【特集】受け継いだのはディズニーとジブリの心 -ピクサーの2つの原点-

ファインディング・ドリー
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ピクサー・アニメーション・スタジオの最新作『ファインディング・ドリー』が絶賛公開中だ。ピクサーは創設時からディズニーの助言や影響の下で制作を行い、現在はディズニー・スタジオの一つである。しかし、実はスタジオ・ジブリの影響も強く受けていることをご存知だろうか。今回はそんなピクサーの原点に迫る。


一度ディズニーをクビになった男、ジョン・ラセター

トイ・ストーリー』などの作品を初めとして、近年では『インサイド・ヘッド』が第88回アカデミー賞長編アニメ賞を受賞したことも記憶に新しいピクサー・アニメーション・スタジオ。

ジョン・ラセター
出典:http://www.huffingtonpost.jp/2014/11/23/john-lasseter_n_6209076.html

創業者のジョン・ラセターは、幼い頃から憧れていたディズニー・アニメーション・スタジオに24歳で入社。映画『トロン』(1982)のCGに衝撃を受け、上司に幾度となくその熱い想いを伝えた。しかし、CGに仕事を奪われることを危惧した社内の反発により、ラセターは解雇されてしまう。その後、『ジュラシック・パーク』などの映像制作として有名なILMのコンピュータ関連部門を前身として、ラセターとスティーブ・ジョブズ、アンドリュー・スタントンらが共に立ち上げたのがピクサーである。

ラセターは『トイ・ストーリー』(1995)やその後の同シリーズ、『カーズ』(2006)などを監督し、『モンスターズ・インク』(2001)など他のピクサー作品にも製作総指揮として携わっている。ピクサーがディズニーに買収された際には、ピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオ両方の現場のトップであるCCOとして返り咲いた。一度低迷したディズニー・アニメの再編にも貢献し、『アナと雪の女王』や『ベイマックス』、『ズートピア』にもエグゼクティブ・プロデューサーとして携わっている。

ピクサーは、CGなど映像面にフォーカスされることもしばしばだが、そのアニメーション作りは、ウォルト・ディズニーの「物語」を最も重要とする考えに基づいている。ピクサーは1作の制作に3〜4年かけ、そのうち4分の3をストーリーに費やす。また、CGで描く以前に、アナログな作業に多くの時間をかけることもピクサーの特徴だ。最新のデジタル技術だけではなく、膨大な手書きのスケッチ、キャラクターの粘土模型などを用いている。


目指したのは「カリオストロの城」!?

ラセターは、スタジオ・ジブリの熱烈なファンであることも知られている。1980年代初め、あるアメコミのアニメ化が日米合同で進んでおり、これが宮崎駿とラセターが出会うきっかけとなった。まだアメリカのアニメというとディズニー風のものしかなかったその時代、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)を観たラセターは大きな感銘を受けた。複雑なストーリーや手に汗握るアクション、大人の鑑賞に堪えるロマンス、ユーモアに「自分の目指すべき目標はここにある」と強く感じたそうだ。

ラセターは特に、自身の作品作りにおいて“スピード”に影響を受けたそうだ。作品の冒頭で、ルパンがゆっくり雲の流れを眺めるシーンから、急にカーチェイスへ切り替わる緩急の素晴らしさを賞賛している。また、『トイ・ストーリー』10周年に際した創設メンバーでの座談会からも、ジブリの影響を受けたことが伺える。アニメーション監修のピート・ドクターは「アニメーション作品は、それまでほぼ例外なくミュージカルでありおとぎ話だった」と述べており、脚本のアンドリュー・スタントンは、「(ミュージカルやおとぎ話という)因習を打破しようとやる気にさせた」と続け、ラセターも「子供と同様に大人も楽しめるものを目指した」と語っている。

このように、ピクサーのアニメーション作りの中には、ディズニーとジブリの二つのスタジオの心が現在に至るまで脈々と受け継がれ、それが素晴らしい作品として結実してきたのである。


ピクサーとジブリの絆

今年でスタジオ設立30周年を迎えることを記念し、東京都現代美術館にて『ピクサー展』(長崎県美術館では2016年7月27日より開催)を開催したが、ピクサーとジブリの交流も、初めてラセターが「カリオストロの城」を観た時から30年続いている。

ジョン・ラセター
出典:http://www.eigaland.com/topics/?p=3220

ピクサーのロゴでお馴染みの作品『ルクソーJr.』(1986)が広島国際アニメーションフェスティバルで受賞した際や、『トイ・ストーリー』の日本公開時もラセターはジブリのスタジオに訪問している。そうした交流から、宮崎駿監督作『千と千尋の神隠し』でアメリカ配給版の英語吹き替え総指揮を務めた。また、アメリカ国内の宣伝活動への協力など、ジブリを海外に広める橋渡し役としても活動してきた。ラセターはジブリの作品と制作者に最大限の敬意を表し、どんな小さな場面でも削除や変更を許さなかったそうで、スタジオ・ジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫は「その姿はまるで、自分以外には誰にも触らせない、というジブリの守護神であるかのようでした」と語っている。

六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで現在開催中の『ジブリの大博覧会〜ナウシカから最新作「レッドタートル」まで〜』でも、ラセターと宮崎駿、鈴木敏夫の3人の写真が多く展示されている。気になった方は是非とも足を運んでみることで、3人の仲の良さを伺い知ることが出来るだろう。

ピクサー最新作『ファインディング・ドリー』は7月16日(土)より絶賛公開中

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