2010年に公開され、日本でも大ヒットを記録したティム・バートンの代表作『アリス・イン・ワンダーランド』。その続編であり“はじまりの物語”『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』が7月1日より全国公開中だ。『シザーハンズ』や『スウィニー・トッド フリート街の悪魔の理髪店』、『スリーピー・ホロウ』、『ダーク・シャドウ』、『ビッグ・アイズ』など、ティム・バートンが生み出す作品全てに、多種に及ぶユーモアやメッセージ性が詰め込まれている。2014年には『ティム・バートンの世界』展も開催され、近年では彼の制作活動にも関心が集まっている。【監督・俳優のススメVol.23】では、“色彩とユーモアの宝庫”を持つティム・バートンの魅力に迫っていく。
暗めのトーンで統一された画面の向こう側にはなんとなく悲壮感が漂い、そこに適合しきれない奇抜なキャラクターはなんだか世界から浮いているような気、ざらざらとした違和感を抱きながら映画を見続けると最後、不思議と辻褄が合って感動が残る。彼の作品に対してこんな印象を持ったことのある人は多いのではないだろうか。では、そんなティム・バートンの世界が老若男女問わず多くの人から愛され続けるのは何故だろう。
■?膨大なイメージを背負わされたキャラクター
ティム・バートン作品にしばしば出演する俳優として、ジョニー・デップの名を知らない者はいないだろう。『シザーハンズ』、『チャーリーとチョコレート工場』、『アリス・イン・ワンダーランド』など今や監督のヒット作品には欠かせない存在となっている。その役柄全てに共通するのは、奇抜なメイクを多分に施されキチガイじみた衣装を纏うという点だ。
これは何も俳優がジョニー・デップである場合に限った話ではない。この監督の作品には毎度、お世辞にも普通とは言えない人間離れしたキャラクターたちが登場する。ビジュアルイメージは200点、と言っても過言ではないほど綿密に作り込まれた数々のキャラクターは一見、個性も自我もきちんと持っていて非常に強そうだ。しかしそんなものはイメージにすぎなくて、彼ら各々の弱みは物語が展開するに連れ過去に負った深い傷として明らかにされてゆく。バートン作品お決まりの流れだ。
彼の映画に出てくるキャラクターは皆、見た目に寄らず傷つきやすい。この、奇抜に外見を着飾りながら真の姿を誤魔化すことでしか解放され得ない彼らは、純粋な虚構世界の住人である一方、わたしたち人間の紛れもない映し鏡でもある。何をやったって現実は厳しい、ならば自作自演の虚像を生きよう、真実なんて自分自身に対してすら秘密のままで、、そんな人間の深層心理が根底に感じられるからこそ、この監督の生み出すキャラクターはどうしようもなく人間くさい。ティム・バートンという監督は、非現実に現実を投影すべく、キャラクターを大袈裟なまでにデフォルメしてイメージ豊かに描きあげるのだ。この点において彼の右に出る者はいないかもしれない。
■?ダニー・エルフマンの音楽
1985年、バートンが『ヒーウィーの大冒険』にて作曲家エルフマンを起用して以来、バートン作品のほぼ総てで音楽を担当しているエルフマン。バートン同様ホラー映画から深く影響を受けていると同時に、独自の世界観を持ったアウトサイダー的な感性も似ているのだという。“監督が求める音楽を書けたときはダイヤモンドを掘り当てたような喜びがある”というエルフマンの音楽は明らかに、作品イメージの形成に多大なる貢献をしているだろう。彼の曲は雰囲気の振り幅が広い。想像力を掻き立てるオーケストラの旋律は、ときに絶望的でときにエモーショナル。「この場面をこう受け取って欲しい」という監督の意図がさりげなく表出するポイントの1つで、その働き方は実に秀逸である。
■?CGを使用した空間づくり
各所で多分にCGを用い、画面の中に完結させられたバートン流ファンタジーの空間。夢みたいな道具や小物や建物その他目に飛び込んでくるものたちはあまりに現実離れしていて童心を擽られる。けれど彼の作るファンタジー空間は、軽やかで明るいそれではなく重苦しくて暗い場合が多い。
『アリス・イン・ワンダーランド』でアリスが迷い込むカラフルな世界はくすんでいて彩度が低い。『スウィニー・トッド フリート街の悪魔の理髪店』の舞台フリート街は、白と黒を基調としていて不穏な空気が充満している。彼の描くファンタジーはただの“お花畑”ではない。これは監督自身が幼少期から親しんできた作品にホラーが多かったからだとも言われているが、バートン流ファンタジーはどれも、現実を超越すらし得る鬱屈さを内包した虚構なのだ。その上で細部まで緻密に作り込まれているからこそ各キャラクターたちが生き生きと見えてくる。
?ここまで、キャラクター、音楽、空間に着目してバートン作品を見てきた。彼の作品は一貫して、“イメージ”作りにぬかりがない。あらゆる要素を完璧に使い果たして現実から遠く離れたイメージの中で以って過酷な現実を確と提示する。それは、リアリストであろうとすればするほど傷付かざるを得ないこの社会で、だからこそ分厚いフィクションを身に纏うよう強いられてしまう、そんな時代が生み出した必然とも言えるかもしれない。誰もが孤独なのだ。ナイーブなのだ。“イメージ”を求めているのだ。そしてそれらは生きていれば皆抱えてしまう問題なのだ。けれどそんなことは普段敢えて口にすることもできなくて、だからこそ現実に根差すことから決して外れないバートン作品のファンは絶えないし、世代を超えて共感され、愛される。そうやってティム・バートンは今後も、様々な人間を救い続けることだろう。
シリーズ最新作『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』は、悲しい過去に心を奪われ、帰らぬ家族を待ち続けるマッドハッターを救うため、時間を遡るアリスの冒険を描くファンタジー・アドベンチャー。チェシャ猫や“赤”と“白”の女王といった人気キャラクター達の幼年期の驚くべき<秘密>も明らかになる。大人の女性へと成長した主人公・アリスを演じるミア・ワシコウスカはじめ、マッドハッターのジョニー・デップ、白の女王のアン・ハサウェイ、赤の女王のヘレナ・ボナム=カーターら豪華キャスト陣が再集結する。
映画『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』は7月1日(金)より全国ロードショー
【CREDIT】
製作:ティム・バートン 監督:ジェームズ・ボビン
出演:ジョニー・デップ/アン・ハサウェイ/ミア・ワシコウスカ/ヘレナ・ボナム=カーター
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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