばれる尾道に映画館がないという寂しさから、2004年に「尾道に映画館をつくる会」という任意団体を設立し、2008年に「 シネマ尾道 」を開館させる。今回、支配人の河本清順(かわもとせいじゅん)さんにお話を伺った。

尾道支配人の河本清順(かわもとせいじゅん)さん

◼︎ 開館までに、どのような道のりがあったのでしょうか?

──わたしは尾道から映画館がなくなった頃、京都から学生を終えて帰郷して数年後でした。自分の街に映画館がない、映画がみられないっていうのは本当寂しいなという想いがあって、なんとか映画館を作れないかなと思いました。それで映画館ってどうやったらできるんだろう…って、全国のミニシアターの中でさらに市民の人から募金を募って建てた映画館を中心にまわって調査をしたんですね。

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シネマJR尾道駅の様子

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尾道映画館の近くには海が広がる

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映画館を作るにあたって、ぶつかった壁

新潟・市民映画館 シネ・ウインドや大阪にあるシネ・ヌーヴォなど、全国のミニシアターを調査するなかで、人口が30万人ほどいる街ではないと、収支がつかず、1スクリーンが成り立たないという現実を突きつけられる。尾道の人口は当時15万人ほどで、経済的に映画館を経営していくにはあまりにも厳しい状況だった……。

──人口の少ない街って映画館って成り立たないから要らない、と思われているようで、すごい悔しいなという思いがしたんです。でも、いくつか調べていく中で、埼玉県の深谷市という街に、ちょうど尾道と同じ当時人口15万人で開館4年目を迎えている「深谷シネマ」というすばらしい映画館があったんですね。映画館の中身でいうとたった50席の狭いスペースに椅子を並べて、銀行の跡地を改装していたので銀行のスペースを利用したデザインをしていて、金庫室から映写するというすごく面白い仕組みになっていたんですね。こんな映画館のあり方もあるんだ、というふうに深谷シネマさんにいって、衝撃を受けて、こういう形であれば尾道でも成り立つのではないのかというふうに希望を感じました。それで尾道に戻って、映画館を作る活動を始めました。

こうして、映画館をつくる活動をはじめた2005年から開館までの4年間、大スクリーンでみんなで同じ映画をみて感動するという体験をもう一度思い出してもらおうと想いから、河本さんは駅前にある公共ホールや商店街で映画を映すという上映活動を行う。2ヶ月に1回の上映活動を繰り返していくうちに、映画館の跡地だった場所を大家さんが貸してくれることになり、市民から集めた2700万円を改装費にあて、2008年10月にオープンさせる。そして現在開館8年目を迎えている映画館だ。

シネマJR尾道駅から徒歩1分ほどにある、映画館の入り口。


 

小津安二郎『東京物語』の舞台・尾道にある映画館として

シネマ◼︎映画の街・尾道にある映画館ということを意識して取り組んでいることはありますか?

──尾道が映画の街といわれた由来の大きな1つで、『東京物語』という世界的に名作といわれている作品があります。そのロケが、ちょうど8月中旬の夏だったんですね。8日間のロケで撮ったんですが、映画の中でも季節は夏なんですよ。その映画の追体験をしてもらいたいという気持ちで、毎年夏に「東京物語」を上映するっていうことを続けています。是非、映画の街に生まれたんだっていうことを尾道にすむ子供達にも知ってもらいたいと思い、毎年学校などに呼びかけて、募集をかけて、ワークショップをしています。スクリーンで観るのは、すごくいいし、この尾道の街でみるっていうのが、他の街でみるよりも味わい深いと思いますね。

小津安二郎監督 『東京物語』

 


人と人との触れ合いが生まれる映画館

チケット販売を券売機で行うなど、人と人との接触がない中で映画を楽しむ場が進んでいる。しかし、従来の映画館では、スタッフと対面してチケットをもぎり、映画をみた後にロビーなどで映画館の人や、お客さん同士話すということが当たり前のように日常にあった時代があった。しかし、ここでは効率よりも人との触れ合いを意識し、館内では“お客様交換日記”を設けるなど、様々な工夫を凝らしている。また、トークショーも頻繁に実施されており、監督や役者が尾道にやってくる。映画の作り手は東京に集中しがちで、スクリーンの中にいる人は、地方にいる人たちにとっては「映画の中の人」。地方にいる人たちにもしっかりと、作り手の想いを言葉で伝えたいという想いから、できる限り実施している。お客さんとスタッフ、お客さんと映画の作り手、映画の作り手とスタッフ、それぞれの距離が近く、アットホームで温かみのある映画館である。

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尾道
尾道にある養護学校で作った手作りクッキーを販売している

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尾道
『百円の恋』の武正晴監督、女優の安藤サクラさんなどによるトークショーも開催。

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尾道
ロビーに置いてある“お客サマ交換日記”には様々な方からのカキコミがある。

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尾道
映画館の外には喫煙所スペースも。

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映画館で映画を観る意味とは…

◼︎映画館でみることと、家でみることの違いは何だと思いますか?

──映画館でみる醍醐味は、人と一緒にみることだと思います。人というのがまた他人でもあるし、一緒にきた友達だったり家族だったりというのもあるんですが、映画館っていきなり知らない人と座ってみるっていう、ある意味スリリングな体験で、すごく興奮することだと思うんですよ。家だと電気を暗くしても限界がありますし、色々な情報が入ってくる中で映画をみるんですけど、映画館っていう真っ暗なところで2時間映画っていうものに集中できるってこと自体が、今の時代とても幸せなことで、映画館で映画をみるってことは、家で見たりとかパソコンで1人でみるのと、同じ作品をみても全く違う体験だと思いますね。

★IMG_6686レディースデーのほか、メンズデー、カップルデー、外国人割引、障がい者割引、はしご割引、しまなみ割引など。割引制度が充実している。

 

“シネマ尾道”とは。

◼︎最後に、“シネマ尾道”とはどんな映画館でしょうか。

──尾道という街があってこその、映画館です。
尾道の街って、小津安二郎監督の『東京物語』のように他人でもこの街に住んでいるだけで家族のように思う街なんですね。なので、そういう雰囲気が、あったかい雰囲気がすごくいまの平成の現在の尾道にも、尾道の人たちの魂の中にあるんですね。この映画館もボランティアさんに支えられていたりとか、お客さんもちょっとでもお金を使おうという風に、ジュースを買ってくれたりとか、皆さんの「手伝う」っていう気持ち、尾道弁で「てごう」って言うんですけど、「てごう」するって気持ちで成り立っています。尾道の人たちに「てごう」してもらっているから映画館が成り立っているっていうのがすごく実感しているし、街の人たちの気持ちがなければない場所だなと思います。

尾道


 

おすすめラインアップ

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尾道

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【『ディアーディアー』舞台挨拶3DAYS! 】
4月10日 (日)14:30~上映後、出演・プロデュース 桐生コウジさん舞台挨拶
4月16日(土)17日 (日)14:05~上映後、菊地健雄監督舞台挨拶

【エミール・クストリッツァ特集@尾道スペシャルライブ】
「ジプシーのとき」上映前、ジプシー音楽ミニライブ ※日程調整中、お問合せください。

【『お盆の弟」舞台挨拶】
5月22日(日)12:20~上映後、大崎章監督、脚本・足立紳さん舞台挨拶


【4月以降の上映予定作品】

4/19:『ディアーディアー』『最愛の子』『ヴェルサイユの宮廷庭師』
4/16:『ニューヨーク眺めのいい 部屋売ります』
4/23:『ヤクザと憲法』『ハッピーアワー』
5/7:『シェル・コレクター』
5/14:エミール・クストリッツァ特集「ジプシーのとき」「アンダーグラウンド」「黒猫・白猫」  / 『ヴィオレット~ある作家の肖像』
5/21:『モヒカン故郷に帰る』『キャロル』『お盆の弟』
5/28:『断食芸人』
6/4:『殺されたミンジュ』『さざなみ』『草原の実験』『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』
6/11:『The Calling -神様から与えられたお仕事-』
6/18:『禁じられた歌声』

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公式サイト公式Facebookページ / 支配人 河本さんTwitter
〒722-0036 広島県尾道市東御所町6-2
電話&FAX 0848-24-8222
[email protected]


 

おまけ…

河本さんもイチオシ!尾道にきたら是非寄ってほしいおすすめスポットが銭湯を改装したカフェ「ゆーゆー」!JR尾道駅から徒歩5分ほどの尾道商店街のなかにある、100年続いた銭湯を改装して雰囲気を残したレトロなカフェです。尾道に来たら、是非寄ってみてはいかがでしょうか?

尾道

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シネマ店内は銭湯の雰囲気がそのまま残っている。

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尾道金ごまラーメン(850円)。元祖“尾道ラーメン”に金ごまを加えた「ゆーゆー」オリジナルだとか。

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ゆーゆー
〒722-0035 広島県尾道市土堂1-3−20
電話番号:0848-25-5505


 

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